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頭痛

ある程度まとまったら、週間くらいで投稿しようと思って書き溜めてたのが、更新設定先延ばしを忘れて一度に更新されていてビックリ。


「まずは少し整理するか。ヴィーさんは投槍の話を聞いて、もしかしたら新しいスキルを開眼したんじゃないかと考えていた。

 それで、スキルの啓示を持ちかけたのは判るんだが、先に浄化しようとして、すぐ止めたのはどうしてなんだ?」


 俺がそう問いかけると、神官さんは隣のベットに腰かけ、はいと頷いた。


「皆さんもご存じでしょうが、スキルとは神の御加護であり、混沌に対抗する力です。

 ですから、スキルが疲労し、その働きが弱い時程汚染されやすく、逆に活発に働いている程、汚染に対する防護は強くなります」


 子供達に対してする様に、皆の顔を見回して理解を図る。流石に、混沌と戦う兵が知らない筈も無いですねと苦笑、こう言葉を続けた。


「もしシューさんが、スキルの使い過ぎで倒れた――つまり、スキルの働きが弱っていた――のであれば、汚染はより進みます。上位種を含む百に近い数の豚頭人が死んだ後であれば、汚染は傍から見ていてわかるほどに進んでいたはずです。ですが……」


「……そうは見えなかったので、初めからシューがスキルを開眼、或は修得したのではないかと疑っていた、という訳ですね?」


 その言葉をグラが引き継ぐと、彼女は落ち着いた様子でいいえと首を横に振った。


「いえ、そこまで考えていたわけではありません。ですが、汚染はむしろ少ない、逆にスキルが活発に働いていたのではと感じました。

 これは明らかに異常な事で……お恥ずかしい話ですが、今思えば、もうこの時点で平静を失っていましたね」


「んで、見てみたらやっぱり汚染されてなかったから、スキルの啓示を提案したと……」


「……そう言う事になります。ええ、その後はもう本当に混乱してしまって」


「まぁ、七つものスキルが統合された【流派】に、怪しいスキル、新スキルらしきもの、スキル枠の減少と重なれば、驚くのも分かるが……」


 ホライの問いに神官さんが頷き、俺がそう続けると、期せずして四つの溜息が重なった。


「神官様。シューは今後どうなるとお考えですか?」


「そう、ですね。まずは、私が神殿に報告します。

 そこから領王府や領都の神殿に話が伝わり、後日他領の神官立会いの下、“到達者”認定の審査を行う事になるかと思います。

 その先は、【万能】スキルの変化とスキル枠の減少がどのような意味を持つかによると思いますが、順当に行けば到達者として認定され、剣聖様の時の様に式典が行われることになるでしょうね」


 未だ【万能】は確かめられない状態だが、統合されたスキルを見るに、単独での行使が可能になった可能性が高い。

 もしそうだとすれば、このスキル枠の減少は、剥奪ではなく【万能】の強化の為と取られるだろう。


「と、なりますと、流石に央軍への招聘はないでしょうが、まず領都の西方辺境領軍に引き抜かれる事になるでしょうな。

 ただでさえ、隊長が辞退した後です。仮にシューがそれを望まずとも、二人連続でとなると拒むのは難しい」


 こちらを向いてそう続けたグラの言葉に、ヴィーさんも頷く。街の衛兵隊と領都の辺境領軍の関係は、衛兵隊と自警団に相応するものだ。

 魔物の発生率が最も低い領地の中央に、領内の最精鋭部隊と多量の餌を必要とする騎乗動物とを集め、有事には急行する構えとなっている。

 経験と言う意味では不安が残る制度なのだが、噂によると、領都には西方辺境領内の混沌の力を集め封じ込める、所謂“ダンジョン”的な施設があり、防衛隊はそこに発生した魔物で実戦経験を積むのだと言う。

 また、領軍と央軍、各辺境領と人界中央との関係も似た様なものだが、そこまで大規模の侵攻は極めて珍しい事や、領国、領地毎の性質の違い等から、比較的緩い協力関係に納まっているようだ。これが前世の世界であれば、力関係の綱引きで裏ではさぞかしアレな事になっているのだろうが、この世界には実際に力を授けてくれる神が実際に居て、彼等は穏健ではあるが、混沌への対処だけは極めてセメント。もし利敵行為とみられれば、権力・産業基盤であるスキルがごっそり剥奪される可能性があるのだから、おちおち火遊びもしていられない。


「だがこの十年に、牛頭人、豚頭人と、まとまった侵攻が連続して起きている。

 それを盾に、せめて時間を引き延ばせないか?」


「……ん? シューは領軍に行きたくないのか?」


 その問いかけに首をかしげるホライに、ああと頷きを返した。


「……まぁな」


 言葉を濁し目を瞑ると、瞼の裏には開拓村の、あの光景が浮かび上がってくる。それに加えて、一つ前の大乱に、転生者らしき英雄が居た事も、頭の何処かに奇妙に引っかかっていた。


「……そりゃあ、領国全体の安全や、俺個人の待遇や成長を考えれば、領軍に行くべきなんだろうがな。

 そもそも領軍が出張るなんて話は何十年かに一度。中央軍に至っては、英雄様の時が派遣された最後なんだろ?

 おまけに、この辺りには、牛頭人、豚頭人と大きめの侵攻が続いてんだ。正直、せめて理由が解るまではこっちに残りたいのが本音だよ」


 更に言うなら、今回とホライの村が潰された一件がある。

 混沌が濃くなるほど出生率が減少する魔種の、上位種は非常に生まれにくい。彼らが現れるのは、大抵多くの人間が連れ去られた事件の後の事で、少なくともこの近辺ではここ十年ほどそう言った事件は起きていないようだ。

 にもかかわらず、予兆も無く二度連続で上位種が、それも、小さくない群れを率いて現れている。これが単なる偶然ならいいのだが、そうでなければ……。


「時期が悪いと言うのは否定しない。だが、なればこそシューは、出来るだけ早く領軍に行くべきだ。私は、そう思うがね。

 こればかりは両方を知らないと実感がないだろうが、正直、今の領軍には、魔種の脅威を肌で感じている人材が少ないのだよ。

 加えて言えば、君やお父上の様に、比較的上から物を見られる人材という時のは思っている以上に貴重でね。

 だから君には、到達者(スキルマスター)の肩書を利用して、出来るだけ早く上に行ってほしいと言うのが私の本音だな」


「額縁ばかりが立派な外様に、求められるのはただのお飾りだろ?

 領軍でマトモに出世できるとは、とても思えないんだがな……」


 レサン衛兵隊副隊長の父を引き合いに、そんな夢物語を語り始めたグラに、溜息を一つ溢した。

 スキルの開眼とやらでどれだけ戦力が増したのかは知らないが、扱う人間が同じである以上、極端な戦力向上は望めない。器用貧乏が器用に成ったか成らないか、その程度が関の山、味方を引っ張る強さ(カリスマ)が必要なこの世界の将には、少しばかり足りないだろう。よくもまぁ“勇者様(センパイ)”は、軍を取り纏め率いる事が出来たモノだと、そんな事を考えて頭を掻いた。彼の英雄は、単体戦力としては全くの並みだったと、そんな記述を幾度か目にしたのだが……。


「いや、それがそうでもないのが困った所でね。今の領軍は、半ば掃除屋(スカベンジャー)の親玉に成り下がっているのだよ。

 領王様もそれを改革したがっておられるようで、剣聖流を修得された隊長を、レサンから引き抜こうとしたのも、その為だともっぱらの噂だ」


「スカベンジャー……ってなんだ?」


「俗に、地下牢(ダンジョン)地下納骨堂(カタコンペ)等と呼ばれる、領内の混沌の気を封じる施設に発生した魔物を、間引く事で活計(たつき)を得ている者達を言う、まぁ、蔑称の様なものですね。神官としては余り推奨しない呼び方ですが……」


 すっかり質問役になった髭の言葉に、流石の本職と言うべきか、現役教師(かのじょ)はすぐさま、流れるような説明を返した。魔物の屍で生計を立てているもの、という意味らしい。なお、本当に地下牢(ダンジョン)と称されている彼等の狩り場は、都市の大型神殿の付属施設であり、人間領域を形成する機構の根幹の一つなのだと言う。


地下牢(ダンジョン)は、領域内の魔物を現れ辛くするのだがね、その分中の気は濃くなり、どんどん魔物が生まれてくるし、生き延びるほどに強く成長していくのさ。だから、中を定期的に間引いて、魔物の核石を持ち出し浄化する必要があるのだよ」


 【信仰】に生き戦力に劣る神官達は、その入場資格を発行し回収された核石を買い上げる事で、間引きを外部委託しているそうだ。


「領都周辺は、ダンジョンがあるから魔物は出て来ず。混沌領から離れているから魔種を警戒する必要もない……」


「……だから、ダンジョンでの、魔物との戦い方しか知らねぇって事か」


 ホライと二人、予想外の現状に頭を抱えると、グラは苦虫を噛み締める様な表情でこう続ける。


「被害者救助に混沌領侵入だの、どこの開拓村が襲われただのと言う報告を、毎月の様に受けている上と、ダンジョン外で魔物に遭う事はまずなく、魔種なんてどこのお伽噺だいなんて意識の都市民の温度差は酷いモノだ。

 領都はこんな環境だから、試験の合格者は多くが掃除屋出身、それも兵士の優先入場権目当ての者も少なくなくてね。

 行軍演習や間引きへの派遣は行っているみたいだが、なんで、こんな無駄な事をと本気で思っている兵士も珍しくないらしい」


「それでグラは、レサンに派遣されたのか?」


 詳しすぎる内情暴露に、さらり、そう鎌を掛けると、予期していたか金髪は、その口元に幽かな笑みを浮かべた。


「いや、それは話した通りさ。そりゃあ、領軍の現状に思う所はあるがね。

 私がここに来たのは、主に隊長にあこがれたからだ」


「なるほど、この町に来た理由はそうなんだろうな」


 そんな含みのあるやり取りを、黒髭は飲み込めずに目を白黒と、神官さんは僅かに眉を顰める。


「……いったい何の話だ?」


 そうして差し込まれた直截な問いかけに、彼は肩を竦めた。


「互いに解り切ってる事を再確認しただけだよ」


「なんだそりゃ?」


 誤魔化されたと感じたか、渋面を創るホライに苦笑を漏らす。


「状況確認だよ、状況確認。別にいがみ合ってるわけじゃない」


 そう答えて溜息を吐いた。西部辺境領の状況は、想像よりもかなり悪い。まず、レサンに接する混沌領では、何かが起きている可能性が否めず、有事に加勢するはずの領軍は、全く当てにできない状況にあるようだ。となれば、混沌領に接しない中央地域はもっと酷い可能性がある訳で、仮に、彼の英雄の時のような大規模侵攻が起きれば、人類領域そのものに大きなダメージを受ける可能性もあると言う事か。

 なるほど、領軍には早急な改革が必要だが、仮にそれが可能であったとして、どうあがいても時間はかかる。もし現在進行形の異常に何らかの致命的な理由が存在した場合、それは絶対に間に合わないわけだだ。


「全く酷い有様だな。仮に今回の事件の裏に“魔人”がいたなんて話になれば、西方辺境領国そのものが滅びかねんぞ」


 もはや、辺境領外縁でも御伽噺になり果てた伝説を舌に乗せると、神官さんは少しばかり困ったような顔をしてこう口を開いた。


「一つ弁護させてもらいますと、彼等魔物狩人(ハンタ―)の技量は決して低くはありません。常に濃密な混沌に晒され続けている為か、スキルを扱う技量の伸びは、ダンジョン外よりで戦う衛兵たちより大分早いようですしね。

 実際、本業のスキルを扱う技量を延ばす為に、副業でハンターをされている方も居られるくらいで……」


「……うわ、最悪だな、それ」


 フォローのつもりらしいその言葉に、思わず本音が漏れて出た。どうやらダンジョンとは、週末のスポーツジム程度の感覚で入れる施設であるらしい。出来る限り安全に魔物を除去する必要がある為仕方がない事ではあったが、それはつまり、それだけ不確定要素が少なく、目の前の戦いのみに集中できる環境だと言う事だ。なるほど、領都民が魔種や魔物の危険に鈍感になるのも無理はない。


「どう言う事だ、それ?」


「酷い話、大きな侵攻が起きて救援を頼んだら、お膳立てされた訓練場でしか魔物と戦った事が無い、スキルの巧さを鼻にかけた舐め腐った連中が、疲労困憊嫌々やって来るかもしれないって話だよ。流石にここまで最悪な事態は起きないとは思うが……」


 一般的兵士の素直な問いかけに、俺はそんな穿った解釈を返した。辺境への出張や行軍演習を嫌がる者には、多かれ少なかれそんな要素があるのではないだろうか? 確かに、個体能力は外のそれよりダンジョン産の方が高いかも知れないし、彼等のスキルの巧さは衛兵隊より上かも知れない。だが、建物内を移動して小数の魔物を駆除するのと、深い森に分け入り、どこから現れるかもわからない魔物を狩り取ったり、混沌領から大量に溢れ出た敵を、隊伍を組んで受け止め逃がさず、漏れなく駆除しなければならない辺境での戦いとはまるで条件が違うのだ。


「流石に、そこまでとなると極一部だろうがね」


 その余りの言い様に二人は絶句し、残る金髪は渋面で頷く。基本、学ばせる為に出している間引きだが、領軍の方が立場が上な事に加えて、手伝い戦である事や上との意識の違いもあって、うまく機能していない面もあるようだ。


「まぁ、領軍を実地に見た感想を聞きたいのなら、お父上に問えば良いさ。

 私たちはまだ見ていないが、定期の間引き任務には領軍が派遣されている筈なのでね」


 皮肉気に肩を竦めるグラに、うぇと口元を歪めて絶句する。間引き作戦に参加していた筈の領軍を、俺は一度も見たことが無い。それどころか、衛兵隊のヒラ隊員には、来ているというアナウンスさえなかった。


「ちょっ、待っ、俺ぁはそんな話聞いた事がねぇぞ」


「さ、流石に来てないなんて事はない……筈です、よね?」


「さて、どうですかね?

 領軍が間引きへの派遣を行っているのは間違いのない話ですが」


 ホライの困惑に、神官の不安が被り、如何にも腹に据えかねた風なグラが打ち消す。そんな三人に溜息を一つ。


「……まぁ、アレだな。

 俺ら新入りじゃ何もできないって事は良く判った。詳しくは、隊長達やもっと上の神官に相談するしかなさそうだ」


「そう、ですね。私も報告の際には、ここで聞いた話を挙げて見ます」


 どこまで真面目に受け止めてもらえるかはわかりませんが――最後にそう付け加え、ヴィーさんが席を立つ。彼等神官にとって、魔種を駆逐した後が仕事の本番だ。流石に、ここで長々とは駄弁っていられないのだろう。


「ンじゃ、俺らもそろそろお開きかな。

 送りますよ、神官様」


「スキルの件については、私から隊長やお父上に報告しておこう。まぁ、こんな状況だから、直ぐに対応とはいかないだろうが、少しはマシな筈だ」


 敬意七分、劣情三分と言った所か?

 脂下がった調子でホライが続き、最早隠すつもりもないらしいグラが、その腰を上げる。

 そんな三人の背中(せな)を見送り、俺は溜息。ベッドに身を預けると、すかさずの頭痛に額を抑えた。

 頭が痛い。頭痛が、ではなく。


「何にもなければいいんだがな」


 そして、呟く自分の言葉に、多分それは無理だろう、そう自分で突っ込みを入れた。




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