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吸血姫ちゃん、格差社会を知る

一人称で書くのけっこう難しいですね。なり切るんだ、シシィ様に!



 なんてことだ。なんてことなのだ。2000年という歳月は、私の想像を絶する文明の進化がされていた。私は自分の身体が幼くなってしまった問題も棚に上げ、ソフィーの説明に興奮と落胆を繰り返し、未知の魔導機械や食物に次々と興味を移されていった。


「ところでソフィー、ここは一般的な庶民に与えられる家なの?」


 かっぷらーめんなる不思議な食べ物でお腹を満たして、私は改めてソフィーの家を眺めた。家というよりも狭いそれは部屋だ。当時の記憶を思い返しても、国の安宿の部屋よりも狭い。魔導機械がある分設備としては悪くないけど、ベッドもないし離れとか倉庫、小屋とかの方がしっくりくる。


 床材に使われているのは葉の長い植物を固めた作られたもののようですし、やっぱり馬小屋なのではないの?


「……一般的、ではないか、な?」


 額に粒の汗を滴らせて、ソフィーは歯切れの悪い物言い。どうせ私が理解しやすい言葉で説明しようと考えているのだろうと、人間は汗とかかいて不便ねとか、決して目を合わせようとしないソフィーを観察しながらどうでもいいことを考えて彼女の説明を待った。


「人族の中でも、最底辺の暮らしだと思います。あはは」


 ソフィーは困り笑顔でそう答えた。そのあと、人族に伝わる最大の謝辞を伝える『DOGEZA』の姿勢ですごい勢いで弁明を始めた。


「まずですね。何をするにも魔導機械の操作が前提になっている社会の仕組みが人族には向いていないというか、まあそれでも才能がある人はそれなりの企業に勤めてサラリーマンしたり私の同級生もOLとかやってくれっちゃてますけどその普通にも最低限の魔力量とか器用さとかがいると言いますか。飲食店とかで働く道もあったんですが有名どころは妖精族とかマーメイド族のキレイどころしか採用されないみたいな裏情報が流れて来て人族のそれなりが雇ってくれるところはアルバイトと扱い変わらないからそれならフリーターでもいいかなって人生舐めてましたすみません!」


「悪いんだけどもう一回お願いしていい?」


 ソフィーの懸命さを汲みたいところでしたが、早口の上にところどころに理解できない言葉が混ざっていて半分も理解できなかった。もう一度チャンスがあれば不明瞭の言葉だけを除いて覚えて、単語の意味を質問しながら聞き返せば完璧に理解する自信がある。


「もう一回言うのは、その、私の自尊心とかがガリガリと削られるので勘弁してください」


 またも『DOGEZA』の姿勢になってしまった。その後、彼女はたどたどしくも自分の置かれている状況を話してくれた。


 内容をまとめると、どんな職種に就こうにも魔導機械の操作が必要不可欠なのだそうだ。技術は日々進歩し、魔力のエネルギー変換効率は上がってきているらしいが、それでも一日に何時間も魔導機械を動かすのは人族には負担が大きく、まとめに働けない。


 魔力を使わない仕事もあるが肉体系は獣牙族リザード族に敵わず、芸能は妖精族や悪魔族に敵わず、種族的な特性のハードルが高いそうだ。


 それでも人族の中にはまともに働けている者は多く、年々子供たちの保有する魔力総量は上がってきていて、企業という集団で何か物を作ったり、売ったりする集団に属して生計を立てたり、個人の発想や才能で金や人材を集めて自らがシャチョウというトップになって働いている者もいるらしい。


 だけどソフィーのような魔力量が人族の平均よりも少ないと就ける職種がかなり限られてしまい、本人の気質によって魔力に依存しない職種とも相性が悪く、働く時間を調整できる日銭を稼ぐような生活を送っているそうだ。


「お屋敷勤めというものもないの?」


「ないことはないと思いますが、ハロワやバイト雑誌で募集を見たことないっすね」


 私に仕えていたのだからソフィーは侍従としての才能はあると思いましたが、そういう職種は伝手が必要なのだという。


「なので、その、めちゃくちゃ申し上げにくいんですけど」


 もはやそれが自然とばかりに『DOGEZA』になる。


「シシィ様には、2000年前のような生活はさせられないと思います。私だけでも今の生活カツカツなんです」


「そんなこと? 無い袖は振れないのだから仕方ないじゃない。あなたの貧乏を責めたりしないわよ」


「でもその、お風呂とかも不便っすよ? 近くの銭湯までいかないとですし」


「湯浴みのことよね? 確かに2000年前は贅沢だったけど、吸血鬼に発汗とかないから本来必要ないわ」


 わざわざ水を温めて日に二度くらいはソフィーに言われて入浴していたけど、あれの目的は身体を清めるもののはずで、人間と違って発汗や排泄もないから必要がない。


「食事もカップラーメンばかりになってしまいますが……」


「さっき食べた変わったパスタよね? あれも不思議な味で美味しかったから構わないけど」


「え、その、美貌のために栄養偏ったりしません?」


「私、不死だから。他種族は摂取しないと生体活動を維持できないでしょうけど、吸血鬼は最悪お腹さえ膨れれば何でもいいの。魔力の回復に役立つからお肉とかは好きだけど」


「……そういえば、ニンニクって平気なんっすか?」


「臭いは好きじゃないけど料理したものに入ってるくらい平気よ。丸かじりにしたりしないでしょう?」


「それは人族でもキツいっす!」


 その後もソフィーは吸血鬼についてあれこれ質問をしてきた。太陽の光は大丈夫なのか? 流水は渡れるのか? 十字架は平気なのか? 鏡には映らないのか? 銀の銃弾で殺せるのか? 心臓に杭を打ち込めば死ぬのか? 


 答えとして、太陽の光は当然平気。何? 灰になるって? 燃えやすいってレベルじゃないわよ。その生物。流水は普通に渡れる。川とかどうするのよ? 十字架が平気ってどういう意味? 特定の形を見えただけでダメージを受ける種族なんて生物として不便だと思うのだけど? 鏡に映らなかったらどうやって身支度を整えるというのよ。吸血鬼、中でも私は吸血姫。美貌を誇った女王なのに。


 銃弾くらいでは多分死なないわ。普通に痛いとは思うけど。あと心臓に杭を打てばってやつは、逆にそれ平気な種族いるの? 竜族でも鱗で守られているとは言え、心臓貫かれたら死ぬわよ。私は死なないけど。


「えっと、吸血鬼って無敵じゃないですか? どうして滅んだっすか?」


「私が聞きたいのよねー」


 死のうと思っても簡単に死ねない完全無敵の支配種族なのに、一体どうやって殺されたもしくは死んだのだろうか? 私が聞きたいくらいだ。


「2000年で吸血鬼の認識が大きく歪んだみたいね。グールとかアンデッドと同類とでも思っているのかしら?」


「はい。世間ではそういう扱いっすね」


「はぁあああああ。今日目覚めて一番ショックかもしれないわ。誇り高く美しい種族の私たちが、半分腐っている死体モドキと同類だなんて。眷属にして足りない労働力を補ったりはしたから無下にはしたくないけど」


 ソフィーから追加で得た情報によれば、吸血鬼ばかりかグールもゾンビもすでに創作物の中でしか描かれない存在なのだという。リビングデッドのような死者を操る魔法自体は存在するが、倫理という決まりで使用を禁じられているそうだ。


「話が逸れたわね。贅沢な生活ができないのはこの通り問題ないわ。わかった?」


「はい。私としては助かるっす」


「でもそうね。あなたにあまり貧しい生活をさせるのは気が引けるわね」


 ソフィーの格好は年ごろの女性がするにしては魅力がなさすぎる。人族だから汚れるのは仕方ないとしても、常に清潔にするくらいの心持ちがなければ意中の男性に振り向いてもらうこともできない。


「いや、その、興味ないことはないですが、好きな人とかいないっすし。そもそも出会いもないっす」


「あなたの娘がいないとソフィーが途絶えて私も困るわ。私はソフィー以外の侍女は嫌よ?」


「それは、なんか照れるっす。ありがとうございます」


「でも先立つものがなければ仕方ないわね。ダンジョンでも潜ろうかしら?」


 一つ壊してしまったけど、あそこで見つかる宝箱からはそこそこ値のする道具が出てくる。それを売れば多少はソフィーの貧乏を改善できると考えたのだけど、ソフィーはすごい気まずそうな顔をしている。


「もしかして、ダンジョンもなくなっちゃった?」


「いやいや! ダンジョンはあるんですけど、あそこ潜るのには許可もいるし、多分シシィ様が考えてるダンジョンではなくなっています」


「え? ダンジョンってモンスターが自動ポップする財源であって食糧源じゃないの?」


「今のダンジョンは興行なんです。ライセンスを持ったプロがモンスターとの戦いとか冒険の様子を楽しむ、娯楽っすね。かなり前に宝箱のポップとかがなくなって、今は魔法で固定化させたとかで中で死んでも平気なった代わりにアイテムとかも持ち帰れなくなったそうっす」


 2000年前は財源がヤバいとなるとダンジョンの一つや二つを制覇して金銀財宝をかき集めて、モンスターを狩りまくってその肉を食糧として振舞っていた無限装置が、よもや群衆を楽しめる見世物娯楽になってしまうとは、時の流れというのは本当に恐ろしい。


「でも、ダンジョンに潜ればお金は稼げるのよね? なら私が行って稼いできたあげるわよ?」


「そのう、ダンジョンに潜るためのライセンスには、その先立つものがたくさん必要でして……」


 『DOGEZA』をしながらソフィーは答える。別に意見を否定されても怒らないのだけど、このソフィーは私をどういう風な性格だと聞いているのか。


 何はともあれ、ダンジョンでお金を集めようと思えば、そのダンジョンに行くのにもお金が必要らしい。2000年経って複雑になったこの世にため息をついた。

9/9記載

ここまでの読んでいただきありがとうございます。

一人称での書き方に挑戦したのですが、何とも難しい。でも会話を多くできるというメリットもあるのかなーと。

面白いと思っていただければブックマーク、評価、感想のコメントをよろしくお願いいたします。コメディを書く時ちょっとテンションを上げて書いているので、反応もあるとすごく捗ります。

別シリーズ『お嬢様の犬』も同時刻に更新しています。そちらもよろしくお願いします。

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