3章
時刻は二時半。佐藤は病院にいた。
病院内は電気が1つも付いていなく、真っ暗だ。暗い病院は中々に怖かったが、気づいたら慣れていて今では何も思わなくなっていた。
佐藤は飛び降りた日から午前二時から二時半の三十分間だけ、学校の美術室にいた。
自分から移動しているわけではない。瞬間移動のように、佐藤が何もしなくても勝手に移動されてしまう。
きっと他の教室に移動しても、問題はないが動く気になれなかった。
何故毎回美術室なのかも分からない。
だが、佐藤は考える気力もなかったのでそのまま放置していた。
美術室にいる時は窓からの景色を見るか、ボーッとしているかのどっちかだった。
しかし、数日前からある人物が登場した。
篠原周、彼のことだ。
彼は一体、何を考えているのか。佐藤には全く分からなかった。
まず、深夜だというのに学校にいるのだ。本人はパトロールとか言ってた。その時はどうでもよかったが、今思うと変だ。
その日、佐藤と篠原はひたすら会話をした。内容は至って普通だった。
好きな食べ物、好きな色、好きな動物、好きな音楽……。まるで中高生がやるプロフィール帳みたいな質問だった。
それに答える自分も自分だがと佐藤は呆れた。
篠原は同じクラスメイトなので知っていた。
明るて、優しい、それが篠原に対するみんなの評価だった。
人気者で、誰からにも好かれてる人間。そして当の本人はそれに鼻にかけてる様子はない。寧ろ、自覚もしていない。
自然と自分とは生きる世界が違うと佐藤心の中で感じていた。
『フツーの話をしよう。俺、佐藤さんと話してみたかったんだ』
佐藤は篠原に言われた言葉を思い出す。佐藤はこの言葉が一番分からなかった。
篠原が自分と会話をしたとしても篠原が得することは何一つ無い、佐藤はそう考えていたからだ。
佐藤は病院のベットを見た。
目の前には怪我だらけの自分が寝ている。
あちこちが骨折しているのか体のほとんどが包帯で巻かれている。顔にも包帯がグルグル巻きで、どんな顔をしているのか分からなかった。
これでよく死ねなかったなと関心さえ思えてしまうほど、酷い怪我だった。
心拍数が表示されるモニターのピッピの音が規則よく聞こえる。
人は心拍数の音を聞くと落ち着くと言うが、佐藤はこの音ががとても憎らしかった。自分が生きているという何よりの証拠だからだ。
深い溜息を吐きながら、佐藤は床に寝っ転がり、目を瞑る。
体が離れているからか眠気がしないが、やることが特になく、寝たふりしかできなかった。
『——と——だよね——』
『あのさ——は——』
嫌な音が、映像が、頭の中に流れる。
目を瞑ってもそれは勝手に現れた。
体がくっ付いていたとしても、きっと寝れないだろう。
佐藤は自分が病室で寝ている状況に情けなくなった。これでは飛び降りた意味が何もないではないか。
こんな時でも自分は、何もできない。
「早く…早く…」
佐藤はセーラー服のスカートの袖を握りしめる。
「死なせてよ……」
その言葉は、いつから思ったのか。もう覚えていない。
今回は初めての佐藤さん視点です。どうだったでしょうか?読んで下さりありがとうございます!感想などお待ちしております。