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1.彼女はなぜか家にいる


「……よってX+……になる……10の……」


 ブツブツと念仏のように数字を唱える教師を横目に、窓の外を眺める。

 この高校の周りは住宅街になっているため、2年になって教室が2階になると、景色が開けて見晴らしが良くなる。

 やっぱり窓際の席は最高だ、などと考えながら僕は時間を潰していた。


「なあ裕司、まじでどうしたんだろ上原さん。今日も欠席らしいぞ」


 隣の席の酒井竜一が、自分の1つ後ろの空席を見ながらそう呟く。


「さあ、大方風邪をこじらせたとかじゃないか?」

「そうだよなぁ……はぁ……」


 分かりやすく落ち込み、分かりやすくため息をつく竜一。

 どんだけ心配するんだよ、と突っ込もうとしたがやめた。返ってくる答えはなんとなく予想がつく。


「どんだけ心配すんのよ」


 心の声が漏れたわけではない。

 声の主は僕の1つ後ろの席に座る、肩にかかるくらいの明るい茶髪に大きな瞳が特徴の、北島なゆだ。

 地味な制服も彼女が着たら不思議と華やかに見えてしまう。

 気が強くてはっきり物を言うタイプの彼女とは、幼なじみで無ければ、同じ高校に居てもまともに関わる事なんてなかっただろう。


「北島は心配じゃないのかよ、もう3日目だぞ? この薄情者」


 竜一は、大体僕が予想した通りの答えを返す。


「はいはい、いいからさっさと告っちゃいな」


 軽くあしらって無表情で右ストレートを打ち込むなゆ。


「な……」

「酒井ってほんとにそういう所見かけによらずって感じよね、デートにも誘えないの? ちょっとは勇気だしなよ」

「高嶺の花って感じで喋りかけづらいんだよ。な、裕司」


 罰が悪そうに話を振ってくる。


「そうだな」


 軽く同意した僕も上原さんとは中学校から同じ学校で、何回か同じクラスになったことがあるが、まともに喋ったことはない。


「だよな、さすが俺の親友だ」


 なゆの顔が一瞬曇ったように見えた竜一だが、気に止める様子もなく授業に戻った。





 授業が終わり、僕、文山裕司は、掃除当番でもなかったのですぐに学校を後にした。

 梅雨が開けてまた一層暑くなったので、寄り道せず真っ直ぐ帰路につく。


 10分程歩くと到着するごく普通の一軒家。


 ふぅ。と一旦ため息を着いてから玄関の扉を開く。普段はなにも無い玄関だが、今日はそこに父さんの革靴と、もう1つ見慣れないスニーカーがあった。

 父さんの連れのものだろう。やけに帰りが早いがその事と何か関係があるのだろうか。

 そんなことを考えながら靴を脱ぎ、いつもなら階段を上って自分の部屋に行くところだが、少し気になるのでリビングに通じる扉を開く。


 その音に気づき、長い黒髪を揺らしながら振り返るどこか落ち着いた雰囲気の女子。



「……なんでここに?」



「同じクラスなんだってな、上原千里さんだ。今日から一緒に住むことになった」


向かい合って座っていた父さんの言葉で、僕は驚いてしばらく声も出なかった。

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