3話目・
◇◇◇
「なぁ、ちょっと煽られただけで飲めない酒を飲んでぐでんぐでんに酔っ払ったあげく護衛の仕事を放棄したクソザコ女。素手で背中向けてた相手に斬り掛かって返り打ちに遭った気分はどうだい?」
「━━殺す」
「あ? んだテメェ? 上等だよ、装備着終えたらもっかい掛かってこいよ。今度こそ脳天カチ割ってやっからよぉ!」
「殺す! 殺す殺す殺すっっ!!」
闘争心をむき出しにするクレアベールを、ライゼンが煽る煽る。
「やめなさい、クレアベール。ライゼンさんは貴女の代わりに徹夜で私たちの護衛をしてくださったのですよ。そんな方に対してその態度はなんですか」
「しかしエルお嬢様!!」
「しかしもお菓子もありません。やめなさい」
「ぐぅぅ……!!」
ギリギリと奥歯を鳴らして怒るクレアベールに、エレクセリアはため息を吐いた。
護衛としては優秀なのだが、頭に血が昇りやすいのが玉にキズなのだ。
「俺は別に、いくらでも掛かってきてくれていいけどな。それとお嬢ちゃん。一応言っとくが、アンタも酒は控えといたほうがいいな」
飲ませた俺らが言うのもなんだけどな、とライゼンは困ったように続ける。
「あんまり詳しいことはアンタの名誉のために言わないが、アンタやそこのクソザコ女が全裸で寝てたのは、アンタが服をぐいぐい引っ張って脱がせたからだぞ。おかげで俺は夜通し壁とにらめっこするハメになっちまった」
「な、なんですって……!?」
「あと、酒場でも脱ごうしてたのを抑えてふたりを担いで帰ったのはクジラのやつだからな。あとでお礼言っとけよ」
エレクセリアは服を着ながらガックリとうなだれた。
嫁入り前の淑女にあるまじきはしたなさだ。
穴があったら入りたい。
「ああ、それと、ハレルヤとクジラは朝イチでアンタのじいさんの墓に行ってるからな」
「えっ!?」
「昼飯は外で食って、夕方には帰ってくるらしい。お嬢ちゃんたちが着替え終わったら俺らも飯にしないか? 昨日あれだけ食わせてもらったが、ずっと起きっぱなしで腹ペコなんだ。なんでもいいから、飯が食いてぇ」
そう言われると、エレクセリアもお腹が空いていた。
クレアベールに伝言を頼むと、食堂のコックに簡単な昼食を作ってもらうことにした。
部屋から出ていったクレアベールを見送ると、ライゼンがイスから立ち上がりエレクセリアに歩み寄った。
「ここの飯は、報酬の一部先払いってことでいいかい?」
「はい。……あの、昨日のことをほとんど覚えていないのですが、本当に私のお願いを聞いてくれるのですか?」
「お願い、ねぇ? まぁなんでもいいか、きちんと報酬が出るんならな。ギルドを噛ませてない分、仲介料は浮くんだろ? 期待してるぜ、お嬢ちゃん」
「はい、それはもちろん。ゼニール商会の名にかけて」
ライゼンが、右手を差し出した。
握手をするのだと、エレクセリアも理解した。
「じゃあ、あらためて。ライゼンだ。ハレルヤとクジラともども、よろしくな」
「エレクセリア・ゼニールです。こちらこそ、よろしくお願いします」
ガッチリ握手をすると、ライゼンの手が予想以上に硬くゴツゴツしていて、エレクセリアは少しだけ驚いた。
「ライゼンさんは強いんですね」
そんな言葉が、自然と口から出る。
「あぁ? まぁ、それなりにはな」
「ご謙遜をなさらずともよろしいのですよ。クレアベールを軽くあしらえるのですから、かなりの技量をお持ちなのでしょう」
「クレアベール? ああ、あのクソザコ女ね。いや、アイツそんなに強くないだろ」
「いいえ、彼女はゼニール商会で雇っている護衛の中でも三本の指に入る手練れなんですよ?」
エレクセリアが、自慢げに語る。
「生まれつきの天恵と神の加護を持ち合わせ、有用な技能をいくつも所持しています。私の護衛につける女性としてなら、ダントツで一番なんですから」
「へぇ、あっそう」
「……ライゼンさん、なんだかクレアベールに冷たくないですか?」
「お嬢ちゃんは俺に対して偉そうにしないけど、あのクソザコ女は弱いくせに偉そうだからな。俺は俺に対して偉そうなヤツが嫌いなんだよ。口先だけのヤツなら余計にな」
「……いくらなんでも嫁入り前の淑女に対して、く……、その、……く、クソザコ女、だなんて!」
あまりに恥ずかしくて、エレクセリアは顔が火照るのを感じた。
この人は、なんて下品な言葉を使うのだろうか。
「淑女? 一般的な淑女ってのは殺すって連呼しながら殺意を向けてくるのかよ」
「それはライゼンさんが煽るからですよ! とにかく、クレアベールのことをもう少しきちんと呼んであげてほしいです」
「それは、あの女の態度次第だよ」
そこまで話していると、クレアベールが帰ってきた。
エレクセリアに、食堂でコックが待っていることを伝える。
「おい貴様」
「……んだよ、クソアマ」
「エルお嬢様の依頼が終わったら貴様は必ず八つ裂きにしてやるが、それはそれとして今はお嬢様の顔を立てて大人の対応をしてやる。ワタシは優しいからな」
食堂はこっちだついてこいというクレアベールの背中に、ライゼンは蹴りを入れた。
そのまま取っ組み合いを始めたふたりを見て、エレクセリアは小さくため息を吐いた。




