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吸血姫ちゃん、時の流れを知る

 ひとしきりの絶叫に落ち着いた両名は、ようやく顔を突き合わせて話を始めた。説明する側のソフィー(仮)も動揺のためしどろもどろに説明をしたが、話している内に落ち着きを取り戻していき、シシィはようやく自分の置かれている状況を把握しつつあった。


「というわけで、今はシシィ様がお眠りになってから約2000年ほど経っていまして、私はそのおばあちゃんとお母さんから一応その棺桶とシシィ様の話は聞いてます。一応100代目ソフィーになります」


「ちょっと待ちなさいね。情報の多さに頭痛がしてきたわ」


 曰く、2000年の間眠っていたこと。曰く、同族たちはシシィが眠った数年後くらいに滅んだらしいこと。曰く、今は他種族が手を取り合って生活する社会が出来上がっていること。曰く、シシィの目覚めを待つためにソフィーが代々棺を受け継いでいたこと。


 少女がソフィーであったことに多少安堵したが、言葉遣いもたどたどしい彼女を見れば、長い時が過ぎ去って侍女としての教育も失われてしまったのだろうと想像できた。これについてはシシィは流石に責められない、寧ろ短命の人間という種族で、2000年の間よく自分の起床を信じて受け継いでくれたと感謝しかない。


(そうね。まずは挨拶をすべきではないかしら)


 100代目のソフィーと名乗った少女は、あの日からシシィのためにその名も受け継いでくれていたのだ。すでに目の前の彼女がシシィに対する恩はもうない。それなのに、このソフィーも従者として自分に接してくれている。


「はじめまして、100代目のソフィーよ。私はシシィ・フォン・バイエルン。至高なる吸血姫である」


 姿は幼くなり、かつての威光や魅力はない。ブカブカの赤いドレスの裾を掴んで挨拶する姿は、少しませた幼女にしか見えないだろう。


「あ、れ?」


 しかしその所作は優雅で、ソフィーの目には一瞬美しい貴婦人の姿が幻視された。艶のある黒い髪、微かに濡れたように見える大きな赤い瞳。今日初めて見た姿のはずなのに、シシィ様が目の前にいることを実感して胸が熱くなって、理由がわからず涙が零れた。


「今日までよく私に仕えてくれました。まずは労いの言葉をって、何で泣いてるのよ」


 ボロボロと号泣するソフィーに苦笑して、いつもの癖でその髪を梳いてやる。最後に見た姿と変わらない黒い髪は、その触り心地もよく似ていた。


「なんか、とても懐かしいです」


「そう? 血が覚えているのかもしれないわね。こうしてよく撫でてあげていたのよ」


 ソフィーはこれでも18才である。傍目から見て10歳にも満たなそうな幼女に慰められているようなスタンスは中々に恥ずかしい。なのに、それを嫌だとは思えずされるがままに受け入れてしまっていた。


「……それで今後のことなんですけど」


 その後5分程してようやく涙が引いて、羞恥で赤くなった顔のままシシィに向き合う。シシィに会ってから自分の感情を上手く制御できていないが、目先の問題は色々多い。


「そうね。まずは私が復活したことを発表しないといけないわ。劣等種たちも支配者たる私の姿を早く拝みたいでしょうし」


「……すみません。ちょっと待ってくださいね」


 またも頭を抱えて固まるソフィー。シシィは不思議そうに見つめる。


「まずは、実際に色々見てもらった方が早いっすね」


 おもむろにノートPCの電源を点けた。色々型落ちして安く手に入れたありふれたノートPCである。


「な、なんですかこの板!? え? ソフィー絵が動いてるわよ! あなた魔法を習得していたの!?」


「ははは、なんていうか定番の反応してもらえてうれしいっすよ」


「2000年でここまで魔法が発達しているなんて、悪魔族か妖精族の魔法開発を甘く見てたわ」


「いや、これ科学なんです。魔力は動力のエネルギーくらいですね」


 魔力電動力学が確立されたのはすでに300年以上前で、そこから急速な技術開発が進んで微弱な魔力しか持たない人間や獣牙族でも使用できる魔導エンジンを搭載した電気製品がたくさん発売されている。もうこの時代は面倒な魔法式や魔力の使い方を覚えなくても、大体のことを機械を使えば済む。


「このように、火も簡単に起こせます」


 魔導コンロを捻る。カチカチと音が鳴って青い炎が着火する。さらに水道や冷蔵庫、上の電灯もソフィーの微弱な魔力によって動いていると説明すれば、シシィは目をキラキラさせて夢中にそれらの機械を観察していた。


「なんてことなの。これが機械文明」


 ひとしきり楽しんだ後、ガックリと肩を落とす。刺激が欲しいと求めていたが、自分の統治していた時代よりも明らかに発展している。ちょっと傷つく。

 

「あと、窓の外を少し見てもらいますか?」


 今度は窓を開けて、少し遠くに見える摩天楼を指さしていく。都内であれば何も珍しくない、遅くでも働いているためビル群からは明かりが漏れ、綺麗な夜景を作りだしている。


「あれも城でも貴族の家でも何でもない職場だったり、マンションつまりはただの広い部屋がたくさんある集合住宅みたいなものなんです」


「……貴族でも何でもない劣等種が、あんな立派な家に住んでいるというの?」


 ソフィーのたどたどしい説明を懸命に飲み込んで、シシィは眩暈がした。さらに続けられた経済や政治の仕組みに、シシィは血の気が引く。


 ミンシュシュギやシホンシュギという言葉の意味はわからないが、吸血鬼時代と異なり支配種族を作らず平等な権利を与えられた生活が送れているなんて信じられるわけがない。竜族や悪魔族が支配しているとばかり。


「……ッ!?」


 ぐぅーと可愛らしいお腹の虫が鳴り、シシィは赤面してお腹を押さえた。考え過ぎたからか、2000年間絶食していた身体は栄養を求めて活動を再開した。


「ははは、ご飯にしますか」


 その可愛らしい姿に和みつつ、ソフィーはお湯を沸かし始めた。沸かしながら、庶民の食べ物が口に合うのかと不安が一瞬過る。


 しかし、よくあるカップラーメンを見てまたひとしきり興奮している姿を見て、すぐにその不安はなくなった。


 

9/8記載

『吸血姫ちゃん、成り上がりたいっ!』をここまで読んでいただきありがとうございます。

もう2、3話は更新するかもしれませんが、しばらくは別シリーズ『お嬢様の犬』を優先していきます。


吸血姫ちゃんは、『お嬢様の犬』を書き切れる準備をしながら、コメディな話に挑戦したいと思って書き始めて、本当に面白いか不安なので更新は反応を見ながらの不定期となります。ブクマしていただき、活動報告などを確認いただき、気長にお付き合いしてくだされば幸いです。応援よろしくお願いします。

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