7.マーケット
次の日私とアルディは街のマーケットへ来ている。私の必需品の買い出しの為に。……ああ、払ってもらうの……申し訳ない。
マーケットには数々の露天が並び、人々の活気に溢れていた。……こういう光景も結構憧れてた。ファンタジーの市場って感じで。
「コレで好きなものを買え。俺は別行動をする。但し、絶対にマーケット区画からは出るなよ」
と金貨が入っているであろう袋を私に渡し、念を押す。
「ありがとうございます。……分かってますよー。出ません出ません」
とありがたく受け取りお礼を言って頭を下げる。
「……。ではな」
とアルディはマーケット内のどこかへ行ってしまった。……ちょっと不安。
それから必需品を買うべく、お店を探す。
「まずはアルディが言ってた、水筒からかなー」
と売ってそうな露天を覗いた。
「お嬢ちゃん何をお探しで?」
と店主に話しかけられた。
「えっと、水筒を……それと冒険者としての必需品って何ですか?」
「水筒ならこの辺だよ。……必需品ねぇ……ならこの辺かな……」
と色々冒険に必要そうな物を示してくれた。
「じゃあ、この水筒と……コレと……コレと……コレとコレ!お願いします」
と提示してくれた、必要そうな物を購入する。
「はいよ!じゃあちょっとおまけして、全部で1ゴールドだよ」
「ありがとう!じゃあコレで……」
と袋から金貨を一枚取り出し店主に渡す。
「まいどありー!」
と店主からまとめてもらった購入品を受け取り、魔道具のウエストポーチへしまい込む。本当に便利ー。
次は部屋着と私服を買いに行こうかな。とウロウロマーケット内を彷徨う。
「ここかな?」
と服を売っている露天を覗いてみた。
「いらっしゃいませ~。どんな服をお探しですか?」
とまたもや店主に声を掛けられた。
「えっと、部屋着になる物と、私服を探してます」
「それならこちらなんていかがですか?」
とシンプルで可愛らしいワンピースを数着出してくれた。
「か、可愛い……全部買います!」
とどれもめちゃくちゃ可愛かったので、即決した。それ程までに私の好みドストライクだったのだ。
「あと、羽織ものもいかがですか?」
と店主は嬉しそうに勧めてくる。
結局その羽織とかも数着買っちゃったし、続いて下着類、靴下、靴、グローブ、リボン、帽子などもついつい買ってしまった。……どれも素敵だったのだ。
なんと、全部で5ゴールドと7シルバーになってしまった。……買いすぎた。
その後買った物をウエストポーチへしまい込み、細々とした日用品を買いにまたマーケット内をうろつく。
結果、大量の買い物になった。一から日用品や必需品を揃えたのだから当然とは言えるのだが……何だかなぁ……アルディごめん。
それらを全て収納してもウエストポーチは変わらず軽かった。やっぱり魔法って凄いなぁ。
さてと、買い物も終わったしアルディを探す事にする。
しかし、しばらく探し回っても人が多くてアルディの姿が見つけられない。
「アルディ……一体どこにいるのよ!」
とゲンナリとしかけた頃だった。
「アルディの旦那を探してるのかい?旦那ならあっちにいたよ。案内しようか?」
とちょっと派手なお姉さんが声をかけてきた。
「へ?……本当ですか!ありがとうございます。お願いします」
とヘトヘトだったのでお願いした。
「じゃあこっちだよ、ついといで!」
とお姉さんが進んでいくので、素直に付いていく。
そしてお姉さんはマーケットから逸れて、路地へと案内しようとした。
「え?……マーケットの中にいないんですか?……マーケットから出るなって言われてるんですけど……」
と困ってしまう。
「そうさ、この先の酒場にいるんだよ。大丈夫そこでアルディの旦那が待ってるさ!ほら?ついといで!」
とお姉さんは私を安心させようと笑い、進み始める。
「……そうなんですか?」
と躊躇うも、アルディが待っているなら……と付いていく。
が、しばらく進んでもその酒場に着かない。……疑問と冷や汗が流れ始めた。……何だかマズイかもしれない。
「……ず、随分遠いみたいなので、もう私は一旦マーケットへ戻ってそこでアルディを待ちますね。……伝言だけお願いします」
とここを離れようとした時だった。
突然物陰から三人の屈強そうな男達が現れて、お姉さんと一緒に私を取り囲んだ。
嫌な予感が当たってしまった。マズイ、マズイぞ。逃げなくては!
どうにか逃げようと隙を見るが、ありそうにない……。
「あのー……私マーケットへ帰りたいので……通してもらえませんか?」
と試しに聞いてみる。無駄だとは分かっているが、一応だ。
「通すと思ってるのかい?……絶好のカモを!」
とお姉さんは高笑いを上げる。
「……やっぱり……騙してたんですね……」
とお姉さんを睨みつけてみる。精一杯の抵抗である。
「ようやく分かったのかい?間抜けな子!」
とまた笑う。
それにかなりムカついたので、けばけばしいお姉さんよりはマシだと思いますけどねぇー……と嫌味を言ってしまった。
すると、何ですって!この小娘!と頬をかなり強く叩かれた。ちくしょう痛い。
「ほら!アンタ達さっさとコイツを取り押さえろ!」
とイラついた様子でお姉さんは命令する。
すると、男達は私を取り押さえに来た。……ヤベーぞ。
それに剣を抜いて威嚇するが、意にも介されず、じりじりと追い詰められる。
「ちょ、ちょっと!剣よ!剣!分かる?……や、殺ろうと思ったら殺れるんだからね!」
と威嚇するが、声が震えてしまっていた。……人に剣を向けた事なんて無いからだ。
ついに、抵抗虚しく取り押さえられてしまった。掴まれた腕が痛い。
そしてお姉さんに懐をあさられ、金貨の入った袋を取られてしまった。
「返してよ!泥棒!!」
と叫んで、ジタバタするが状況は変わらない。
「おやぁ……思ったより結構入ってるじゃないか……旦那に気に入られてるんだねぇ」
と笑う。
「返して!……へ?気に入られてる??」
「そうさ、おバカちゃん。気に入らなきゃあの旦那がこんな大金渡さないさ。……でももう旦那と会える事は無いと思うけどねぇ……」
と金貨を弄びながらクスクスと笑う。
「……そうなんだ……。……何するつもり?」
と再び睨みつける。
「あはは!聞かない方が良いと思うけどねぇ……」
と笑いながら視線を男達に向けた。
男達を見ると、いやらしい目線をこちらに向けて来ていた。
「ひぃ……」
……だいたい察してしまったぞ。……これから酷い目に合わされるのだろう……男達によって。
「誰か!誰か助けてっ!!」
と何度も何度も必死に叫ぶ。
「あはは!こんな裏路地……誰も助けに来ないさ。……それにここらの連中も見ても見ぬ振りさ……」
と笑う事を止めない。
そうしていると、男に押し倒された。
「いやぁーーー!!!」
と更に悲鳴を上げ、ジタバタと抵抗してみせるが、屈強な男はビクともしない。クソったれ。
「無駄だよ。おバカちゃん……ほら、さっさと楽しんでおしまい!……旦那のお古かもしれないけどね」
とお姉さんは笑いながら男へ命令した。……最後のはいただけない発言である。しかし、抵抗出来ぬ。クソけばババアめ。
男の手が近づいてくる。……嫌だ、嫌だ。
「アルディ!アルディっ!助けて!!」
と咄嗟に出たのはアルディの名前だった。声はもう泣き声になっている。
「あはは!来ないって言っているじゃないか。おバカちゃん!」
と私の様子を笑いながら見つめる。
男の手が私の太ももへ迫った瞬間だった、突然男が吹っ飛んで壁にぶち当たったのだ。
「へ?」
と私は唖然としてしまった。何が起きているのだろう?と起き上がるとそこには……アルディがいた……!
男達は皆ぶっ飛ばされて伸びている。ざまあみろ。
「な、何でここが分かった!!」
とケバいお姉さんは焦りから叫ぶ。
「さあ?何でだろうな?」
と冷酷な視線をお姉さんへ向ける。……ちょっとこっちまで寒気がする。
「ひっ……お、お金は返す!……だから見逃しておくれよ!」
とアルディを怖がりつつもシナを作る。……キメェ。
「それは……無理だな……」
と言い、アルディはお姉さんの腹を容赦なく蹴り飛ばした。お姉さんは壁にぶち当たり気絶した。本当に容赦がないが……こっちもざまあみろだ。同情はしない。
「……アマネ……怪我は……無いか?」
とアルディは私をジロジロ見る。
「うん……なんとか……お陰様で……っ……ううっ!……アルディ……!」
と泣きながらアルディに抱きついてしまった。だが、アルディは優しく受け止めて抱きしめ返してくれて、あやす様に背中を撫でてくれる。
「すまなかったな……離れるべきじゃ無かった……泣きたいだけ泣け」
と撫で続けてくれる。
「っ……ひっく……アルディ……アルディ……ごめんなさい……ごめんなさい」
と私はしばらくアルディにしがみついて泣き続けた。
しばらくして落ち着くと、このアルディと抱き合っている。という体制が恥ずかしくなってきた。ので、そっと離れる。
「……あ、ありがとね……」
と多分私の頬は赤い。
「いや……落ち着いたか?」
と気遣ってくれる。本当にありがとう。
「うん。…………この人達はどうするの?」
と目に入ってしまった、未だに伸びている四人を指差した。
「とりあえず縛って憲兵に引き渡す。異世界から来た初心者狩りだ、罪は重いだろうな」
とアルディは四人をまとめて縛った。これで起きても動けまい。ざまあみろ。
「そっか……。初心者狩り……ネトゲかよ……」
と息を吐いた後、ツッコミを入れた。
「……ねとげ?」
とアルディは首を傾げる。
「ああ、えっと……私の世界での言葉で……ゲームの分類を指すんだよ……」
「ふむ?……そうか。では、憲兵も呼ばないといけないし、マーケットへ戻るか?」
と私を見る。今回は先に行ってしまわない様だ。
「うん、戻ろう!」
と言うと、アルディはゆっくりとマーケットへの道を歩み出した。私もそれに続く。
「ねえ?どうやって私の居場所が分かったの?」
と疑問を聞いてみる。
「……昨日渡したそのウエストポーチに魔術が掛かっている。それで居場所が分かった」
「……まさか、私が迷子になると見越して?」
と胡乱な目でアルディを見てしまう。
「……違う。……紛失防止の魔術だ。……だからそんな目で見るな。役に立っただろう?」
とアルディは眉根を寄せる。
「ふーん……紛失防止ねぇ。……確かに役立ったけど……監視じゃん」
と白い目を止めない。
「……必要な機能だろう。……また、こういった目に合いたいのか?」
と少し脅しが入っている。
「い、いえ!合いたくありません!……ごめんなさい……必要デスネ」
と態度を改める事にする。
「それで良い」
とアルディは満足そうだ。
と話しているとマーケットへと戻って来た。アルディは憲兵の元へ向かい、先程捕まえた奴らの事を報告した。すると憲兵達は先程の裏路地へと向かっていった。これで一安心だろう。
「もう買い物は終わったのか?」
とアルディはこちらを向く。
「うん。もう終わってるよー」
「なら、もう帰るか?」
「うん。……お、お腹も減ったし……」
と最後は消え入る様に言った。
「そうか……。なら、どこかで食事して帰るか?」
「え?良いの?行きたい!行きたい!」
とぴょんぴょんする。
「なら、行こうか……」
とアルディは歩き出した。私もそれに続く。ゆっくり歩いてくれている。
どこかに食べに行ける。それだけで嬉しい。