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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友人と話す時、友人と目線がいつも合わない

作者: 相上いろは

「お姉ちゃん……お姉ちゃんの居ない学校は寂しいけど、いってきます!」

「うん、いってらっしゃい」


 私は玄関先で、中学生の妹とひしりと抱き合い、そして別れ、高校に向かった。

 毎朝何故か少しドラマチックなのは、妹からのリクエスト。姉離れ出来ない愛い妹です。


 私は間祥(ましょう)百合(ゆり)。受験勉強を頑張ったので、まだ勉強する気力が起きていない高校一年生。でも夏休みも終わって久しいので、そろそろ勉強を頑張らないと親の目が痛い年頃。


 ……赤点はギリギリ回避してるんだけどなぁ。


 勉強は嫌いですが、友達と会うのは楽しみなので、学校は嫌いじゃない。

 宿題って文化は滅べば良いのに。



 ***



 学校に到着。そして上履きに履き替えて、慣れた教室へ。


「おはよう、まだ暑いねぇ、陸奥」

「ん、おはよう百合」


 私の隣の席、この高校に来て一番最初に知り合ったのが、陸奥(むつ)利奈子(りなこ)。私にとってはこの学校で一番の友人だと思っているのですが、滅多に目線の合わない友人です。

 成績優秀で、委員会なども率先して立候補した、やる気に溢れるクールな友達。

 あと何より、顔が良い、声が良い、雰囲気が良い。なんかもう、近くに居るだけで空気が澄むイメージがある。

 化粧っ気ないのに、整ってるんだよね。こういうのが、地が良いって云うんだろうな。


 主に宿題面ですごく手を患わせております。彼女と友達になれて本当に良かった。


 そんな私にとってはベストフレンドと呼んで差し支えない彼女ですが、私は最近気付いてしまいました。

 彼女は少し伏し目がちで、人と目線をあまり合わせない人だと、ずっと思っていました。ところが一昨日、彼女が普通に他の人の目を見て話していることに気付いてしまったのです。

 というか、私以外の生徒とは、普通に目を見て話していたのです。


 野生の猿と相対した時、目線が合うと威嚇が始まる。威嚇が始まって目を逸らすと襲ってくるということで、視線は外すな、目線は合わすな、というのを以前にテレビで見たことがある。

 だから、もしかしたらそういう対処をされているのではないかと、つい私は思い至った。


 1.怯えられている。

 2.警戒されている。

 3.距離を置こうとしている。

 4.恥ずかしがっている。


 前向き考えると4ですが、しかし、陸奥はそんなに恥ずかしがっているキャラではありません。そもそも、昨日一日じっくり観察したのだけれど、彼女は教師やクラスメイトと普通に目を見て喋っているじゃありませんか。


 ここで何故私に恥じらう理由があるのか。いやない。


 というわけで、大変恐ろしいのですが、1~3が濃厚となりました。

 気付きたくなかった。


 と、それが本当か嘘かは別にして、本当に嫌われているのかを確認する為に、差し障りない会話を投げてみる。


「ねぇ、陸奥」

「なに?」

「えっと。今日って何か宿題あったっけ」

「今日はないけど明日はあったわ」

「えっ!?」

「現国の提出物よ。朝一提出だから、済ましときなさいよ」

「ありがとう!」


 ちょっと距離を測りながら会話してみたけれど、いつも通りだった。私が宿題のこと忘れているのもいつも通りだった。想定外。

 でも確かに、陸奥の返答は、いつも素っ気ない気はしていた。


 怯えられている、という感じはない。やはり、警戒か、距離か……ごめんね陸奥。私空気読めない子だったよ。


 ……いや、これ誤解だった場合より一層空気読めてない子になってしまうのでは? ここは確認をすべきところ……

 いやいや、誤解じゃなかった時どうするのって話。「私ウザい?」とか「怖い?」って訊いたら、陸奥なんて「え、そんなことないよ(爽やか~)」って返事するだけだと思う。

 おのれ陸奥め、コミュ力高……くわないよね。うん、表情筋結構死んでるし。そこがクールで良いんだけど。


 思考が迷子になっていることに気付いたので、方向転換。


 とはいえ、頭が良い陸奥と距離を置くと今後ちょっと不便になってしまうことは否めない。

 あと顔と声が良い。大事な潤いと癒やし成分。


 あぁ、やっぱり距離を置きたくはないな。

 どうしよう。直球で訊いてしまおうか。


 そんなことを、正直昨日から延々考えていた。


 そして時間は過ぎ、昼休み。

 特に何のアクションも起こせず、今に至る。

 食堂では定番の唐揚げ定食と折角なので小丼を頼み、私はそれにマヨと七味を掛けて、食べる。レモンをかけるのは好きじゃ無いので、レモンは単品で囓る。


 酸っぱい。


「あああ」


 レモンの酸味と考え過ぎが相まって、呻く。


「……そんな酸っぱいのになんでレモン食べたの?」


 と、一緒に食堂でご飯を食べていた陸奥にツッコミを入れられた。

 一緒に飯食ってるんだし、仲良しだよね? などと思うけれど、甘いのかな。あまあまなのかな。


「くっ、クエン酸」

「成分で返事するんじゃないわ」

「だ、だって、使わず捨てるのは、勿体ないでしょ」

「その返答を最初に聞けたら充分だったわ」


 あぁ、確かに微妙に素っ気ない。


 これは、どうなんだ。これはどうなんだ?


 私はそれを掴みきれず、問い詰められず、若干凹みながら帰宅を果たした。


 ***



 翌日。


 陸奥は私に目線をくれない。

 いや、ゼロではない。たまに見てくれる。でも、チラッと。そのくらいしか私の目を見てくれない。


 目線を逸らす伏し目も、そういうキャラだと思えたから気にしなかったが、気になれば、気になる。


 おのれこの美形め、目を見せやがれ。


 というわけで、目にゴミが、とか、まつげが、とかそういう話題を振ってみたところ、普通に見てくれた。

 なのに、話を始めると高確率で逸らされる。


 やっぱ嫌われているんですかね? 凹む。


 そんなこんなで、今日も食堂。一緒に食べて、仲良しさん。な雰囲気。果たして、その実情は。


「ねぇ、陸奥」

「ん。百合、いつも思っていたんだけどさ」

「ひゃ、ひゃい!?」


 機先を制される。

 そして、語り出しが不穏。「前々から鬱陶しかった」「ずっと迷惑だった」「今度から別々にご飯を」等々、そんな語りに繋がるやつではないでしょうか。

 こんな別れ話みたいな流れは嫌だなぁ!


 そう思い、息を呑み、私は次の言葉を待った。


「百合は、食べ過ぎだと思う」

「は、はひ、た、え? 食べ過ぎ?」

「……どうしたの? 間の抜けた顔して」

「え? あ、え? 食べすぎって?」

「いや、だってそれ、2人前はあるわよね?」


 そう云って彼女の指差す私の食事。本日はカツ丼、サラダうどん、小鉢で冷や奴と肉じゃが2つ。


「……あ、あぁ、これ? これは、うん、せ、成長期だから」

「横に成長するわよ」

「それは困る」


 確かに、ちょっと大食い気味なのは自覚している。でも、横への肥大は乙女的によろしくない。

 でもお腹空いて、お腹が鳴るのはどうしても避けたい。


「それにしても、百合ってそんなに太らないわよね。ムチムチはしているけれど」

「それは婉曲にデブと云ってない?」

「適度と云っているわ」

「すごい、基準がまるで判らない」


 陸奥が私と目を合わせてくれない理由は判らない。

 でも、痩せようとは思った。



 ***



 結局陸奥と目線が合わないことを気にし始めてから、私は既に1週間を過ごしていた。

 未だに問うことも、確認することも出来ないで居る。


 今日もまた、まるで聞き出すこともできないまま、普段通りに会話をして、別れ、今家に辿り着いた。


「ただいま」

「おかえりなさいお姉ちゃん!」

「ただいま、牡丹(ぼたん)。相変わらず元気で何より」


 元気な妹、牡丹に迎えられた。


「会えなくて寂しかった!」

「私も寂しかったよ牡丹!」


 小ぶりな牡丹を抱き締めてから、私と牡丹の部屋に荷物を置きに向かう。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「んー? 何?」


 部屋について、着替えていると牡丹が声をかけてきた。


「お姉ちゃんの太ももって、ほんと良いよね」

「……その褒められ方は初だよ牡丹。というか、褒めてる?」

「うん、すごく」


 すごいジッと見られた。

 牡丹ってそういうセクハラをよくしてくる。本人にそう云うつもりはないのかも知れないけど、足とか、腰回りとか、無駄によく見てくる。


 私の方が身長高いから、身長の秘訣を探っているんだろう……と思っていたんだけど、もしやうちの妹、何らかのフェチなのでは?


「ねぇ、牡丹。牡丹って前から結構私の足をガン見するよね」

「うん」


 即答と来た。


「学校とかでやっちゃ駄目だよ?」

「……やらないよ?」


 あ、駄目っぽい返事だぞ-?


「牡丹。お姉ちゃん一つ心配だから訊いておきたいことがあるの」

「な、なに?」


 やや怯んだ妹の顔。


「……スカートめくりとか、やっちゃ駄目だよ?」

「やってないよ!? それはさすがにやってないよ!」


 あ、良かった。


「それに、私は理想の美脚を探しているだけで、せっそーなく見てるわけじゃないもん」

「理想の美脚とか」


 なにそれ。至高の料理的な? あとそれよりも、自分がなりたいのか、見て愛でたいのか、お姉さんそこがすっごく気になってます。


「私は真剣だもん」

「そうなんだ」


 問い詰めづらい。


「それで、理想の美脚? って云うのは、見つかったの?」


 何気ない風に訊ねると、妹はちっちっと指を振って見せた。


「現実のレベルがね、高すぎてね、理想はまだまだずっと高みなんだよ」


 ……?

 妹は何を云っているのだろう?


「現実って?」


 訊ねると、牡丹の目がキラリンと輝いた。


「お姉ちゃん、ベッドに腰を下ろして」

「え、うん」


 指示された通りに座る。すると、私の足を目掛けて妹が飛びついてきた。


「これ!」

「きゃああ!?」


 堂々としたセクハラを受ける。


「このお姉ちゃんの足がもう最高すぎて、私の理想は高くなる一方なの!」

「あはははは! 撫でないで、太もも撫でないで!」


 妹に足を鷲掴まれたり、触ってるのか触ってないのかみたいな変な触り方されたりして、私は思わず妹を結構強めに蹴ってしまった。


「ぎゃあ!」


 ベッドから転げ落ち、床に頭を打った音がした。


「あ! ごめん牡丹! 大丈夫!?」

「つ、ぐぅ……お姉ちゃんの足に殺されるなら、本望……」

「駄目だ、頭打ってるっぽい!」

「打ったけど、打ったけどね……」


 妹は涙目ではあったけれど、どうやら冗談を云えるだけの余裕はあるみたいだった。



 ***



 風呂上がり、床に寝そべって本を読んでいた。

 牡丹は私のお尻を枕に携帯を弄っている。止めて欲しいとお願いしているのに、未だに聞き入れてくれない。


「ねぇ。お姉ちゃんがおならしたらどうするの」

「深呼吸する」

「お願い、せめて鼻を塞いで」

「えー」


 妹がアグレッシブに私に羞恥攻撃を仕掛けてくる。


「そうそう、お姉ちゃん。さっきの話だけどさ」

「え、お、おなら?」

「じゃなーくーてー。足のこと」

「あぁ」


 私は頷いた。そして、腑に落ちない。

 さっきって、夕飯もお風呂も挟んでるから、結構前では?


「お姉ちゃんは、凄く綺麗な足なの。足というか、指とか、腰とか、お尻とか」

「お姉ちゃんね、妹にそんなとこしっかり観察されてたのがちょっとショック」

「えー」

「そこ、お尻揉まない」


 妹は積極的に揉んでくる。くそう、私の両手が漫画で塞がっているからと。


「でも、綺麗な物があったら、見るよ」

「それはそうだね。でも下半身そこまで綺麗かな」

「私が見てきた中ではお姉ちゃんのはダントツだね」

「ちょっと照れるなぁ」


 いつになく妹の弁に熱が籠もっている。

 なんか、少し怖い。


 私は本を置いて妹の方を見た。

 妹はジッと私の股を見ている。


「すっごいジッと見てるし」

「なんなら拝むよ」

「やめて」


 私がそう云うと、妹は私の下腹部に抱き付いて、満足そうにしていた。


 そこでふと、私は閃いてしまった。


 今、妹と目線が合わなかった。

 つまり、第五の可能性。陸奥は何か別の物を見ていて、目線が合わなかったんじゃないかという可能性。


「……いや、ないかな」


 生憎と目立つアクセを身につけているわけでもない。

 しかし、それは避けられている、もしくは避けたがっているいるよりは幾らかマシな可能性に違いない。


 というわけで、一縷の望みに、私は明日陸奥と話す時に、彼女の視線をしっかり追うことにしようと決めた。


 その決意を胸に、セクハラを止めない妹をちょっと強めに蹴っ飛ばした。



 ***



 その翌日。私は意外なことを知った。


 なんと陸奥と話をしている内に、陸奥が見ている候補があっという間に浮かんだのである。


 それは、私の胸だった。

 胸は、そこそこにはある。ちょっと……だいぶ頑張れば谷間も作れる。だが、洋服を着ていてボンと飛び出すほどでは決してない。見て楽しいかと云われると、ちょっと自信がない。いや、楽しい胸ってなんだろう。


 しかし、あのクールな陸奥が、人の胸を凝視するなんてことがあるのだろうか。

 ……気のせいじゃないかなって思うけれど、なんか一度気になったら、そうとしか思えなくなってきた。


「ねぇ、陸奥」

「何」

「えっと……今日はお昼何食べようか」

「んん。いつも通りに、ミックスサンドかなぁ」

「あはは、か、変わりないね」

「百合もまるで変わってないわね」


 溜め息吐かれた。


 さて。変な会話をしてしまった。

 しかし、これで結構確信に近付いた。


 ……伏し目に見えて、やはり陸奥は、私の胸の辺りを凝視している。


 何故だ。目線を逸らした位置に丁度胸があるのか、がっつり胸を見ているのか。

 けれど、頭と胸の距離を変えられない以上、これ以上は観測で確認することは出来ない。


 私は意を決した。

 もし避けようとしているのなら、私も覚悟を決めよう。理由は知りたいけど。

 もし恥じらっているのなら、まぁ、現状維持でいこう。理由は知りたいけど。

 もし、万が一、私の胸を凝視しているというのなら……理由を知るのが怖い。


「ねぇ、陸奥。放課後、今日、暇?」

「えっと、委員会ないから大丈夫だけど。何、寄り道?」

「あー、うん、そう。そうなん、そう。それで」

「それでって」

「というわけで、帰らず待っててね!」

「いいけど」


 そう約束を取り付けて、昼飯の最中に用件を聞かれたけど誤魔化して、どうにか放課後になった。


「それで、何処に往こうっていうの?」


 ちょっと興味深そうに陸奥は云う。私の胸に。


「え、っとね。ちょっと訊きたいことがあるのだけど」

「ん? 何?」


 陸奥は首を傾げた。そして、ちょっと髪をかき上げる。美形。

 じゃなくて。

 えっと、なんで目を見ないのと訊くべき、だよね? なんで胸を見てるのって訊くのは、いやそっちの方がマイルドか? どっちが良い、どっちが後々私の心に傷を残さない!?


 あわあわと少し慌ててから、私は改めて覚悟を決める。


「む、陸奥は……その」

「ええ」


 静かに待つ陸奥に、私はギュッと目を閉じてから、カッと見開く。


「なんで私の胸を凝視しているの!」


 勢い良く云い過ぎたぁ!

 言葉を絞り出しすぎて噴出してしまった。


「うえっ!?」


 と、まるで普段の陸奥らしくない奇声が上がった。

 そして目線が持ち上がる。


「そ、そんな、いや、私見てない、見てないよ、目を見てるよ!」

「滅多に目線合わないよ」

「そんなことないって、私だって、話す時にジッと、いや、俯いて、そ、え、眠い、とか……?」


 お、なんだろう、もの凄く挙動不審。

 そんな陸奥を、私はジーッと疑念強めの目で見つめる。


「陸奥。こ、こんなこと、云いたくないんだけど……もし、もしもね? 目を合わせるのが嫌なくらい、私のことが嫌いだとか、だったら無理に」

「いやいや! そんなことないから! 本当に!」


 慌てた陸奥に遮られる。

 これが本音か、優しさなのか。


 すると陸奥は顔を真っ赤にして、拳を握り、ぼそぼそと言葉を吐き出した。


「あ、あの、えと、ぐっ……ご、ごめん、ずっと胸を見てたの……そ、そこまで凝視してるつもりはなかったんだけど、胸を見てただけなの。避けてたとかじゃないわ」

「な、何故?」


 思わず自分の胸を両手で隠してしまう。


「……云わないと駄目かしら」

「私の身体を罵倒しない範囲なら、聞いておきたい」

「そんな、罵倒なんて」


 その言葉に安堵。つまり私の胸を哀れむとか、蔑むとか、そういう視線ではないのだろう。良かった。


 と、陸奥は顔を覆う


「……揉みたかったのよ」

「え?」


 訊き返してしまってから、意味を把握して、私が固まる。


「揉みたかったのよ」!」


 だめ押しみたいに陸奥が云ったので、思わず震えてしまった。


「ひ、引かないで欲しいんだけど……体育の時に着替えてる百合の胸を見て、その、ずっと、触りたいなって……それ以来気になって仕方なかったのよ」

「……え、えっと、それって、その……四月から?」

「そう、四月から」


 な、なるほどー……

 ……実に半年近く、陸奥は私の胸に片想いをしていた、と……片想いという単語が妥当なのかは置いておいて。


 妹には下半身を、クラスメイトには胸を。私のボディはなかなか罪作りだなと思ってしまった。

 そして、思わず笑ってしまう。


「……百合?」


 不安げに、陸奥は私に声をかけてきた。


「あはは、ごめん。目と目が合わないから、避けられてるのかと思ってて……むしろ好かれてて、良かった」

「避けたりとか……ごめん。そんなに見てるつもりなくて……でも、ほんとごめん。なんか、久し振りに百合の目を……ていうか、顔を見た気がする」

「だいぶ酷いね!?」

「ごめん、ほんと」


 陸奥は手を合わせ、私に謝ってきた。


「いいよ」


 私がそう云うと、陸奥も苦笑いをした。


「百合……それで、その、ついでと云ってはなんだけれど」

「ん?」


 私が首を傾げると、陸奥はフッと笑う。


「……揉んでもいいかしら?」

「はっ?」


 云われたことの意味を理解した時、私はスッと後ろへ跳んでいた。


「や、やっぱり引く?」


 すると、陸奥はそう寂しそうに云った。


「ん、んん? いや、別にそうでもないんだけど」


 美形の陸奥に胸を揉まれる。そのことに、凄い抵抗があるわけではない。

 ただ、今は駄目。今ちょっと混乱してるし、汗かいてるし、今の下着安物だし……!


「ただ、今はちょっと! それに場所も場所だし……今度、私の家に来たら、その時とか」

「え、いいの!?」

「え、うん。ここよりは良いと思う」


 云ってから思った。

 今この場で触られてもおふざけみたいなものだけど、家に帰ってとなると、果たしてどういう状態になるのか。


 しくじったかなと思ったけど、今まで見たことないほどきらきらた目で天を仰いでる陸奥の目を見て、言葉を取り下げる勇気が挫けてしまった。




 ***



 翌日、登校すると、校門のところで満面の笑みを浮かべた陸奥が待っていた。

 あんな表情初めて見た。


「ねぇ、百合。今日私の家、両親外泊してるんだけど、泊まりに来ない?」

「へ、へぇ……いや、親に確認をしないとだし……今日すぐにって云うのはちょっと」

「そっか。あぁ、私の両親ね、今日から1週間旅行だから。いつ泊まりに来てもいいわよ」

「Oh……」


 彼女がどう両親を説得したのか判らないが、恐らく彼女が両親を家から追い出したのだろう。


 何かこう、藪蛇を踏んで私の貞操が危うくなったという気がするけど、取り敢えず……今は気にしないことにした。

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