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君の瞳に  作者: 志崎誠
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1章

心苦しい表現があります。注意してお読みください。

 そういえば、あれから1年だ。周は自室のベッドに寝転びながら佐藤と初めて会ったことを思い出していた。正確には今日はテスト返却や大掃除をする為の登校日なので、実際の終業式はもう数日後になる。つまり、その数日は休みになるので普通の生徒は喜ぶところだが、周は喜ぶどころかどこか喪失感に駆られていた。


 結局、朝の全校集会では佐藤に関する情報はなにもでなかった。下手したら数日前に周が見たニュースの方が情報が多かった気がする。


 校長が全校集会で言った内容は美校生としての自覚を持ち、悩みがあるならば、学校のスクールカウンセラーに頼れということだった。肝心の佐藤については、問題児かのような扱い方をしていた。自殺未遂のことよりも、学校の不法侵入、壊された屋上のドアの費用など、その言い方や内容はまるで佐藤に説教をしているかのようだった。そんなことよりも他に違う言葉をかけてあげるべきではないか、周は校長の発言に納得ができなかった。


 周と佐藤の担任である白川はいつもの明るい顔はどこにもいなく、目は赤く充血しており、生気のない顔をしていた。よく見ると、少し痩せたような気がする。


 周は2年生の春に白川が周にピースサインをしたのを思い出した。その時の顔は、悪戯っ子のこどものような無邪気な顔をしていた。今思えば、周と佐藤が同じクラスになるように計らってくれたのだろう。周は白川の顔を思い出し胸が痛くなった。


 じっとしていると色々と考えてしまうので、周は外に散歩をすることにした。スニーカーを履き玄関のドアを開けようとした時、周の母親がリビングから出てきた。


 「出掛けるの?」


 「うん、少し。夕飯までには戻るようにする」


 周がそう告げると周の母親はじっと周のことを見つめる。反応に困った周は母親にどうしたの?と言うとううん、気を付けてねとそのままリビングに戻って行った。周は首を傾げたが、そのままドアを開け外に出た。


 日中はとても暑かったが、今は夕方なので少しだけ気温が下がっている。たまにくるそよ風が涼しくて、気持ちがよかった。


 周は家の近くにある公園に行くことにした。その公園は昔からある公園で周が小さい時も遊んだりしていた。妹の華が小さい時には一緒に遊んであげたりもしていたが今は華も大きくなったので来るのは何年かぶりだった。しかし、なんとなく周はここでなら落ち着けると思った。


 公園に着くとそこには誰もいなかった。まだ夕方の鐘が放送されていないので、普通ならこどもがいるはずだ。しかし、ここ最近この公園より少し先にとても広い公園ができた。ブランコや滑り台などの遊具は勿論、アスレチックが楽しめたりなど子供には最高な公園となっており、子供はみんなそちらに取られたというわけである。なので周のいる公園はめったに子供は遊びに来なく、来るといっても老人がベンチに座っているくらいだった。


 周は誰もいない公園のブランコに腰を掛ける。ブランコに乗るだなんて何年ぶりだろうか。少しだけユラユラと揺れてみるがあまり楽しい気分にはならなかった。周はじっとしていても、外に出ても、頭に浮かぶのは佐藤のことでしかなかった。


 チラリと周は自分のスマートフォンを見た。普段送られてきた連絡を返すだけにしか使用しないので、ほぼ新品の状態だった。スマートフォンを見ているうちに周はこんなことを考えた。それはネットニュースなどならなにか分かるのではないかという考えだった。周はよく藤沢からネットなら色々な情報が載っているということを聞いていた。個人情報やプライバシーにかかるので詳しい内容はないと思うがもしかしたら、少しでも佐藤のことが分かるかもしれない。そうと決めた周はすぐさま自分のスマートフォンの電源ボタンを押し、検索画面に向かった。なんと検索するか一瞬戸惑ったが、覚悟を決め検索をした。


 『 女子高校生 自殺未遂 最近 』


 直接的過ぎる検索の仕方だが、この方が探しやすいと周は判断した。検索マークを押し、数秒待つと直ぐに多くのニュースの情報が液晶画面に映し出された。周は画面をスクロールした。画面には佐藤以外の女子生徒が自殺し、そのま死亡したというニュースもあった。周は見るに堪えなかったが、そのままスクロールした。


 そのまま続けているとあるサイトに辿り着いた。周はそのサイトを押してみた。サイトが表示され、画面を見てみると周は首を傾げた。そこには、ネットニュースのようなものではなかった。周はサイトをよく見てみると、前に藤沢やクラスメイトたちが使用しているSNSであった。SNSとはインターネットを通して、色々な人たちと交流ができるスマートフォンやパソコン用のサービスの総称である。従来のブログや電子掲示板とは少し違い、情報の発信や共有、拡散機能などに重きが置かれているのが特徴的だ。周が見ているSNSは、ユーザーになれば写真や日常の呟きなどを文章にして投稿することができる。これを見れば色々な人から情報が得られるかもしれない。周はさっそく、画面をスクロールをしてみることにした。すると、佐藤の事件のことについて文章にしている人が何人もいた。しかし、それは目を塞ぎたくなるような内容であった。


「……え……?」


 ≪学校の屋上で自殺とか迷惑過ぎるだろ。親に迷惑かかるって分からないのかな?≫


 ≪ドア壊すくらいの元気あんのに死んだのかよwwwww≫


 ≪最近女子高生の自殺多いけど流行ってんの??≫


 ≪不法侵入じゃん≫


 そこには確かに佐藤のことについての投稿だ。しかし、まるで佐藤を侮辱するような内容であり佐藤のことを心配する者は誰1人いなかった。そして、周はこれらの文章に間違えがあることに気が付いた。


 「違う……違う、まだ死んでない、生きてる……」


 それは、佐藤が既に死んでいる前提で文章にされていたことだった。何故、死んだことにされているか分からなかったが、確かにそれは間違いだった。周は震える手でスクロールを続ける。


 ≪屋上自殺とか漫画みたい≫


 ≪顔写真とかないの?見たい≫


 ≪学校って損害賠償とかないの?≫


 誰も佐藤が死んだことにされていることについて否定している者はいなかった。佐藤のことなど、どうでもよさそうであった。周には理解が出来なかった。それよりも学校の設備や損害賠償の心配をする者や面白半分の内容しかなかった。周は全校集会の校長のことを思い出す。周は校長と同じ考えのものが何人もいるだなんて考えられなかった、考えたくもなかった。


 「なんで、なんで」


 そして唯一佐藤がまだ死んでないと理解している投稿があった。けれど、それも佐藤を援護するような内容ではなかった。


 ≪とゆうか、まだ死んでないんでしょ?さっさと死んどけば楽だったのに≫


 「……っ!!」


 周は気づいたらスマートフォンを投げていた。スマートフォンは周の少し離れたところで地面に落ちた。


 「……なんでっ……!」


 周は呼吸ができないほど苦しく、辛くなった。どうしてこんなに、心のない言葉が出てくるのだろうか。それはきっと他人だからだ。赤の他人の自殺など心から心配し、悲しむものなど誰もいないからだ。けれど他人だからといって、ここまで言ってもいいのだろうか?周にはなにがなんだか分からなかった。


 周にとって佐藤は他人ではなかった。


 同じ学校の人でもあり、同じ学年の人でもあり、同じクラスの人でもあり、大切な好きな人だ。


 周は怒りと悲しみで震えた。許せなかった、匿名で好き勝手発言し佐藤を死んだことにしているSNSのユーザーも、生徒のことではなく学校の評判や費用のことにしかない校長も。


 こうして傍観者になることしかできない自分も。周は自分に腹が立ち、悔しくなった。彼女を守るようなことも、助けるようなことも、なにもできなかった。ただ、彼女の安否を心配することしかできなかった。


 


周は涙で目の前が霞んだ。止めようとしても、止めることができなかった。


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