5.通貨価値
コンコン、コンコン、と夢うつつの中で何かが聞こえる。だがまだ寝ていたい。疲れているのだ。ほおっておいてくれ。と寝返りを打つ。
するとコンコンという音がゴンゴンと激しくなったと思ってしばらくしたら止まった。やれやれやっと眠れる。
「起きろ」
と至近距離でアルディの声がした。
「……は?」
頭が追いつかない。そうだここはグロワールだったな。……てか、何で鍵を掛けてたのにアルディが私の部屋にいるんだ?
「……すまないと思ったが、起きない様なので、魔術で開けさせてもらった」
とサラリと言いおった。乙女の部屋をなんだと思っているのだ、こいつは。……てか、また考えが口に出てたか……。
「……まだ、考えがダダ漏れだぞ……」
とアルディはため息をつく。……すいませんねぇ。
「……ごめんごめん。おはようアルディ」
と取り繕う。
「……はぁ……用意がまだだな……着替えるのを待ってやるから早くしろ」
と奥の洗面所を指し、ソファーへ腰を下ろした。私に洗面所で着替えさせて自分はここにいるつもりか……。面倒くさがりめ。
と思ってると早くしろ、と急かされる。わーってますよ……ったく。
それから洗面所へ移動して顔を洗って髪を三つ編みにして、着替えた。まあ、これでいいだろう。アルディが待つソファーへと向かう。
「……遅い」
とイライラとしてらっしゃる様だ。……女の子は用意に時間かかるんですぅ……と心の中で文句を言っておく。……言わないのはこれ以上イライラさせるとマズそうだからだ。
「ご、ごめんなさい」
「……まあいい、朝食を食いに行くぞ」
と立ち上がる。
そこで、私は思い出した、昨日はお昼も夕食も食べ損ねたと……。お腹減った。
「ねぇ……アルディこの世界ってお弁当とかないの?……今日も狩りに行くんでしょ?お昼とか食べないとお腹減るんですけど……」
と主張しておく。
「……そうか……忘れていた。お弁当か……今日からは持っていくか」
と意外にもすぐに主張を飲んでくれた。……食事を忘れるとか……どーなんだ。
「お弁当あるんだね!やった。持ってく!持ってく!!」
と今の私はさぞ目がキラキラしている事だろう。それだけ食事は大事なのだ。食べ盛りだし。
「じゃあ、朝食のついでに食堂で注文しよう。行くぞ」
と部屋をあとにする。
私もそれについて部屋を出て、鍵を掛けて一階の食堂へ向かう。
そして、食堂で昨日同じメニューを食べた。これが美味しくて気に入ったのだ。どうやらアルディも同じメニューらしい。アルディもお気に入りかな?
美味しく食べ終わったら、アルディが事前に注文していたお弁当を食堂のおばさんから受け取りどこかへしまっていた。……明らかにお弁当が入りそうなものをアルディは持っていないのだが……魔法だろうか……。
「……何をジロジロ見ているんだ?」
「え?いやー……お弁当を一体どこへしまったのかなぁって思って……」
「ああ、知らないのか……これは魔道具、マジックアイテムの一種で、好きなだけ物を詰められる」
と腰に付けている小さな革製のウエストポーチを指す。……魔道具!マジか……素敵。
「この世界って凄いんだね」
「……元の世界には無いのか?」
と不思議そうだ。
「うん、そんな物理法則を無視したもの無いよー」
「ふむ……ではこれをお前に……」
とさっきの魔道具と色違いの黒いウエストポーチをくれた。
「……これもさっきと同じ魔道具?」
とまじまじとそれを見つめる。
「そうだ……大事にしろよ。一応貴重品だ」
「貴重品……そんなの貰って良いの?」
とついつい遠慮してしまう。
「ああ、余っていたからな、遠慮するな。それにこれから絶対に必要だ」
貴重品が余っているなんて……。流石だわー。
「ありがと!アルディ」
とニッコリ笑った。くれると言うのならありがたく貰っておこう。
「では、行くぞ」
とどこかへ歩み出す。
「えっ?待ってよ、どこへ行くの?」
と付いていく。
「換金に行く。知っていた方が良い」
「換金?……昨日の素材をって事?」
と昨日狩ったデボレボアの素材を思い出す。
「そうだ」
とギルドの建物を出てどんどん進んでいく。また付いていくのに必死だが、ちょっと慣れた。
しばらく大通りの様な所を進み、買取屋と書かれた看板のある店に入った。
店の中は素材でいっぱいだ。ちょっと獣臭いかもしれない。
「ここが買取屋……換金場所だ。……カウンターで受付をする。そこで素材を出すんだ。そしたら鑑定され、お金を受け取れる」
と簡単に説明してくれた。そして私に昨日狩ったデボレボアの素材が入った麻袋を差し出す。……これを自分で換金してこいって事だな。
「んじやあ、換金してくるね」
と麻袋を受け取り、カウンターへ向かう。
「ああ、行ってこい」
「えっと、これを換金お願いします」
と麻袋をカウンターに乗せた。
「あいよー」
とカウンター内の男性……店主だろうか?は鑑定を始めた。
しばらくして、ほいよこれが査定額だ、と渡されたのは十枚の銅貨だった。昨日アルディが出してくれた金貨とは違う。
「こ、これだけ?」
とつい聞いてしまった。
「そうだよ。アルディの旦那の連れの鑑定だ、誤魔化したりしないよ」
「……そうですか」
とすごすごアルディの元へ向かう。
握りしめた銅貨十枚をアルディに見せた。
「妥当だな。……不満なのか?」
とアルディは腕組みをする。
「……だって、昨日アルディが払ってくれたのは金貨だった……」
「デボレボアは雑魚だからな。銅で当然だ。……払った事を気にしてるのか?」
「雑魚……。あれだけ苦労したのに……雑魚。……そりゃ気にもしますよ。……ねぇ金貨って、銅貨何枚?」
とおそるおそる訊ねた。
「気にしなくて良いのにな。……千枚分だ」
「は?…………せ、千枚??」
驚きに口がポカーンと空いてしまう。
「そうだ」
「うっそ……この服と剣、めっちゃ高価じゃん……本当にありがとうございます」
とアルディへ頭を下げた。千枚とか稼ぐのに一体どれだけ掛かるだろう……。デボレボアなら二百体だ……。
「……だから気にしなくて良いと言っている。それにこれぐらいすぐに稼げる」
とサラリと凄いことを言う。……アルディが言うのだからマジなのだろう。すげぇ。
「いやいや、それでもっ……ってすぐに稼げるとか……どんなの狩ってたの?」
とそれに少し興味が湧いた。
「……禁忌種とかだな……」
「……何その名前……怖っ!」
と身震いした。名前からしてヤバそうである。
「……とにかく、今から言う事は覚えろ。……金貨がゴールド、銀貨がシルバー、銅貨がカッパーだ。……そして、1ゴールドが10シルバー、1シルバーが100カッパーだ。……つまり、1ゴールドは1000カッパーだな」
と教えてくれた。
「は、はい!」
と返事をした後に、忘れない様にブツブツと反芻した。
「……分かったなら、狩りに行くか」
「……は、はいっ!」
それから路地にて陣を使い昨日の草原に移動した。