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2話目・


 テメェ、面倒なのは御免だぞっつったろーが、とライゼンはハレルヤを睨んだ。


 ハレルヤは、黙って最後まで聞きなよという意味の視線をライゼンに返す。


 先ほどから黙ったままだったクジラが、ゆっくりと口を開いた。


「エレクセリアさんは、お祖父さんの死を疑っておられる」


「……死因は?」


「溺死だそうだ」


「状況は?」


「ひとりで馬車に乗っていたところ、馬車が川に落ちてそのまま、だそうだ。目撃者もなし。現場の状況からは事故だと断定されている」


 どんどん怪しい臭いがしてくるな、とライゼンはイスの背もたれに体を預ける。


「……お祖父様は高齢でしたが、まだまだ健康で身体もよく動きました。馬車の操作も達者でしたし、落ちた川も、普段のお祖父様なら通らない道沿いにあるんです」


「それなのに、事故だと断定されたのには何か理由があるのですか?」


 ハレルヤの問いに、エレクセリアはうつむいた。


「王都の警備隊が捜査をしたのですが、彼らは事故だったの一点張りで詳しい話を教えてもらえず……、それに、お父様も叔父様もそれ以上の捜査をさせようともせず、すぐに葬儀をしてお祖父様を埋葬してしまいました」


「なるほど。エレクセリア嬢は、父親と叔父の両方を疑っておられるのですね」


「っ! 何を!?」


「目は口ほどに物を言うのですよ、エレクセリア嬢。父親と叔父のことを話したとき、貴女の目は不安と不信感でいっぱいでしたよ」


 ハレルヤが緩く微笑んだ。


「詳しくは分かりませんが、貴女には父親と叔父を疑うに足る理由があるのでしょう。そして仮定とはいえ肉親を疑っている現状が貴女にとっては耐えがたく、真相をはっきりさせたい、と考えておられる。だからお祖父様の墓を暴いて遺体を調べ、胸の内の疑念を晴らすべく、我々に依頼をしたい、と」


 エレクセリアは驚愕した。

 まるで心の内を見透かされているみたいに、自分の考えを読まれたからだ。


「さて、ライゼン君。どうする?」


「……少なくとも、ギルドに出せる依頼ではないな」


「そうだね。それで、どうする?」


 ライゼンが恨めしそうにハレルヤを睨む。が、ハレルヤはニコニコ笑っていた。


 やがてライゼンが、つまらなそうにため息を吐いた。


「……まずは、ここの酒代と飯代だな」


「え?」


「カネは持ってるんだろ。何をどうしていくかは明日以降考える。前金代わりに、今日はこれ以上ビールがぬるくなる前に飲ませてくれ」


「あ、は、はい!」


「よし、皆ジョッキを持って。はい、エレクセリア嬢も。クジラ君、音頭を」


「おう。ゼニール家の繁栄を願って、」


「ね、願って!」


 かんぱーい! と、エレクセリアは、場の流れに身を任せて、生まれて初めてビールを飲んだ。



 ◇◇◇




「う、うーん……?」


 まぶたを開けば、見慣れた天井が目に入ってきた。

 ここは祖父が住んでいた家の、エレクセリアのために用意されていた部屋だ。


 2か月前に祖父が亡くなってからも、エレクセリアはハウスキーパーたちにお願いして、そのまま住み込みで家の管理をしてもらっていた。


 祖父が亡くなったことをまだ心のどこかで受け入れられていないのも理由のひとつだが、一番は、この家のどこかに祖父の死の真相に繋がる何かがあるかもしれないと、そう思っているからだった。


 おかげでベッドはいつもきれいなままだ。


 だからか、いつになく気持ちよく眠ることができたと思う。

 祖父が亡くなってからというもの眠りが浅くなってしまっていたのだが、今日はとてもよく眠れた。

 

 カーテンの隙間から射し込む陽射しはすっかり高くなっている。

 外は今日も春らしい陽気のようだ。


 窓を押し開ければ気持ちの良い風も入ってくることだろう。


 そういえば、昨晩はどうやってこの部屋に帰ってきたのだろうかと、エレクセリアは思い出そうとするが、なかなか頭が回らない。


「クレアベール? どこー?」


 エレクセリアは、いつも自分を守ってくれている護衛の名を呼んだ。

 だいたいいつも部屋の壁際にいるのだが。


 エレクセリアは、むくりと身体を起こした。

 きれいな栗色の髪がさらりと流れる。


「クレアベール? ……あれ?」


 ふと、ベッドの中に自分以外の誰かが寝ていることに気付いた。シーツをめくってみると、なんと護衛のクレアベールが、全裸で眠っているではないか。


「なんで一緒に寝てるの……?」


 そして自分の姿を見下ろして、さらに驚く。

 なんと自分も下着一枚身に付けず、全裸ではないか。

 パンツすら履いていなかった。


 エレクセリアは寝るときはパジャマ派なのだ。

 全裸など、バスルーム以外ではあり得ない格好だった。


「へ、なんで、これ……!?」


「お嬢ちゃん、起きたか?」


「っ……!?」


 壁際から男性の声が聞こえてきて、エレクセリアの心臓が大きく跳ねた。


 慌ててそちらを見ると、壁際でイスに座り、こちらに背を向けている黒髪の若い男がいた。


「着替え、この家のオバチャンがベッドの横に置いてくれてるぞ。さっさとそこのクソザコ女も起こして、ふたりとも服を着てくれ。いつまでも壁を見てるのは、退屈で死にそうだ」


 男が、いたのだ。

 自分も頼れる護衛も、全裸で寝ていた部屋の中に。


「おい、聞いてるのか? 早く服を、」


「━━きゃ、」


 その直後、家中にエレクセリアの悲鳴が響き渡り、飛び起きたクレアベールがライゼンに斬り掛かった。


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