9.新たな魔物
私がグロワールに来て十日が経った。
今日もアルディと草原にいる。が、今までとは少ーし場所を変えて、デボレボアとデボレウルフ以外も出てくる場所らしい。
私が一撃で倒せるぐらいにすっかりデボレボアとデボレウルフには慣れてしまったから、次の魔物という訳だ。
何が出てくるの?と聞いたら、お楽しみだ。と言われてしまった。……ヤバイの出てこないよな……。
とりあえず脱・超初心者らしい。わーい。
あと、腕輪の防護機能はこういった訓練的な狩りの時は最低限の死なない程度の防護機能にアルディによって制限されている。自分で付けておいて酷くないか?一応私を追い詰めて強くさせるためらしいが……。
しばらくデボレボアとデボレウルフと相手に狩りをしていると、何やら上空から鳥の鳴き声が聞こえた。
「……来たか、デボレバードだ」
と上空を見る。そこには大きな鳥の怪物……魔物がいた。
「デボレバード?……鳥か……ふーむ……」
どう戦おうかと考える。流石に上空には手が出せない。
デボレバードはひと鳴きすると高速の低空飛行でこちらへ突っ込んできた。思案を切り上げて、慌てて剣でその嘴をいなす。一陣の風が横を吹き抜けた。
一撃で私を仕留めれなかったデボレバードは再び上空でご立腹の様だ。何かギャーギャー鳴いてる。うるさいなぁ。
そして再び私を仕留めんと突っ込んでくる。が、今度は嘴を軽く避けてすれ違いざまに剣でその大きな翼を切り捨ててあげた。
片翼を失ったデボレバードはもう飛び立てない。血をまき散らし地面を這うのみだ。
私が近づいていくと威嚇してくるが、恐怖は感じない。もうこちらの勝ちなのだ。なので、手早く終わらせてやる為に剣を振り下ろし首を落とした。再び血飛沫が舞う。終わった。
そして、フィーネ・ツェアレーゲンと素材にして麻袋へ詰める。
「いい手際になってきたな」
と近づいてきたアルディが褒めてくれた。
「本当!?……やったね!」
と全身で喜びを表す。
「もうデボレ種なら危なげないだろうな」
「そーいえばデボレ種って何?」
と首を傾げる。
「……デボレとは弱いと言う意味だ。つまり魔物の中でも弱い種という事だな」
「……デボレ……弱い……つまりまだまだ上がある……」
と凹む。これで弱い種なのか……。
「大丈夫だ。そのうち上位種も狩れる様になる」
「う、うん……そーだね」
しばらくたわいもない話をしながら歩いていると。アルディがふと足を止めた。
「……アルディ?」
とどうしたのだ?とアルディを見つめる。
「……新しい魔物だ」
と小石を拾う。……また投げるつもりか!
「でもどこにいるの?見えないんだけど」
とキョロキョロ見回す。本当に分からない。
「ここだ」
とアルディは小石を投げた。……やっぱり投げおった。
アルディが投げた小石は大きな花に当たった。するとその花が動き出したのだ。……何か似つかわしくない鋭い歯がある口が見えたんですけど。葉っぱも何かデカくて鋭そうだし。
「何これ」
と思わず呟いていた。
「デボレプラントだ。葉は刃のようになっている気を付けろ」
と推論が当たっていた様だ。
てか、よく見ると……デボレプラント、群生してないか?周りにも同じ様な花がいくつか見えるんだが……と思っているとそれらも動き出して臨戦態勢の様だ。……囲まれるんじゃないかこれ?
「……アルディ……これヤバ……っていない!……さっさと下がりやがって……ううっ……やれってことか!しゃーない!!」
と傍観を決め込むアルディは放っておく事にして、覚悟を決めてデボレプラント達へ向き直る。
四体のデボレプラントか……まだ複数体は戦った事が無い。……マズイかも?
とりあえず先制攻撃じゃー!と目前にいる一体目に切りつける。が、その刃の様な葉で防がれる。
「かったい!本当に植物!?」
と行ったん下がると、今度はこちらの番といった感じにデボレプラント達が複数の蔦のような触手を鞭のようにしならせ繰り出してきた。
それを何とか避けつつ剣で切り払う。数本は切ってやったぞ!
その間にデボレプラントは私の側面に回ろうとするが……凄くおっそい。……流石植物。囲まれるまではまだ時間があるだろう。
今度は葉で防がれないように早く早くを心掛けて一体目の口の少し上を突き刺した。
なんだか植物らしくない悲鳴が上がる。……とりあえず一体目は倒せたらしい。弱点見つけたたり!
と油断した瞬間葉の刃が迫ってきた。キィンと音を立て剣で防ぐ。が、横からも葉の刃数枚が迫る。意外と早く囲まれたらしい。マズイ。千切りになる。
その複数の葉の刃が来る前に、意を決して地面を踏み込みデボレプラントの上を跳躍し、飛び越えた。複数の葉の刃が空を切る。
デボレプラントを飛び越えられたのは、意外と高さが無かったのと、グロワールに来てから駆けずり回って脚力がついたお陰だろう。
やれやれと一息つく暇もない。ボサっとしてるとまた囲まれる。再び剣を構えて二体目の弱点目掛けて振りかざす。葉で弾かれたが、攻撃の手を緩めずに今度はピンポイントに突きを入れた。
見事それは弱点を付いて二体目も倒れた。
それに怒ったのか、三体目と四体目が葉をキンキンと鳴らし近づいてくる。
が、残り二体になってしまえばこっちのものさ。あとはサクッとやってやるー。
三体目と四体目が振り回してくる葉の刃を剣で弾きつつ、三体目の弱点目掛けて剣を突いた。それは見事に突き刺さり三体目も倒れた。
「よし!あと一体!!」
と気合を入れる。
四体目は近距離は諦めたのか蔦のような触手で攻撃してくるが、私にとってはたいした速度ではないので全部切り捨ててやった。もう遠距離攻撃は出来まい。
さて、後は近づいて弱点を刺すだけ……と思っていたら、デボレプラントは最終手段と言わんばかりに叫び声をあげて自らの葉の刃を僅かに残った触手で引きちぎり、ブーメランの様に投げてきた。
「おおぅ!」
と数枚の葉の刃を避けたり、剣で弾いたりする。……二の腕や太ももを掠めたりして、結構危なかった。
だが、それによってもうデボレプラントには攻撃手段が無い筈だ。が、一応慎重に近づく。
後少しで貫こうかとした時だった、何かが私の左肩を貫いた。熱い、焼けるように熱い。ちょっと痛い。なんだこれ。
マズイと思って距離を置く。
「何これ……いった……」
と顔を顰める。肩がじんじんする。今は戦闘によるアドレナリンであまり痛くないが、後がヤバそうだ。
再び何かが私を貫こうと向かってくるが頬を掠めただけだった。どうやらデボレプラントが種のようなものを超高速で発射しているらしい。銃かよ!
種を飛ばすのは多分本当に最終手段らしい。……さっき囲まれた時にやられなくて心底よかった。
今度はデボレプラントは種を連続で発射してくる。それを何とか躱しつ遂にデボレプラントの弱点を剣で貫けた。デボレプラントが叫び声をあげて倒れ込む。終わったようだ。
「はー……や、やった」
と私はそこへ、へたり込んでしまった。
すると。アドレナリンで忘れていた痛みがやってくる。肩を貫かれたのだ。そりゃ激痛である。勘弁してくれ。
私は肩を抑えてうずくまる。痛い、痛い、痛い。グロワールに来てからこんな重症初めてだ。今まではちょっとした擦り傷や打ち身だった。
「アマネ……大丈夫……そうじゃないな……傷を見せてみろ……」
とアルディが側へ来た。傷を治してくれるらしい……早くして……。
「うっ……」
とアルディに傷口を見せる。
アルディは傷口へ手をかざす。すると傷口は優しい淡い光に包まれて塞がった。無詠唱の治癒術だろうか?
とにかく痛みは無くなった。安心感に息をつく。
「動かせるか?」
と一応心配そうなアルディ。
「な、なんとか……」
と肩を動かして見せる。大丈夫動く。動かしても痛みは無い。
「そうか……」
とアルディは息をつく。
「ありがとね。今のって治癒術?……出来れば教えてほしいんだけど……今後の為に……」
と自分の身体の他の傷口を指す。
「……簡単な治療なら、テラペイアーだ。早速実践してみろ」
と相変わらずスパルタである。さっさと全部治してくれよー。結構じんじんするんだけど。
仕方が無いので他の傷口に手をかざし、テラペイアーと詠唱する。すると優しい淡い光に包まれて傷は治る。……ふむふむ。便利である。と連続で詠唱して全身を治しておく。色々擦り傷や打ち身もあったのだ。
「よし!全部治った!天音ちゃんふっかーつ!!」
と元気よく立ち上がり、デボレプラントを素材にして麻袋に詰めた。
「よし、大丈夫そうだな……次へ行けるか?」
「うん!行けるよー行こう!ってかさもっと早く治癒術教えてほしかったんだけどぉ」
と先頭切って歩き出すが、文句も忘れない。
「……使えるとは思ってなかった……すまん」
「へ?……そーなの??」
とポカンとしてしまう。まさか治癒術は人を選ぶのか……。
「その通り……治癒術は人を選ぶ」
とアルディは、答える。……うっかりまた口に出していたらしい……。
「ふーん。……だから教えなかったんだ」
「そうだな、使えなかったらなかったで、お前は悔しがって面倒臭い事になるだろう?」
と失礼な事を言う。……確かに面倒臭い事にはなっていただろうが……。
「ぐっ……。選ばれる人ってどんな人?」
「……さあな?……解明されていないから知らんな」
と面倒臭がっている。
「ふーん。とにかく私は使えるんだよね?」
と確認しておく。
「ああ、初級が使えたから大丈夫だろう。上級も……魔力があるから問題無い筈だ」
「そっか……良かったー。私そんなに魔力あるの?」
「見たところ……だかな」
「ふーむ」
「とにかく狩りに戻るぞ」
「はーい」
それから快調……でもないがそこそこ順調にこの辺の魔物を相手に戦えた。もう一体一なら問題無い。複数体も何度か相手にしていたらだいぶん慣れた。
順調にレベルアップ出来ていると思いたい。