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戦慄の4日間  作者: 宙美姫
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第7話

「早く、こっちへ!」

 男が私に呼びかける。汗びっしょりだ。

 今、改めて気がついた。男は真剣そのものであった。

心の底から、私の身を心配し、私の身を守ろうとしているように見えた。

彼が私を守ろうとしている、と確信できた理由。

それは、押し寄せる波の音が、とても私を助けに来る救助隊の音とは

思えなかったからだ。

彼は、実は良い人なのかも知れない。

彼は、本当に私を助けたいのかもしれない。

気がつくと、私は彼の元へ走っていた。そこは部屋の中央。

彼が積み上げられていた金属製の箱から取り出した、私の知らない、

見た事もない変な機械類が無数に床に置かれている。

 あたりをキョロキョロする私に、彼は命令調で口を開いた。

だが、言い方はとてもやさしかった。

「ここ動くな。なにがあっても絶対動くな。」


 私は、彼のその言葉に静かにしたがった。

彼は、私たちがいる場所を中心に、円を描くように小さな機械を床に

置きはじめた。

 何をしてるんだろう? でも私にはわからない。学校の授業でも

教えてくれなかった。と言うより、授業はいつもうわの空だった。

彼は床のあちこちに小さな機械を置き終わると、手に持つ小さな装置を握り

スイッチを入れた。すると、私たちのいる部屋の中央が、ボゥ-ッと青白く光り、

半球の光の壁が二人を包んだ。


 小さな機械が八か所、円を描くように状に床に置かれている。

そこから発せられた光が二人を包む半球の光の壁を作っている。

何から何まで、見た事のない機械でいっぱいだ。

 まるでディズニーランドに来たようだ。いや、USJだったかな? 

私の、そんなとぼけた考えを、波の音が現実に呼び戻した。


「くるぞ!」

 彼の緊張した声が、すぐ近くに立つ私の耳もとに飛び込んでくる。

昨日首にナイフを押し付けられて脅された時と違い、

今度はなぜか安心できる。彼が、たくましく感じた。だ

が、小さな機械を握る彼の手には、汗がにじみ出ていた。

 長い廊下を、異様な物体の波音がだんだん大きく伝わってくる。

私が走って逃げた時、迷路のように感じた長い通路を、異様な物体の波音は、

迷いもせずひとすじに、この部屋に向ってきている。

異様な物体の波音がこれまでになく音をたて、大きくあたりに響き渡った。


 ザア-ッ! ぶつかる! 波が壁にぶつかる! 

そう思った瞬間、突然無音になった。急に静かになった。

この部屋に気づかず、私と彼がここにいる事に気がつかず通り過ぎてくれた。

そう思えたような、そう思いたかったような程、急にあたりは静寂につつまれた。


 音がしない、静かな静寂。彼の、押し殺した呼吸。

彼の、かすかに聞こえてくる心臓音。化物は、もういないのでは? 

と私は思えてきた。静かに彼の表情を見上げる。

ドアの向こうを一点に集中して見ている。よく見ると、彼はタケルに似ていた。

別に顔つきがそっくりというわけではなく、どこか雰囲気が似ていた。


 なぜ今頃気がつくのだろう? なぜ今まで気がつかなかったのだろう? 

それが不思議に思えた。たぶん、そんな余裕がなかったのだろう。

でも、そんな事を不思議に考えている余裕は、今は、ない。

静寂のあまり、私は彼の耳もとにそっと問いかけた。


「…いないんじゃ、通り過ぎたんじゃない…?」

 彼はあわてて指を口にあてて私を見た。

「しずかに。」

 次の瞬間、ドンッ! と言う鈍く大きな音がドアから響きわたった。

二度三度、ドアにぶつかる鈍い音が室内に響きわたる。


 いる! やつらはいる! 通り過ぎてはいなかった! 

かん高い、小さな虫が押しつぶされたような悲鳴の声が、

あたりに無数に響きわたる。

まるで私たち獲物がここにいるぞ!と仲間通し確認しあっているような、

早口の異様な声の数々。


 なんなの? この異様な声の持ち主は、いったい何者? 

正体は知りたくはなかった。正体を知る、と言う事は、声の主が室内に入り込む、

と言う事になってしまう。四回目にドンッと音がした時、

突然ドアが青く光り、バリバリ言い出した。


 突然の発光と衝撃に驚いた私は、思わず彼の方に身をよせた。

彼は右手に握った小さな機械をいじっている。 

ドアの発光と衝撃はせまりくる化物たちによって起きてるんじゃない。 

彼が、彼の手によって行われていたのだ。私は少し安心した。

ドアの四隅に仕掛けられた円盤状の機械。

それが何かの役目を果たして青白い発光と衝撃を起こしているのだ。

たぶん、そう思う。

私は、私を助けようとしている彼の一生懸命な姿に少し好感が持てた。

だが、そんな事にうつつを抜かしているヒマはない。

小さな機械を握る彼の表情が曇る。

彼の表情を見ていた私の耳に、突然、爆発音が響いた。


「きゃっ!」

 私は思わず彼の身体に飛びついていた。

爆発音とともに目も眩む強力な閃光と衝撃。ドアが爆発したようだった。

爆発とともにドアの破片や壁の一部が爆風で飛ばされた。

 あぶないっ! と思ったが、二人は、私たちは何も問題はなかった。

室内にもうもうとたちこめる爆発の煙。あたりには爆発で飛び散った残骸が

黒くくすぶっている。よく見ると、私たちを中心に円状に被害がない。

目に見えない壁に守られているようだった。


「なんで? どうして?」

 爆発の衝撃で耳が聞こえにくくなっていたが、二人を包む見えない壁から、

ブンブン、と言う機械音が聞こえてきた。これって、映画やゲームに出てくる

『バリア』かなにか? そう思って耳をすましていると、シュッと音をたてて、

無音になった。


「いくぞ。」

 彼は右手に握っていた小さな機械をおろし、私に合図した。

この『バリア』、彼が作ってたんだ。

彼は何者? いったいどこから来たのだろう? 

そう思って前を見る。ドアがあった方を見る。

そこにはさっきの爆発で、巨大な穴ができていた。

小さな火があちこちで燃えて黒くくすぶっている。


 そうだ! そう言えば、あの化物たちは、ドアに押し寄せていた

異様な化物たちはいったいどうなってしまったのか? 

さっきの爆発で全部吹き飛んでしまったの? 

そうあってほしい。化物たちは全部吹き飛んでしまった事にしたい。


 そう思い、ドアのあった付近に目をやると、黒くこげた変な物体が目に

飛び込んできた。それも一個や二個じゃない。ゆうに二十個ぐらいの、

焼けこげた物体がガレキの隙間から見える。


「な、なにこれ?」

 大きさは、そう、子犬か子猫くらい。だけど形が違う。

六角形のような、台形のような「身体」から、三本足が見えている。

何? これ? 虫? 虫にしては大きい。大きすぎる! 

化物が黒焦げで良かった。もしこれが黒焦げではなかったら、

きっと叫び声を上げていただろう。


「さあ、いこう!」

 黒焦げの物体を見て立ち尽くす私に、彼はやさしく手をさしのべた。

私は迷う事なく彼の手を取った。そうしなければ、黒く焼けこげた異物の亡骸の

上を通り抜ける勇気はなかった。靴を通して、ゴツゴツ何かあたる音がする。

コンクリートの塊かな? 足にグチャッと言う感触が伝わる。

げっ! 踏んじゃった! でも、見ないぞ! 足元の方は絶対見ないぞ。

私は足元の方は見なかった。私は、私を導いてくれる彼の方しか見なかった。


 たくましい彼! まるで『勇者』のような彼! 

まるで、タケルのような雰囲気を持った彼!

「あっ、そうだ!」

 彼の手に導かれ、化物とコンクリートの瓦礫を通り過ぎ、無事廊下に出た

ところで急に思い出した。タケル! そう、タケル!


 私はタケルから手紙をあずかっていた。

部活のミーティングの前にタケルから渡された手紙。

朝、タケルと携帯で話していた時に秘密が書いてあると言っていた「秘密の手紙」。

手紙はまだ読んでいない。

手紙は、大切な手紙は私のカバンの中に入れたままだった。


「いけない!」

「どうした?」

「カバン!」

 私は彼の言葉は聞いていなかった。彼は私を止めようとしたが、遅かった。

陸上部に所属し運動神経のいい私はすぐさまきびすを帰し、廊下から今脱出

したばかりの室内へと走りもどった。もちろん、足元はなるべく見ないように

した。それでも黒焦げの台形の異様な物体が目に飛び込んできたが。


「何をしてるんだ? 早く!」

 それはまるで、テレビドラマや映画の展開のようだった。

身の危険からせっかく脱出したのに、忘れ物かなにかして、取りにもどる。

よくある展開だ。まさか自分が「よりによって、こんな時に」の展開を

体験するとは思わなかった。


「あったっ!」

 床に落ちている自分のカバンから手紙を取り出す。

タケルが私に渡してくれた封筒だ。

何がはいっているんだろう? とても薄い。紙切れ一枚くらいの厚さだ。

そんな事に思いをめぐらせていると、後ろから彼が私に叫び続けていた。

「早く! 何をしてるんだ? 早くここを出ないと危ないぞ!」

 次の瞬間、けたたましい異様の叫び声があたりに響きわたった。

全滅した、と思っていた台形の異形な物体。しかし爆発で完全に倒した

わけではなかった。

身体の一部がすこし焼けこげているが一匹だけが生き残っていた。


 コンクリートの塊をかき分けて異様な物体が立ち上がる。

私の目に飛び込んできた、異様な物体の姿。

細い三本足で立ち上がる、異様な物体の姿。

それは、ダリだった。

そう、ダリ。

高校の美術の時間に教えてもらった、抽象画で有名なダリ。サルバドール・ダリ。

その物体はまるで、サルバドール・ダリが描いた抽象画のようだった。

極彩色に彩られた台形の身体。まるで南の島の鳥のような身体の色。

異様なのは、目である。大きな、巨大な丸く黒光りする目がひとつ、

台形の身体のほぼ中央にある。まぶたのような物を上下させ、眼球を

クリクリさせて私を見る。

台形のその身体をささえる三本足は、まるでか細い、木の枝のようだった。

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