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君の瞳に  作者: 志崎誠
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4章

そこは暗闇だった。真っ黒でなにもない、ただの空間のように思える。


道もなければ、今歩いているのが上なのか下なのかも分からない。


周はただ歩いていた。キョロキョロと周りを見ても人は誰もいない。


しかし、少し先に少女がいた。そしてそれが佐藤だと周にはすぐに分かった。


「佐藤さん!」


周は小走りで佐藤に近づき声をかける。


佐藤は優しく微笑んでいた。しかし、周は不自然に見えた。思わずもう一度名前を呼んでしまうほど。


「佐藤さん……?」


すると佐藤はゆっくりと口を開ける。


『さようなら』


あの時と、同じ言葉だ。


佐藤は浮かんだ。フワリと気球のように。周は急いで佐藤を追いかける。しかし佐藤は何処までも遠く、先に行ってしまう。


待って…待って…!


「待って!!」


手を伸ばした先は、天井だった。暗闇にいたはずだったのが今は周の自室にいる。


周が困惑していると、ジリジリと大きな音がした。目覚ましのベルの音だ。周は慌てて目覚ましを止める。


そして周は今までのことが夢であることに理解した。


周は深い溜息をつきながら、


「ベタすぎる…」


まるで物語の主人公のようだ。


あまりにも夢見が悪かったからか、周は冷や汗をかいていた。パジャマにじっとりと汗が滲んでいる。


「篠原様?!」


先ほどの周の声で起きたのか、隣にいるセールスさんが驚いている。


セールスさんは心配そうにどうかされましたかと、周に声をかける。


「ちょっと、とゆうか、結構変な夢を見てね」


アハハと周は自分自身に呆れながら笑う。


「フツーの話が大事なのも分かっているんだ。でも」


周は自室の机に置いてある卓上カレンダーを見る。一日が終わるごとにコマに斜線が引いていた。そして今日の日付は、


七月月三十一日。


八月十六日まで残り二週間あまり。つまり、その時には佐藤の生死が判明していることになる。


『さようなら』


あれは佐藤が飛び降りする前に周に言った最後の言葉だ。その言葉は周の心にずっと深く残っていた。


「もう、時間がないんだ」


寝起きの乾いた声で周は呟く。


「……怖いよ……」


怖い。淡々と過ぎる時間に周は恐怖を感じた。一日が経つ度に、不安で胸がいっぱいになっていた。その気持ちが夢に現れてしまったのだろう。しかし、それが夢で収まるとは限らない。


佐藤がいなくなるのは嫌だ。それが自分のエゴだとしても。


「篠原様」


セールスさんが優しく周の背中を撫でる。小さな前足は優しく、どこか心地よさを感じる。


「篠原様なら大丈夫です」


セールスさんは初めて会った時から周のことを力を貸してくれと言っていた。しかに周には力を貸せるほどのモノは持っていないと思っていた。


「そんな確証……ないよ」


「私は知っています。篠原様がとてもいい人だということ。そして」


「篠原様が佐藤様に抱いている気持ちも」


周の指がピクリと動く。


「……やっぱり知ってたんだね」


「でなければ、訪れません」


確かにと周は納得した。


「ですが私は、そのお気持ちを茶化しに来た訳ではありません。篠原様が抱いているその気持ちは、とても強いものです」


周はセールスさんの言っていることの意味が分からず、首を傾げる。セールスさんは周を気に留めず話し続ける。


「そして、とても優しいのです。心が穏やかで温かくなります。私はそれを知っています」


「篠原様には、それを持っております」


セールスさんは真っ直ぐな瞳をしていた。周は自分の心が浄化されたた気分になっていた。


不安は正直、まだある。しかしそれ以上の何かが周に宿った。


「ありがとう」


周はベットに降り、部屋のカーテンを開ける。天気は晴天だ。夏の太陽の光が酷く眩しい。


この晴天を、佐藤と一緒に見たいと周は願った。

長らく更新を止めてしまい、申し訳ありません。読んでくださりありがとうございます!

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