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4.初陣


「いゃぁああぁああ!!来ないでぇー!!」

 とさっきから草原に私の大絶叫が響き渡ってる。……今ヤバイの。マジでヤバイの。助けて!

 

 と言っている最中でも、後ろから大きな猪の様な姿をした魔物……デボレボアが突進してくる。ひぃっ!


「デボレボアはボア種の中でも初心者向けだから大丈夫だ。……だが……早く殺らないと、お前が殺られるぞ?」

 とアルディは遠くで悠々と見守るだけだ。危なくなったら守るんじゃなかったのか……。てか、殺られるだと!?マズイマズイ。


 何でこうなっているかと言いますと……数分前この草原に転送されてきてから、直ぐに見つけたこのデボレボアに何故か一体一で対峙させられているのです。……デボレボアに石を投げて怒らせたのはアルディなのにっ!……そしてまだ何の指南も受けていないのにだ!アルディは私の実力を見るために見守るそうだ……指南してやるとはどの口が言った!!


 そしてまた叫び回っていると、デボレボアが突進してきた。


「ふぐぁ!!」

 と避けきれずに私は吹き飛ばされ、コントさながら顔面から地面へ突っ込んだ。痛い。ひっじょーに痛い。


「……。大丈夫か?」

 とその声はちっとも心配そうでない。……心配しやがれ。こんちくしょう。


「大丈夫に見えたらその目は腐ってるんじゃない?」

 と起き上がり顔の泥を落としながら、悪態をついてみた。


「悪態をつけるなら、まだ大丈夫そうだな。ほら、もう一度来るぞ」

 とデボレボアを指差す。


 ……確かにこちらへ突進の用意をしているようだ。……マズイぞ、マズイ。


 ひぃぃ!と今度は寸前のところでなんとか躱せた。ヒヤッとした。怖い。


「ほらほら、躱したら反撃だ。その剣は飾りか?」

 と煽ってくる。……ちょっとイラッとした。


「……反撃ったって、どーすりゃ良いのよ!!」

 とアドバイスを求めながら、剣を引き抜き、構えてみた。……不安である。


「簡単だ。切ればいい」

 とさも当然の様に言う。


「その切るのが難しいんでしょうが!」


 そうしているとまた、デボレボアが突進してきた。それを再びなんとか躱す。


 とにかく反撃しなければ!と剣をにぎりしめる。もうその手は汗でビッショリだ。……もうアルディの助けは当てには出来ないな……あの人本当に見守るだけのつもりらしい。


 仕方ないので意を決してデボレボアへ剣を振りかざしながら突っ込んだ。


「で、でりゃーー!!」


 剣がデボレボアの顔面を掠めた。するとデボレボアの唸り声が上がる。……ひえっ……。


「き、切れた……」


「おい!攻撃の手を休めるな。切り続けろ。手負いになると厄介だぞ」


「……分かりましたよ……ていやっ!!」


 再びデボレボアへ向かって、何度も何度も必死に切り込んでいく。


 が、一向にデボレボアは倒れそうにない。……切りつけた切り傷がどれも浅いからだろうな……。……切るだけでも硬いよこいつ!動くし!


「……はあはあ……い、いつまで切ればいいの……」

 そろそろ疲れてきた。


「………………」

 だんまりだ。返事が無い……。


「何で無言!?」


「お前がどうしようも無いからだ……まさか、こんなに使えないとは……」

 とため息をつく。つきたいのはこっちなんだが。


「ひっどい!……私はただの一般人って言ったでしょ!!」


「そうだったな……仕方ない……手本を見せてやる。その後、基本から指南してやる」

 とデボレボアへと剣を抜いて向かっていった。


 デボレボアとあと少しというところで、アルディが駆けた。気付けばデボレボアの後ろにいる。


 そして、いきなりデボレボアの頭だけが地面へ落ちて、体もゆっくり倒れた。


「へ?……倒したの……?……一瞬で??」

 と思わず口を開けてしまう。マジかよ……流石SSランク様。


「…………」

 とため息をつく。そんなに面倒くさそうにしないでおくれ……悲しくなる。


「……とにかく、これでちゃんと指南してくれるんだよね?」


「そうだな。仕方ないが教えてやる……」

 と面倒くさそうだが、言ったからには教えてもらうぞ!いきなり実戦させるアルディが悪いのだ!


「わーい。よろしくお願いします先生ー?」

 とちょっと嫌味ったらしく言ってみた。



 

 しばらくの間、アルディから剣の基本と魔物への対処法の指南を受けました。忘れない様にしっかりと覚える。


 分からない部分は質問すると、アルディは面倒くさそうだがきちんと丁寧に教えてくれた。


「……これで、次は行けるな?」

 と見下ろしてくる。……身長差故に仕方ないが……何だかなぁ。


「はい……多分……」

 とアルディから目を逸らす。……自信ない。


「……まあいい、ほら次が来たぞ」

 とデボレボアを指差した。


 ……覚悟を決めて、行くしかないか……と剣をにぎりしめる。緊張にゴクリと喉が鳴る。


「行きますっ!」

 と勢いよくデボレボアへと駆ける。


 今度は教えてもらった通りに剣を構えて、デボレボア目掛けて力の限り振りかざす。


 するとデボレボアの肩から側面が深く切れた。やった!これは結構深手だろう。デボレボアは咆哮をあげる。お怒りの様だ。


「ひえっ……でも切れた!やった!」

 と咆哮に怯えつつ、喜ぶ。


「ほら、気を抜いてないで、続けろ」

 とアルディに注意されてしまった。


「はーい先生……」


 再びデボレボアを切りつけていく。デボレボアはどんどん深手を負って私はそれに調子に乗ってしまっていた。


 もう少しか……と気を抜いた瞬間、デボレボアが必死の一撃の突進をくらわしてきて、私は押し倒されてしまった。


「ひゃあ!!」


 目の前にデボレボアの鋭く尖った歯が見えた。それは本当に私の首の目の前で……もう少しで咬み殺されそうだ。


「死んでたまるかぁーー!!」

 と私は必死になって離さなかった剣をデボレボアへ突き立てた。


 剣はデボレボアの首側面から頭付近を突き抜けた。下敷きにされている私にその大量の血が降り注いでくる。……生暖かくて気持ち悪い。不愉快だ。


 そして絶命したデボレボアが重力に従って私へと倒れてきたのだ……潰される!……そう思った瞬間、突如として強烈な突風が吹き、デボレボアの巨体は吹き飛ばされた。……た、助かった。死ぬかと思った。


「大丈夫か?」

 とアルディの手が視線に入った。手を差し伸べてくれているようだ。……どうやらさっきの突風はアルディの仕業らしい。魔術だろうか?


「あ、ありがとう……助かったー」

 とアルディの手を借りて立ち上がらせてもらった。最後の最後に助けてもらったが、まあ感謝だ。


「なんとかこれで初陣完了、だな」

 とアルディは少しだけ笑って見せた。……やっぱり美形の破壊力ったらないぜ。


「う、うん!……ご指南ありがとうございました」

 とアルディにお辞儀をした。教えてくれた事には感謝なのだ。


「やったのはお前だからな。そうかしこまることもない」

 とそっぽを向いた。……また照れ隠しか?


「そう言えば……魔物は倒した後に素材を取らないと、なんだっけ?」

 と思い出してしまった。


「そうだな、やってみるか?」


「……遠慮しマス」

 だって、とてつもなくグロテスクな場面を想像したからだ。……どうせナイフとかで剥ぐんでしょ……。うえっ。


「そうか?簡単なんだがな……」

 とアルディはデボレボアの死体へ向かって行く。それについて行き、こわごわと見守る。……勉強の為に見ておかないといけないと思ったからだ。


 だが、予想と反してアルディはデボレボアへ手をかざして詠唱を口にした。


「フィーネ・ツェアレーゲン」

 とアルディの詠唱が終わると、デボレボアの体は黒い霧の様なものになって霧散し、体かあった場所にはデボレボアのものと思われる素材……皮とか牙とか……があるのみだった。


「ほえー……これって魔術?」


「そうだ、覚えておけ。詠唱はフィーネ・ツェアレーゲン、だ。お前にも魔力があるから出来るはずだ」

 と得た素材を麻袋へ詰めながら答えてくれた。


「はい!……フィーネ・ツェアレーゲン……フィーネ・ツェアレーゲン……」

 と何度も呟いて、覚え込む。


「じゃあ、それを実践する為にもう一体殺ってみろ」

 とまた、丁度こちらへ向かってきているデボレボアを指差した。


「……またやるの……」

 と多分顔はゲンナリしていると思う。

 

 が、覚悟を決めてキリッとしてデボレボアへ向かって行く事にする。どうせやさられるんだ。さっさと自分からやってしまおう。


 今度も悪戦苦闘しながらも、徐々にコツを掴んだのか早めに仕留める事が出来た。……ふーっ……疲れた。


「及第点と言ったところか……」

 とアルディはのたまう。……合格ギリギリってか?……頑張ったんだぞ!こちとら三戦目だぞ!?


「さいですか……」

 とため息が出た。


「じゃあ、素材を取ってみろ」

 とデボレボアを示す。


「う、うん……フィーネ・ツェアレーゲン」

 とデボレボアの死体へ手をかざし詠唱した。……するとアルディの時のように、デボレボアは黒い霧の様なものになって、素材を残して消えた。


「よし、良くやった」

 とアルディがいきなり頭をポンポンと撫でできた。……何でだ!?……まさかこれは飴と鞭の飴か?……ちょっと嬉し……あああ、恥ずかしい!


「……う、うん……」

 と挙動不審になりながらも、熱くなった顔を隠す様に素材をアルディから渡された麻袋へ詰めた。


「……今日はもう帰るか?……疲れただろう」

 と気遣ってくれているようだ。ありがとう。


「うん。もうヘトヘトだよー……」

 と自覚すると更に疲労がドンときた。身体が重い。それにあちこち痛い。


「よし、帰るぞ。そのままお前の部屋へ移動する。陣へ入れ」

 とアルディは移動陣を出現させた。私もそこへ入る。


 そして眩い光と浮遊感に包まれた後、目を開けるとそこは自室だった。


「ありがと。……本当に便利だよねー。私にも使えるようになるかな?……どれぐらい難しい魔術なの?」

 と聞いてみる。使えたら凄く便利である。てか、使いたい。


「……とりあえず修行次第だろう。……Aランク以上でないと難しいかもな」

 と宣告する。……え、Aランク……。


「……で、でも修行次第って事は……見込みありって事?」

 と希望を見出す。


「……何年かかるか分からんがな」

 と鼻で笑うアルディ……。イラッとした。


「…………」


「とにかく、風呂に入って汚れを落とせ……酷いありさまだぞ」

 と私を見る。


「え?……うわっ!本当だ。やっば!」

 と自身の格好を見て驚いた。今まで夢中で気付かなかったけど、全身泥と血に塗れていた。


 これ……汚れ落ちるんだろうかと、服をつまみ呟いた。


「……プロプル・ヴェトマン……それで衣服が綺麗になる。これも覚えておけ。じゃあな」

 とアルディは部屋から出ていった。


「あ、ありがと!……行っちゃった」

 とすぐに鍵を閉めたら、お風呂場へ直行する。早く綺麗に洗いたい。


 まず服を脱ぎ、それに先程教えてくれた術をかける事にした。


「えーと……プロプル・ヴェトマン……?」


 すると衣服は淡い光に包まれた。光がおさまると衣類は新品の様に綺麗になっていた。臭いもないし、なんと!すっ転んで擦り切れた部分も修復されているではないか!……これは凄い。忘れない様にしないと!


 その後ゆっくりとシャワーと湯船で疲れと汚れを落とし、部屋着代わりに元の世界の制服に袖を通した。……今後、部屋着や私服がいるなぁ……。アルディに頼まないと……。


 それからベッドへ直行し、泥のように眠った。それだけ疲れていたのである。

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