3章
周は慌ててごめんなさい と謝った。
あまりにも急な質問をしてしまった。慌てて周は葉月の顔を見る。
「それは死んだ人にしか分からないなぁ」
周のいきなりな質問にも葉月はまた、優しい声で返してくれた。
「そう言えば聞いたよ。周君の学校で屋上から飛び降りた子がいたんだって?買い出しの時に、保護者らしい人が言ってたよ」
やはり近所の人にも知れ渡っているらしい。だか葉月の口から佐藤のことを触れられるとは周は思わなかった。
「…その子となにか関係があるのかな?」
なんて言おう。周の脳内にはそれしか浮かばなかった。どの言葉が正解なのか分からない。
でも。
少しだけ、少しだけ話せば何か変わるかも知れない。
「その子は今……意識不明の重体なんです」
「うん」
ドクドクと心臓の音がする。周はなにも悪いことはしていないのに、緊張していた。信じてもらえないと思っているからだろうか。
スゥと深呼吸をしてから周は口にした。
「もしも…俺が、その子と会話してるって言ったらどうしますか…?」
「へー、そうなんだ。ってなるよ」
あっさりとした返事に周は驚く。
「信じてくれるんですか?」
「周君はそんな嘘言わないでしょ」
そして続けるように。
「だから信じるよ」
いつのまにか心臓の鼓動は落ち着いていた。周は 信じてくれたことに嬉しくなった。話してよかったとそう思えた。
調子が戻ったのか、安心したのか、また少しだけ周は佐藤のことについて話した。
「怒らせてしまったんです。生きていたら、生きるのが好きになるんじゃないか…みたいなことを言って」
「死にたい人間からすれば、それは苦になるだろうね」
カウンターでコップを吹きながら葉月は断言した。
やはりかと周は少し落ち込む。
「世の中にはいろんな人がいるよ。死ぬとかの概念を考えなく生きてる人。生きたいのに生きられない人。生きるべきではないのに生きてる人死にたいのに死ねなくて、生きてる人…生きているけど死にたくて死ぬ人」
どれが正解でも不正解でもないけどねと葉月は付け加えて言う。
佐藤が死にたいから死んだと言っていたのを周は思い出す。
「よく分からないけどさ、フツーに話せばいいんじゃない?」
「フツー?」
「そう。何気ない会話がよかったりするんだよ。気負いしないでさ」
そうか、フツーでいいのか。周の心が軽くなったような気がした。
やはり葉月さんは凄いやと感心するのであった。
気づいたら夕方間近の時間になっていた。流石にもう帰らなくてはいけない。
周は会計を済まし、帰る支度をした。
「またおいで」
葉月はニコリと周に笑いかけた。
「ありがとうございます!」
カランとベルの音と共に周とセールスさんは店から姿を消した。
店内にはシンとした空気が広がる。
「……死んだら、ね」
葉月のその一言は周に知る由もなかった。
更新する曜日がバラバラになってしまい、すみません。読んで下さりありがとうございます!感想など是非、お待ちしております。