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君の瞳に  作者: 志崎誠
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2章

 次の日。時刻は夜の一時半を回っていた。


 普段の周だったら、とっくの通りに夢の中であったが、子猫に起きていてほしいとお願いされたので夏休みの課題をしていたりなどをして時間を潰していた。


 子猫は今日も周の部屋にいた。


 周の通っている学校、美しが丘高校は昼に終業式が終わり晴れて夏休みとなった。しかし周にとってそれは、カウントダウンの始まりとも言えた。


 終業式時は少しばかりか、佐藤の話題は少なくなっていた。夏休みに入るからか生徒は遊ぶ予定を計画していた。周も藤沢や同じクラスで仲のいい向井と鈴木と海に行く約束をした。しかし、それ以外の予定は入れなかった。周には大事な使命があるからだ。


 『佐藤栞を八月十六日、盆の終わりまでに生きたいと思わせること』


 この使命を果たすでは夏休みなどと言ってはいられなかった。


 昨夜、周は子猫の頼みを了承し、タッグを組むことになった。組むことになったことはいいのだが、周はある疑問を抱いていた。


 それは、どうやって佐藤と会話をするかであった。『思わせる』ということは、佐藤と会話をしなくては成立しないと周は考えた。しかし、佐藤は天界の力で生き延びているとはいえ、意識不明の重体だ。意志の疎通は無理があるだろう。


 周は課題の手を止め、子猫に話しかける。


 「そういえば、どうやって佐藤さんと会話するんですか?セールスさん」


 「……」


 「?どうかしましたか?」


 「その、すみません。セールスさんとは……」


 「名前がないと不便かなって。嫌でしたか?」


 昨日の夜、これから共に行動をするのだから、名前を教えてほしいと周は子猫に名前を聞いた。すると、子猫は名前などないと言ったのだ。


 聞くところによると、天界の者で名前があるのは上層部の中でもほんの一握りで、ほとんどの者が名無しらしい。まるで昔の人みたいだ。


 子猫は「お好きなようにお呼びください」と言った。なので周は名前を考えることにした。最初は『タマ』にしようとしたが流石に捻りがないと思い、悩んでいたら周は子猫と会った時の印象を思い出した。


 そうだ、あの礼儀正しさと口調の雰囲気……セールスの人だ!――


 そこからは決めるのは早かった。『セールス』だけだと、なんだか味気がない気がしたので、敬意をこめて『さん』を付けた。これを合わせると『セールスさん』になる。


 周は我ながらいい名前だと思っていたが、どうやら子猫にはお気に召さなかったらしい。


 「最初は『タマ』にしようかと思ったんですけど……そっちの方が良かったですか?」


 「いえ……私が好きなようにと言ったので。それと、敬語でなくとも差し支えありませんので、そちらもどうぞご自由に」


 「え、は、うん……?」


 周はセールスさんと話していると、口調や子猫から出しているとは思えない大人じみた声からか、どうも年上と話している気分だった。なので無意識に敬語で話していた。だが、せっかく許可は貰ったのだからタメ語で話そう、周はそう決めた。


 セールスさんが「そういえば、質問に答えていませんでしたね」と言った。


 「今から篠原様は、私と一緒に美しが丘高校に行ってもらいます」


 「えっ、学校?!」


 周は驚きの声を上げた。てっきり、佐藤のいる病院に行くのかと思ったからだ。しかし、よく考えれば今病院に向かっても、病院はとっくに閉まっていることに気が付いた。だが、それでも、何故佐藤、はたまた、誰もいないであろう、夜の学校に向かうのか、周は分からなかった。


 するとセールスさんが淡々と説明をする。


 「そこに、佐藤様の生霊がいるからです。佐藤様の現在のお体は、本体と魂が離れている状態です。本来、生霊とは自由に行動できますが、佐藤様の場合、飛び降りを行った学校内でしか行動できないようになっています。そうですね……簡単に言えば、生霊と地縛霊を混ぜたようになっています」


 「な、なるほど」


 なんとなくだが、周は理解した。佐藤はとにかく複雑な存在になっているらしい。


 「そして時間制限もあります」


 「時間制限?」


 「はい。『丑三つ時』までとなっております」


 「うしみつどき……?」


 周は生まれて初めて聞く単語に首を傾げる。こればっかりは、周は理解し難かった。


 そしてまた、セールスさんが説明をする。


 「まず、丑の刻というのがございまして、午前一時から午前三時までの二時間のことを言います。そして、丑の刻を四つの時間に区切ったものがあります。四つの時間の呼び名は、それぞれ『丑一つ時』、『丑二つ時』、『丑三つ時』、『丑四つ時』と言います。そして今回、丑三つ時が佐藤様の現れる時間になります。一般的に、霊やお化けは一日中いるわけではなく、丑三つ時に現れると古くから言われているのです」


 「な、なるほど……」


 そんな時間が存在したのかと周は愕然とした。そういえば、古典の授業でそのようなことを言っていたような気がして思い出そうとしたが、遠い記憶の彼方であった。


 しかし肝心のことが分からない、と周はセールスさんに質問をした。


 「それじゃあ結局、丑三つ時って何時になるの?」


 周の質問にセールスさんは痛いところを突かれたような顔をした。少しの沈黙の後周の質問に答える。


 「…………午前二時から二時半です」


 「短っ!」


 いくらなんでも短すぎないかと周は驚きを隠せなかった。それと同時に、霊やお化けはそんなに短い時間にしか現れないのかとも思った。


 すると周は重要なことに気が付く。


 「え、じゃあ、ちょっと待って。今の時間は……」


 周はベッドの脇にある目覚まし時計を見た。そして時刻は、




 午前一時五十分。




 「急ごう、セールスさん!時間がない!」


 「は、はい!」




 こうして時刻は、丑三つ時へと突入する。


我ながらダサい名前になってしまいました……。読んで下さりありがとうございます!

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