収束
「確かにお前、付いてるよ、ラックがさ。」
「アクト…」
「でももう、終わりだよ。そいつが死んで、僕は生きた。」
「んなわけねーだろ」
「おいラック、大丈夫か。」
「アクトが」
「ラック、もういい、良くやったよ」
アクトが死んだ拍子に撃った弾があいつの足に当たったんだ。
その後彼女は怒りに任せて殺してしまったんだ。
俺は彼女の銃をはらって抱いてやったが、彼女の震えは忘れられない。
「まあこんなとこだな。」
「全然分かんねえよ。」
「いやだからな、ラッキーガール略してラックがムーンの正体なんだよ。」
「正体なんだよ、って言われてもさ、ただのダジャレじゃんかよ。」
「いやまあその、あれだ、分かったよ。もっと詳しく説明してやる。じゃあまずあれだな、あの話からだ。」
「はいはいあれね。」
「なんだよ」
「お前があれあれ言うから、あーもういいよ話せよ。」
「あれはな、あ、あー」
「なんだよもう」
「いやあれってあれじゃん」
「話の最初に付けるあれはいんだよ」
「よしじゃあ、うん、あれはな…」
アクトが死に、ラックは束した外園へと足を進めた。
そこは彼等の住まう土地。
我々殺し屋の成れの果て達の栖。
彼等は黒の鎖に繋がれ、殺し屋をその鎖の一端で繋ぐ者。
この世界には様々な鎖が存在し…
「あ、それは知ってる。俺等もここのボスと灰の鎖で結ばれてるしな。で黒の鎖ってのはよく知らんが悪魔との契約だのどうだのってやつだろ。」
「おい流れを崩すな。」
「はいはい」
鎖は恩恵を齎す。
それは多種多様であり、色によって表される。
具現化する鎖はどれも赤みの強い銅色だが、繋ぐ者の質により独特の発色も強くなる。
「流れってのがかなり逸れてない?」
ラックは鎖に繋がれる。
「急だな」
本来黒の鎖とは、多くの色の鎖が束になり出来るもの。
故に成れの果て。
そしてその鎖に直に繋がれるということは、人という存在から引きずり剥がされるということだ。
「ラックはな、もう人ではないんだよ。」
「お、帰ったか。あ、いやまあそうか。なんとなく分かった気がしたよ。」
「よし、なら話を戻すが…」
「ああ、儀式ってやつのことだろ。ラックに繋がれるとかなんとか。」
「いや正確には違う。灰の鎖に繋がれた時点でもうラックの監視下にあるんだ。ただ合図を送れるかどうかを試す必要がある。」
「へー、あ、月で灰色か。」
「じゃあ始めるぞ」
「またあのモード入んのか。」
「ちょっと待ってな、準備がある。」
「では新入りよ、初めるぞ。」
「あれ?あいつじゃない。」
「いやまああれだ。あいつはただ心を俺に繋がれてるだけだから、多重人格とかではないんだ。だからその、あれだ、とにかく儀式は俺の仕事なんだよ。」
「そうか、なら初めてくれ。」
「では、汝に問う、心残りはあるか。」
「え、ああ、たくさんな。」
「よろしい」
「…な、あ、何しやがる」
「軽く撃ってみただけだ」
「は?ふざけんなよ」
「そうだよ、私もボスも儀式なんて」
「いやだってさあ」
「お、おいまずそれを説明しろ。」
「それ…?私はムーン。でももう行くね。」
「イメージと違え〜。」
「まああれさ、あいつを呼べるかどうか試すのが儀式、って態の遊びだ。」
「は?」
「なんならこんなのしない方がいい、というかしちゃだめだ。」
「は?」
「いやまあ、あいつも呼ぶ合図は死を覚悟することなんだよ。だからさ、心残りがなきゃだめなんだ。心残りは死への恐怖そのもの。そして恐怖がなければ覚悟もくそもない。」
「で?」
「だから試したんだ。」
「でもムーン助けてくれるって分かったら恐怖を感じ難くなるだろ。」
「だからしちゃだめなんだ。」
「殺してやろうか」
「まあいいや、儀式も終わったしそろそろ仕事に行こう。」
「くそ…まあ、分かったよ。せっかくお前にここ紹介してもらったわけだしな。で、仕事ってあの天使崇拝の。」
「そうだ、あの天使崇拝のだ。」
「あぁ」
「気持ちは分かるが仕事だからな。」
「おいこいつら悪魔より狂ってるって。」
「慣れろ」
「無理だろー。」
「因みにまともに見えるやつは全部後輩だ。」
「後輩?」
「同行者のことだよ。」
「ああ、ってことはつまり…」
「教徒達は全員狂ってる」
「おえぇ。よ…、よし、帰ろう。」
「待てよ、こいつらがいなきゃこの仕事は始まらん。」
「だけどよぉ、こいつらがいたからって悪魔殺せんのかよ。第一リマーネのマーネって悪魔って意味だろ?それでなんで悪魔殺しが仕事なんだよ。」
「うるせーな。鎖引き千切るぞ。」
「それだけは冗談でも言うなよ。あーもう分かったよ。」
「ここに悪魔が?」
「ああ、エイメの仮漆杭を引き抜けるのは悪魔だけのはずだからな。ここに跡があるってことはつまりはそう。」
「で?どうやって殺るの?」
「まあ細かいところは奴ら教徒に任せればいんだよ。いざとなったらムーンがいるし。」
「なあムーンって結局なんなんだよ。」
「んーとだな、簡単に言うと悪魔だ。」
「あ?え、は?」
「それは一旦置いといてだな。」
「いやどうせまだ暇なんだし話せよ。」
「いやいいよ」
「なんでだよ。まあ分かったよ、じゃあさ、違う質問な?」
「お、おう」
「なんで俺ら日本語で喋ってんだよ」
「おい急だな。まあそらあれだ。ボスとムーンが日本人だったからだよ。」
「日本人だったっていくつだよ。」
「いやまあそれは…知らんが。」
「まさかシャラル&マリスに、あ、そうか。あいつら黒の鎖の番で時の、ああ、なるほどな。それで悪魔か。いやでもあいつらは悪魔と人形の名を持つ…者…。人という存在から引き剥がされるってそういうことか。」
「お、おう。」
「いやあ思わぬ形で質問の答えが知れたよ。」
「まあ良かったな。じゃあほら、そろそろだ。」
「分かってるさ。」