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2.こうして同じ屋根の下に


「あ、あの……よろしくお願いします……」


 しばらく続いた沈黙の後、上原千里が口を開いた。

 顔が小さく手足も細いが、ひょろっとした印象は無く、どこかオーラを感じる風貌。

 クラスで1目置かれるほど美人な上原さんが、一緒に住む? 

 

 待て待て、意味がわからない。

 なんで父さんは僕に何も言わず勝手に決めてるんだ。

 

 僕は文句を言ってやろうと思ったが、口を開きかけてやめた。彼女が学校で見る時よりも、どこか暗い顔をしているように見えたからだ。緊張しているという表情ではなかった。

 

 そんな僕を察してか、父さんは少し考えてから話し始める。


「千里さんのご両親は、交通事故で亡くなられたんだ。和人……いや、千里さんのお父さんとは中学時代からの友達でな、今でも時々会っていたんだが……」


 一言一言慎重に言葉を発する父さん。


「引き取り手が居ないという話を聞いて、俺としては他人事とは思えなかったんだ。相談もせずに決めてしまってすまなかった、裕司」


父さんの友人が亡くなったと聞いて、ましてや両親が亡くなったと聞いて、文句を言えるはずがなかった。




 僕も母親を亡くしている。




 僕が10歳のときだ。飲酒運転のトラックに轢かれて母さんは死んだ。その辛さは充分知っているつもりだ。

 だから僕も父さんと同じく、他人事とは思えない。


「よろしく、上原さん」









「じゃあ千里さんのことは頼んだぞ、裕司」


 父さんはこれ以上仕事を休むことは出来ないからと言って、何も食べずに出勤した。




 大きなあくびをする。昨日のことであまり眠れなかったせいだ。


 ほんとに一緒に暮らすのか……

 

 何もしていないと、さらに眠気に襲われそうなので、少し早いが朝食を作るためにキッチンへ向かう。普段から2人分作っているので、やることはいつもと大して変わらない。


 問題は上原さんだ。比べるものでは無いかもしれないが、僕が母さんを亡くした時は1週間以上学校を休んだ。

 確かあの時……




 考え事をしている内に、朝食は出来上がった。

 一応声をかけに行こうと思い、階段を上ると、丁度上原さんが部屋から出てきたところだった。


「おはようございます」

「お、おはよう」


 心配し過ぎだったかな、と思い僕は来た道を戻り、彼女もそれに続く。


 上原さんは母さんが使っていた部屋を使うことになった。

 ベッド以外まだ荷物が届いてないらしく、僕の服を貸している。ダボダボだが着ることはできる様だ。


 色々あって考えていなかったが、上原さんと一緒に住むだなんて竜一たちに知られたらなんと思われるだろうか。それに彼女も……

 なんとか知られないようにしよう。


「文山君?」


 名前を呼ばれて我に返る。階段の途中で立ち止まっていた様だ。あ、ご、ごめん何もない、と若干挙動不審になりながらもリビングへ向かう。


「寝れた?」

「はい」

「そう、良かった」


 彼女は誰に対しても敬語を使うらしい。それもあってか会話がぎこちなくなる。


「朝ご飯、食べる?」

「はい……明日からは手伝いますね」

「……いいよいいよ、いつも作ってるから」


 思わぬ言葉にたじろくが、冷静に返す。


「そう、ですか。分かりました」


 遠慮があるのか、あまり親しくないからなのか、すぐに上原さんは折れた。




「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」


 朝食を食べ終わると、準備して家を出るには丁度いい時間になっていた。上原さんを前にして、少し緊張していたのかもしれない。


「普通だよ。それで学校のことだけどさ、……どうする? 一緒に登校する訳には行かないだろうし」


「待たせると悪いので、先に行ってください。後から私も向かいます」


 少し考えてから彼女は答えた。

 僕が待って上原さんを見送った方が、などと考えたが、過度な心配は逆効果だと思いやめた。

 ここからでも学校は見えるので迷うことは無いだろう。


「分かった、ところで制服はあるの? 荷物まだ届いてないみたいだけど」

「葬儀の時に着ていたのであります」

「そっか、出る時はこれで閉めてね」


 家の鍵を渡す。


「分かりました、……また学校で」

「うん、上原さんも気をつけて」


 そう言うと僕は部屋へ行き、身支度をして家を後にした。





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