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君の瞳に  作者: 志崎誠
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3章

深夜の美術室は今日も話し声が聞こえている。


周と佐藤はここ数日で色々なことを話した。と言っても、話しかけてるのは殆どが周でそれに佐藤が返答する流れが続いていた。


お陰で周は佐藤のプロフィールはほぼ、知ることができた。


しかし、今日は少し違った。珍しく佐藤から話題を振ってきたのだ。


周は嬉しかった。


「……コンプレックスとか、ある?」


佐藤はボソっとした声で言う。


周はキョトンとした顔をする。意外な質問だった。


「あるよ」


周はサラッと答える


えっ、と佐藤は思わず声を上げた。


「あるんだ」


自分から聞いてきたのに佐藤は驚いた顔をしていた。周はうん、と頷き。


「名前」


「名前?」


「周って書いてあまねって分かりづらいでしょ?しかも発音だけだと、女の子みたいな名前だからさ、よくからかわれたりしててさ」


それは忘れもしない、幼少期の頃の話だった。周が幼稚園のジャングルジムで遊んでいた時だ。


当時のガキ大将と呼べる男子達が、「あまねちゃんは女の子だから登っちゃダメ」など意味が分からない言い掛かりをつけられたのだ。


周は女の子じゃないよとガキ大将達に訴えたが、完全に周の言葉を無視し、「あまねちゃんは女の子」とずっと繰り返していた。周は遂に泣いてしまった。


しかしその後、近くにいた藤沢がそのガキ大将達をこれでもかというほど、ボコボコに殴りガキ大将を泣かせた。


普通ならば、お礼をする所だが周は更に泣いていた。単純に殴ってる藤沢が怖かったからだ。


今思い出してもその時の藤沢は幼稚園児とは思えないくらい怖かった。怒ると怖いタイプなのだろう。


これを機に藤沢と仲良くなったのは良かったが、事態は大ごとになり、互いの親を呼び出す始末となった。


「母親に泣きながら怒ったんだよね。どうしてもっと良い名前にしなかったんだって。そしたら母さん、困った顔でごめんねって謝られて」


周は懐かしいなと思いながら話す。佐藤は何も言わずに聞いている。


「母さんには悪いこと言っちゃってたな。で、その日の夜、不貞寝してた俺を無理やりリビングに連れ出してさ」


そして周はある文章を呟く。


「学問に得る者は深くして周く、見聞に得る者は近くして実なり」


知ってる?と周は佐藤に聞く。佐藤は首を横に振った。周は続けて喋る。


「福沢諭吉の『学問のすすめ』っていう本の中の文章なんだけどね、勉強してる人や見たり聞いたりして得た知識はやがて身につく…みたいな意味で」


「その文章の中の『周』が俺の名前なんだって」


「見て、聞いて、物事を狭く考えず、『あまね』行き届いて欲しい。そんな意味にしたんだって。だからそいつらは頭が悪いだけなんだっーって。その時からかな。気にし過ぎなくなったのは」


「それでも、どうしてもカッコいい名前に憧れたりするけどね。結局は無い物ねだりになっちゃうけど。それに当時は話が難しすぎてはぁ?!ってなってたし」


「そっか…」


「佐藤さんは?」


「えっ?」


「佐藤さんの名前の由来は?」


今度は周が佐藤に質問をした。今までプロフィール的なことは聞いてきたが、名前の由来は聞いていなかった。


「そんなの…考えたこともなかったな」


佐藤は下を向きながら答える。


「どうせ適当に付けただけだよ。栞なんて名前の人、そこら辺にいっぱいいるし」


「そ、そうかな…?」


確かに漢字は違くても、『しおり』という名前の人はよく聞く。しかし周はそんなことないのではと戸惑った。


「そうだよ、どこの親が全員名前に意味を込めてるとも限らないし」


「でも……綺麗な名前だと思うけどな」


しおり。何処にでもある名前かもしれないが、周は綺麗な名前だと思っていた。周による惚れた欲目によるものかもしれないが。


佐藤は小さく、それはどうもと呟く。


お互い無言になり、なんだか気まずい雰囲気になった。


「そういえばさ!!」

空気に耐えられなくなり、周は大きな声を出す。


「な、何?」


「佐藤さんが言ってた好きな歌手の歌聞いたよ。凄い上手な人だね!」


周は佐藤に普通の話をしようと言った日に、好きなアーティストなどはいるかと質問をした。


佐藤は少し間を開けながらある歌手を挙げた。それは女性のシンガーソングライターで、まだあまり知られていないマイナー歌手らしい。


周は次の日にその歌手を調べ、歌を聞いた。歌声がとても綺麗で、繊細な声をした歌手だった。周は思わず聞き入れてしまうほど歌が上手であった。


「覚えてたんだ」


「CDも買ったよ」


「そんなにハマったの?!」


周が聞いたのはミュージックビデオだったのだが、その動画には歌の一番しか聞けなかったのだ。続きが気になり、その日の内に買った。


勿論歌がいいのもあるが、佐藤との共通の話題を作りたいからというのもある。しかし、それを無しにしてもいい歌だった。


周はあることを思い付いた。


「明日は音楽室に行こ!」


「えぇ?」


佐藤はめんどくさそうな声を出す。しかし周は気にせず佐藤に話しかける。


「CD 家から持って来るからさ、デッキに流そうよ!音楽室なら結構いいデッキだろうし」


「一人で聞けばいいじゃん」


「佐藤さんも好きなんでしょ?ならいいじゃん!」


「約束」


周は佐藤の顔を見て言った。佐藤は気まずそうな顔をしている。


「約束なんて、子供みたい」


「約束に子供も大人もないよ」


ね?と周は微笑む。


周の押しに負けたのか、「分かったよ…」と言う。


周は楽しみでしょうがなかった。








そして時は七月末日となる。

風邪をこじらせ、少し休んでしまいました。読んでくださりありがとうございます!感想などお待ちしております。

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