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君の瞳に  作者: 志崎誠
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3章

「ごめん、葉月さんに少し話しちゃった」


「あれくらいなら大丈夫ですよ」


夕方の帰り道。商店街から一本外れた道には周とセールスさん以外誰もいない。


少し喋りすぎたかなと周は心配していたが、どうやら大丈夫なようだ。


太陽が照りつける昼とは違い、夕方は気温がまだ穏やかだ。たまに吹いてくる風が心地いい。


「葉月様はとてもお優しい方なのですね」


歩きながらセールスさんは言う。青色の瞳が夕日に反射してキラキラして綺麗だ。


「うん、憧れの人なんだ」


初めて会った時から良い人だとは思っていたが会う回数につれ、今では周の目標の人になる程周は葉月に憧れている。


周は自分が葉月にした質問を思い出す。


よく考えたら、セールスさんは天界の者だ。大抵の人は天界に行くのだろうか。


「天界ってさ。どんな所なの?」


周はセールスさんに試しに質問してみた。


「私の口からでは何も言えません」


セールスさんの口調はハッキリとしている。


「教えたらダメなの?」


「はい。本来、こうやって私と篠原様が会話することも異例な位です」


そう言えば、初めて会った時も上層部の者やらと難しい事を言っていた。色々と決められているんだろう。


「現世では天界のことや、死後の架空の世界のことなどが物語の題材として扱われることが多いですよね」


セールスさんは周の少し先を歩いている。なので、どんな表情をしているのか周には分からない。


「確かに。多いよね」


実際、周も死後がテーマの漫画を何冊か持っていた。人気な作品となると、アニメーション化や実写化などもしたりする。


するとセールスさんがピタリと歩くのを止めた。そしてクルリと後ろを向き、周の顔をジッと見る。


「それくらいでいいのですよ」


「え?」


意外な一言に周は驚く。セールスさんの顔は真剣だった。


「想像するくらいが丁度いいのです。死んだ後のことなど、生きている人間が考えることではないのですから」


そうして再びセールスさんは前を向き、歩き始めた。


「そっか…そうだね」


周はそっと呟いた。






商店街にも通り終わり、もうすぐ家に着こうとした時だった。


「花屋…?」


ずっと工事していた場所がリニューアルして花屋になっていたのだ。店に貼ってあるチラシには『本日オープン!』とデカデカに書いてある。


周は花屋の外観を少しだけ見た。全体が淡くピンク色の店でファンシーと言える雰囲気をしていた。店の外にも花が売っている。


するとある1つの苗が目に入った。


花など周は普段ちゃんと見たことがなかったが、何故だか目を奪われてしまった。


そして近くにいる店員に声をかけた。


「すみません、これください」










その日の深夜。周とセールスさんは美しが丘高校にいた。


「ああ…緊張する…」


前回のこともあり、周は緊張していた。不安で胸が張り裂けそうだった。


「ガッツです。篠原様」


そしてセールスさんは前足を上げる。


なんだそれと思いながらもセールスさんの行動に安心してる周がいた。


階段を上り終わり、美術室が見えた。


「じゃあ、行ってくるね」


周はセールスさんの頭をそっと撫でる。


「はい。お気をつけて」


セールスさんは嬉しそうに尻尾を左右に振っていた。


周は美術室のドアを開ける。


佐藤はやはり美術室にいた。窓際で小さく、体育座りをして下を向いている。


その姿はとても寂しげだった。


その光景を見ていたら、自然と不安と緊張はなくなっていた。


「佐藤さん」


周が声をかけると佐藤はビクりと肩が震え、驚いた顔で周を見つめた。


「なんで…」


前回、あんなことになったので来ないと思っていたのだろう。


驚いている佐藤に周は微笑む。


「渡したい物があって」


周の手には10センチ位のポット苗があった。苗には淡い紫色の小さな花が何輪か咲いている。


「綺麗だから佐藤さんにも見せたくなったんだ。紙が刺さってなかったから、種類が分からなかったんだけどこの花なら分かったんだ。ジャスミンだよね?」


「それ、ジャスミンじゃないよ」


佐藤が小声で言う。


「えっ?!」


「ツルハナナスっていうお花だよ」


『お花』佐藤のその言い方が可愛らしかった。周が勝手にときめいているのも知らずに佐藤は喋り続ける。


「ほら、このお花紫色でしょ。ジャスミンにも紫はあるけど、これは微妙に形も違うし…」


確かによく見ると、微妙に違う。


「本当だ…」


周は佐藤が花に詳しいのを初めて知った。


周は向日葵や桜など誰でも知っているような花くらいしか知識がなく、ツルハナナスなど生まれて初めて聞いた。


「花、好きなの?」


周は佐藤に質問する。しかし、


「そんなの…篠原君に関係ないよ」


佐藤は答えてはくれなかった。


「お花、見せてくれてありがとう。もう帰った方がいいよ」


またプイッと顔を下に向けてしまった。


周は佐藤について少しだけだが、知れたことが嬉しかった。


もっと話したい。


佐藤がなにが好きで、なにが苦手なのか。どんなことに興味があるのか。


周はなにも知らない。


もっと知りたい。


その気持ちは大きく膨らんでいった。


周は佐藤の隣に座る。


佐藤は思わず顔を上げた。


「か、帰りなよっ…!」


「帰らない」


周は即答した。


周は横にいる佐藤を見つめる。よく考えたら、こんな近くで顔を見たのは初めてかもしれない。


「フツーの話をしよう。俺、佐藤さんと話してみたかったんだ」


その言葉はもしかしたら、ずっと前から言いたかったのかもしれない。




今回は少し甘めな(?)雰囲気ですね。読んで下さりありがとうございます!感想などお待ちしております。

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