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君の瞳に  作者: 志崎誠
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2章

時刻は二時十分。丑三つ時の真っ只中、周は佐藤の隣に座っていた。


何かを話すといったことはしていなく、静かな二人の沈黙と時計の針の秒針の音だけがそこに存在していた。


周はチラリと隣にいる佐藤を見る。佐藤は学校の夏服を着ている。


よく見てみると、首に花のネックレスを付けている。花と言っても、開花はしていなく蕾のままだった。緑色の蕾で、桃色の線のようなものが何ヶ所にある。


周の学校はアクセサリーなどを付けて登校するのは、校則で禁止されている。一部の派手な生徒はそんなものは無視しているが、佐藤はそのような物を付けている姿は見たことがなかった。


佐藤はどこか一点を見つめていた。何を考えているか周には分からない。大人な、澄ました顔をしていた。なんだが、聞くに聞けない雰囲気をしているので、話しかけにくい。


周が声をかけた時も、多少驚いてはいたようだがそれ以降、リアクションというものが全くなかった。


周がどう話を切り出そうと考えていたら沈黙を破るように佐藤が口を開いた。


「なんでここに篠原君がいるの?」


質問したくなるのは当たり前だ。深夜二時に美術室に来てあわよくば、病室で寝ているであろう佐藤に声をかけた高校生は周だけだ。  


絶対に来そうな質問であったのに、周はなんて答えるか考えてなかった。


考えた結果。


「パトロールみたいな…?」


我ながら酷い答えだ、と周は自分の答えに落胆した。必死に考えた答えがこれだった。


しかし佐藤はふぅん、とそれだけしか言わず、それ以上は言ってこなかった。


「まぁいいや、どうでもいい」


心なしか、声に棘があるような気がした。


そう言いながら佐藤はゆっくりと立ち上がる。


「変だよね、いきなり美術室とか。さっきまで私病院にいたのに」


「えっ?!」


「でも、自分の姿を見たのは今が始めて。病院の時は何故か自分が見えなかったの。透明人間になったみたいに」


しかも病院の外には何故か出られないしと不満そうな声をした。


セールスさんは佐藤は丑三つ時にしか現れないと言っていたが、魂だけは消えないのだろうか。


「いつくらいからそうなったの…?」


周は恐る恐る聞いてみる。


「飛び降りた次の日だよ」


「最初はね、あの世だと思ったの」


あの世という言葉に周はビクリと反応する。


「でも目の前に寝てる自分がいてまだ死んでないって分かったんだ」


「なんだ。私死に損ねたんだーって」


とても残念そうな声だった。なのに声は明るい。どうして、そんなに喋れるのだろうか。佐藤は今の起きていることを他人事のように、ケロッとした顔で話してる。紛れも無い、自分の話を。


それを諭したのか、佐藤はまた喋る。


「よく喋るなって思ってる?自分の自殺のことなのにって」


察しられたことに驚き周は返事することができなかった周の返事を聞かず、独り言をするように佐藤は喋り続ける。


「なんでだろうね。もう全部どうでもいいからなのかな。気持ち悪いくらいにペラペラ喋れちゃうの」


遂には、あははっと小さく笑った。とても自殺しようとした人間には見えない。


「どうして…自殺したの…?」


何故か口に出た言葉だった。一番聞きにくい、いや、聞けない質問のはずなのに。咄嗟に周は佐藤の顔を見る。


立っているため、月明かりが佐藤をまるでスポットライトのように当たっていたが、周には佐藤が儚げに見えた。


すると、佐藤と目が合った。そして彼女は、


「死にたいから死んだんだよ」


佐藤は微笑んだ。しかしそれは周が知っている微笑みとは違っていた。彼女は恐ろしいほど冷たい瞳をしていたのだ。いつしか見た、あの美しい瞳は何処にもいなかった。


それはまるで佐藤栞ではない他人を見ている気分であった。


「やっぱり、I was born だね」


周にクルリと背を向けながら佐藤は呟いた。その言葉に周は首を傾げる。英語だということは発音で分かったが、どうして「やっぱり」に繋がるのか、周には分からなかった。


「知らない?現代文の教科書に載ってるよ」


どうやら、何か文章の題名らしい。周は現代文の授業を思い出してみたが、I was bornという題名は初めて知った。もしかしたら、習ってないのかもしれない。


「人はね、好きで生まれているんじゃないんだよ。自分の意思ではないの」


驚きだった。彼女の口からそんな言葉が出たことに。


「そんなことはないんじゃないかな…」


掠れた声で周は言った。その言葉に佐藤はピクリと動きを止めた。


「い、生きていたら…好きになっ」


その時だった。佐藤が振り向いた。しかし先ほどの顔とは違っていた。怒りのような、そんな顔に近かった。周は思わず目を見開く。


「なに?生きてれば楽しいことがあるとでも言いたいの?死にたくて死のうとした人間に向かって?」


「え、その」


「なんで憶測だけでそんな言葉が言えるの?好きで生まれているんだったらどうして自殺する人が毎年増えているの?」


マシンガンみたいだ、周はそう思った。佐藤は怒っているのだろうか、それとも周を叱っているのだろうか。分からない。だが、どちらの表情もしてないように周は見えた。


佐藤のマシンガンは続く。


「人はさ、誰かが自殺したらみんな言うんだよ。どうして?もっとこうしていたら、ああしていたら……って。生きている時にはそんなこと言わない癖に」


周は佐藤の自殺を知った時の自分を思い出した。


『あの時自分がもっと気づいていたら』


「篠原君も同じだよ。私と大して話したことないじゃない」


「…っ…」


辛辣な言葉だが、佐藤の言うことは合っていた。周は佐藤と会話したことはほぼ皆無だった。だが、本人にそれを言われるのは周にとって辛いものだった。


「生きていたらって何?!自殺するのがそんなにいけないことなの?どうして他人みたいな人にそんな言葉言われないといけないの!!」


「佐藤さん…っ…!?」


周が立ち上がろうとしたその瞬間だった。


佐藤は消えた。それは文字通りの言葉で、瞬きをしていなくても追いつけないほどの刹那の如く、消えた。周はハッとして急いで時計を見る。


二時三十分。丑三つ時が終了したのだ。


周は伸ばした手を戻すことができなかった。


周はどこか、甘く考えていたかもしれない。話せばなんとかなる。きっと、大丈夫だと。しかしそれは全て間違えだった。







彼女の死は本気だ。


皮肉ながらも、これが始めて佐藤と長く会話した日であった。




ちゃんと投稿するとかほざいてた癖に遅くなって申し訳ありません…。よかったら感想などくださると嬉しいです…。

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