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戦慄の4日間  作者: 宙美姫
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第6話

 四日目の朝。

たぶん、四日目の朝。

きっと、四日目の朝。

私の体内時計が、そう告げている。

私は誰? ここはどこ? とはもう思わない。

私は恵里花。女子高生。

変なオタクに誘拐され、何かの建物の地下の部室に誘拐されている。

深い睡眠から目がさめ、意識がはっきりとしてくる。


 風。風の音が聞こえてくる。嵐なのかな? 雨の音も聞こえる。

まるで台風だ。でも、この時期に台風なんて、来るのかな? 

私は、そんなに長い期間、誘拐されていたのかな?

そんな事はない。今日は四日目だ。まだ、四日目だ。

私は、それを確かめるように、目をあけた。

いつもの風景。

殺伐とした地下室。

室内のあちこちには、大きな金属製の箱が置かれている。


 なんだろう? この金属製の箱の中になにがはいっているんだろう。

そう思いながらあたりを見る。

男は、私を誘拐した、あの男は? 

頭をもたげて男の居場所を探すと、驚くべき光景が目に飛び込んで来た。


 寝てる。

男は寝てる。

しかも思いっきり首を落として、金属製の箱の上に座って寝ている。

男が熟睡していると確証が持てたのは、私が寝ている場所まで

そのイビキが聞こえてきたからだ。

うるさい。

自分のイビキの音でよく目をさまさないな。

そう言えば、タケルもそうだった。

タケルのイビキもうるさかった。

私は、はっ! と思った。

これはチャンス! と思った。

これなら外に、警察に電話できる。

今度もつながらないかも知れないけど、携帯で助けを求められる!


 私が名案を気がついた事を男に気付かれないよう、

携帯で外に電話する事に気付かれないよう、静かに動き出した。

寝ていて! 

気がつかないで! 

携帯を取り出すため、ゆっくりと制服に手を入れる。

またしても、指が制服に引っかかる。


 まただ! いつも指が引っかかる! 

今そんな事でいらついている場合ではない。

電源を入れる。

生きてる!  

携帯は生きていた。

アンテナは、今回三本も立っていた。

私はゆっくりと110番した。

男に気付かれないように指を動かした。

今は携帯早撃ち競争をしている事態じゃない。

だがつながらない。昨日と同じようにうんともすんとも言わない。


 今度もダメなのか? 外へは連絡が取れないのか? 

少しずつあせりだす自分に気付いていた。

だが携帯がつながらない不快感で、私はだんだんイライラしてきた。

携帯をかける私の後ろで男が寝ている事をだんだんと忘れはじめていた。

「…なんでだよ。つながれよ…!」

 苛立ちで私は声を出していた。もちろん押さえた声である。

相変わらず反応はない。110番を再送する指が痛くなってきた。

指に汗がにじみ出してきた。汗で携帯がすべりそうになる。

「…ちっ!」

 ますます私の不快感が蓄積されている。

電源入ってるんだろ? 

アンテナも立ってるんだろ? 

三本も!  

つながれよ! 

いい加減つながれっ! 

今思った事を、思わず口から叫びそうになって、あわてて振り返る。

大丈夫だ。

男は寝ている。

イビキをかいて、まだ寝ている。

私は振り返り、再度携帯を操作した。

いいかげん、つながってくれっ! 

次つながらなかったら、もう、こんな携帯いらない! 壊してやる!


 そう思って110番を押すと、今度は反応があった。

電波を発信する音、しばらく無音が続き、そして、呼び出し音が、

携帯を通じて私の耳に飛び込んできた。

やったっ! つながるぞ! つながって!


 呼び出し音が何回続いただろう? 

いつもだったら、五-六回呼び出しが続いて相手が出ない時は

ぶち切っていた。

だが、今回はそんな事はしない。

相手が出るまで待ってやる。

二十回だろうが、三十回だろうが、今度は私は、

相手が出るまで待ってやる。五十回くらい待っただろうか? 

まるでストーカー気分だった。

私にはめずらしく、おとなしく、静かに、

そしてイライラしながら相手が出るのを待ちつづけた。


 突然、反応があった。固定電話のように受話器を上げる音はしなかった。

まるで携帯電話に出るような感じで、電話に出た反応があった。

私はおもわず、小声で口を開いた。助かるかも知れない! 

希望の光を見つけたかのように、うれしかったが、

なるべく小さな声で携帯の向こうの希望に話しかけた。


「…もしもし! もしもし、警察ですか?…もしもし?」


だが、反応はなかった。

電話はつながっている。

雑音もしない。

切れた反応もない。

電話はつながっている。

確実につながっている。

だが、電話の向こうの相手は何も発声しなかった。

私は極度のイラツキを押さえる事ができなかった。

怒りがこみ上げ、興奮しているがわかった。

怒りを、感情の爆発を押さえる事ができなかった。

男に聞こえようが、携帯で外に連絡している事が見つかろうが、関係ない。

私は怒りをぶつけるため、精一杯押さえた声で爆発した。


「なんでだよ? なんで答えないんだよ? 

なんで警察に電話してんのに応答しねえんだよ?」 

 次の瞬間、私の耳に携帯を通じて、変な、不快な音が飛び込んできた。

まるで、人が早口でしゃべっているような、小さな虫がつぶされたような、

変な、不快な音だった。

しかも、ひとりではない。何人も、複数の「声」の反応があった。


 何、これ? 何よ、これ? 変な音。

誰が答えたのよ? 

この電話、壊れてるんじゃないの? 

そう思った時、背中がゾクッとした。

これほど、意外でビックリして驚いたのは、妊娠をつげられた時以来だ。

今は妊娠の話は、いい。

タケルとの間に生まれるかも知れない子供の話は、今はいい。

本当はこのあいだの部活の後、タケルにちゃんと話すつもりだったのに。


 とにかく私が今、驚いた理由。

それは、電話の向こうから聞こえてきた音が、

あの時の、この部屋のドアの前まで押し寄せてきた異様な物体の音と

同じだったからだ。

 なぜ? どうして? 

私は困惑した。私は110番に、警察に電話したのよ。

なぜ? 

どうして? 

あの異様な物体の声が、私の携帯電話から聞こえてくるの?


「何をしている?」

 私はビックリした。

驚いて、飛び上がった。

それもそのはず、電話に集中していた私は、自分の背後に男が

立っている事に気がつかなかった。

私の電話の声で、男は目をさましていた。

「なんでもねえよ!」

「…携帯電話を2個持っていたのか…。うかつだった。

ちゃんと調べれば良かったな。」

 私はあわてて携帯を隠したが、男はあわててはいなかった。

「そんな事をしてもムダだ。この建物は、あらゆる電波は通さない。

電話してもムダだよ。」

 私はカチンときた。

男の物言いもそうだが携帯電話の出来事もあり、男に食ってかかった。

「何いってんだよ? ちゃんと連絡できたからね。

外に、警察に電話できたわよ! 今に見てろ! 

おまわりさんが大勢、ここに押し寄せてくるからね!」


 次の瞬間、ボンッ、と音がした。

そう、あの音だ。

男の表情が変わった。今までにないくらいに険しい表情につつまれた。

「まさか?」

 男はものすごい勢いで、私の手から携帯を奪いさった。

「生きてる! アンテナが立っている? 電波が出ていたのか? 

電波が出てしまったのか?」


 ドアの向こう、はるか向こうの通路から、サアーッと言う

「波」の音が聞こえてきた。その音はだんだん、大きくなってくる。

「しまった! 昨日の地震で、昨日の第一波の攻撃でおきた

地震で、この建物が影響を受け電波が漏れてしまったのか?」


 男は私の携帯を投げ捨て、ドアの方へとダッシュした。

私の携帯は投げられた衝撃でこわれてしまった。

だが今はそんな事よりも、ここへ押し寄せてくる「波」の音の方が怖かった。


あの音! 

あの、波が押し寄せる音! 

なんで? まさか? 

私が、私があの異様な物体を呼んでしまったの?


 男は、ものすごい早さでドアの前に戻り、自分が座っていた

金属製の箱を開けた。

頑丈なロックをあける音が、ここまで飛び込んでくる。

男は箱の中から丸い機械を取り出し、ドアの隅に取り付けた。

丸い円盤のような機械は、五十センチほどあるだろうか? 

全部で四つ。ドアの四隅にていねいに取り付けていた。


何? 

その変な円盤みたいな機械は? 

私がそれを確認しようと集中した瞬間、男は私のところに駆けもどってきた。

だが男は私を無視するかのように私のそばを通過し、室内の中央に

積んであるたくさんの金属製の箱を開けはじめた。


 何をするの? 

この男、化物が襲ってくる恐怖で気が狂ったの? 

波の音がする。

サーッと言う音がだんだん大きくなる。

来る!  

あの異様な物体の波音が、ここへやってくる!


 気がつくと、男はたくさんの金属製の箱から、いろんな、

いままで見た事もない機械類をいっぱい床に積み上げていた。

部屋の中央にある変な機械類、ドアの四隅につけられた円盤、

そして迫り来る異様な波の音。

全てが何がなんだかわからない事だらけだ。

だが、危険が近づいている事だけは、わかっている。

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