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遭遇

初回のみ二話更新

――死んだと思ったら、“スキル”や“魔法”のあるゲームのような世界(ファンタジー)に生まれ変わっていた。

 それ自体は大変喜ばしい事だ。俺を生まれ変わらせた何かの偶然、或は作為に、文句を言うつもりはまるでない。

 そりゃあ、前世で生きた20世紀末から21世紀前半の日本みたいな、裕福で安全な場所は歴史上の特異点みたいなもので、今生で生まれたこの場所は、危険だし、食事の味は薄いし、食材や調理法も少ないし、町行く人々には毎日贅沢に湯を使う様な余裕もないから、男女漏れなく臭い(スパイシー)

 男は大抵髭もじゃ髪もじゃ、女性にしたって、化粧品や美容用品、それを使う技術も未熟で、顔面偏差値-5点だ。

 そう挙げ連ねれば不満は幾らでもあるけど、五体満足で比較的裕福な家庭に生まれて、街並みに飢えた人が溢れてると言った事も無い。なにせ、“スキル”が存在するおかげで各種生産能力は技術レベルを考えるとビックリするくらいに高いし、ちょっと背伸びをすれば日々の生活をほんの少しだけ快適にしてくれるような道具類も手に入る位にはこの世界は裕福だ。加えて、俺は出生時のスキルガチャでも大当たりを引いていて、だからこれで文句を言うのは贅沢ってものだろう?

 ただ……。


「……雄が5、雌が2か」


 ……ただそれでも、我慢がならない光景と言うものは、確かにあった。俺は、目の前に広がるものに、眉を顰めて歯を食いしばる。

 混沌領域との境、西部辺境領国の端にある小さな開拓村。強大な力で文字通りに粉砕され、今や崩れた、或は、崩れかけのログハウスが立ち並ぶ廃墟と化した村の、その真ん中の広場に陣取った豚頭の力士集団が、僅かな生き残りを相手にダイナミックに腰を振る。

 拉げはしたが、辛うじて崩れ落ちててはいない、俺はそんな丸木の山(たてもののやね)に陣取り、荒れる息を整え現状を整理した。

 彼等魔種――混沌に冒された生き物とその末裔たち――は、世界に汚染し歪めんとする混沌の意志に忠実だ。故に、自分達の原種に遭うと、まずは力でねじ伏せ、次にその種を汚染しようと試みる。

 混沌の汚染で種が乱された彼ら魔種は、同族同士では仔が出来にくい場合があり、だからという理由もあるのだろう。中でも多産系で人間との間に仔を成すのが比較的容易な彼等豚頭人は、特に人間との交尾に執着する気質があり、だから彼らが一度ああなった以上、一段落するまではこちらに気付く心配はしなくともよい。


「雌2匹と……女達には止めを刺してやらんとヤバいな」


 そう呟いて、武装した男の身体の上で、ばるんばるんと2つのバスケットボールを踊らせる豚面の巨漢に嫌悪の視線を向けた。豚頭人は多産で知られた魔種だ。同種族同士の交配ではそれほど顕著ではないが、原種の“種馬”“畑”を手に入れることで爆発的に増える。植えれば育つ畑は兎も角、種馬はどうすんだと言う疑問も浮かぶだろうが、そこはそれ、混沌の特技は乱す事にあった。

 正直考えたくもないような話だが、奴らにヤられてる間は相手はとんでもない美人に感じられるし、行為自体も凄まじく気持ちが良いものらしい。尤も、そうして成すがままになっていれば、犯され子種を搾り取られるのみならず、やがて混沌の気に身体を侵され、自分も豚頭人になってしまう、ぞっとしない結末が待っているのだが……。

 とまれ、今一番重要なのは、雌の豚頭人を仕留める事、女を奴らの巣に持ち帰られる事を防ぐ事の二点。男の生き残りについては、雌さえ殺せば、雄は巣に持ち帰らず叩き殺してしまう。仮に、巣に別の雌がいてもそうだから、優先順位は比較的低い。


「せめて、後二体も数が少なければな……」


 そんな冷たい足し引きを、考えながら俺は、重い溜息を吐きだした。

 如何に魔種に犯されたとて、一度二度で後戻り出来なくなるわけではない。今目の前にいる彼等なら、神官の浄化を受ければ問題なく日常に帰れるだろう。ただ問題なのは、俺に七体もの豚頭人を相手取る力はなく、救援の本隊を待てば、奴らは悠々、巣に戻ってしまうと言う二点。

 背に担いだ三本槍を、外して傍らに……。その一棹目を手に取りながら、俺は組み伏せられ虚脱する彼等の、一人一人に視線を向けた。

 目を瞑り、もう一度息を整える。


 ――死んだと思ったら、スキルや魔法のあるファンタジー世界に生まれ変わっていた。

 それ自体は大変喜ばしい事だと思うし、俺を生まれ変わらせた何かの偶然、或は作為に、文句を言うつもりはまるでない。

 終わったはずの生に続きがあっただけで行幸で、特に俺は、出生時のスキルガチャでも大当たりを引いていて、だからこれで文句を言うのは贅沢ってものだろう?

 ただ……ただそれでも、助けの手が間に合わなかった者達を見るたびに思うんだ。

 ダークファンタジーさん、もうちょっと手加減してくれませんか……ってね。







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