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3.装備


 朝の優しい日差しで目を覚ました。いいお天気の様だ。とベッドから起き上がる。しかしそこは見慣れた自室では無かった。


 そうだ、昨日この世界グロワールへトリップしてしまっていたのだ。……色々あって混乱していたのに案外あっさり眠れたとは……我ながら……はぁ……。


 とりあえずベッドから降りて、部屋を見回す。……ドアが二つある。とりあえず一つを開けてみよう。


 ドアを開けると、そこはトイレだった。洋式で割と近代的である。部屋に付いている事に安心した。……出ちゃだめだと言われているから。


 次にもう一つのドアを開けた。洗面所と、どうやらお風呂がある様だ。お風呂へと続くドアを開ける。シャワーと猫足バスタブがあった。近代的だがファンタジーである。猫足……結構憧れでした。


 お風呂かシャワーを浴びたいが、いつアルディが迎えにやってくるかも分からないので、洗面台で顔を洗って、寝てて乱れちゃった二つの三つ編みを直し赤いリボンで留める。……まあ、これでいいだろう。


 ソファーに座って待っていると、少ししてコンコンと部屋のドアをノックされた。


「俺だ」

 とアルディの声だ。


「はいはーい」

 と鍵を開けた。

 

 アルディは部屋へ入ってきた。


「眠れたか?」

 と気遣ってくれているようだ。意外と優しいのだろうか?


「……ぐっすり眠ってしまいました……」

 と私は何だかバツが悪そうにした。


「ふっ、そうか……案外図太いのか……」

 とアルディはくすりと笑った。……図太くて悪うございましたね。けっ。


 するとグゥーと私のお腹が鳴った……昨日から何も食べてなかったからお腹が減っていたのだ……マジ恥ずかしい。


「…………朝食にするか」

 とアルディは笑いを抑えている様子……。ちくしょう。


「……はい……」

 と返事をするしかない。……ああ、穴があったら入りたい。


「では、下に行く付いてこい」

 とアルディは部屋を出る。


 下という事は、昨日いい匂いがした食堂の様なところで朝食をとるのだろうか。


 とりあえず置いていかれないように部屋を出て、鍵を閉めアルディを追いかけて階段を下る。


 やはりアルディは一階奥の食堂の様な所へと入っていく。私も入ると、そこは広めの食堂だった。食欲を刺激するいい匂いが充満している。更にお腹減った。


 既に何人か人影がある。冒険者だろうか。


「何を食べる?」

 とアルディは聞いてくる。


「えっと……何が何だか分からないから……オススメをお願いします」

 ……今度ちゃんとメニューを見よう。……今日はもう腹減りで、さっさと決めたかったのだ。


「……分かった」

 とアルディはカウンター内の食堂のおばさんに何か注文してくれている。


 それからアルディに促されて、席についた。しばらくしてから朝食が運ばれてきた。


「美味しそう」

 とテーブルの上に乗っている朝食を見る。それは知らない野菜が具沢山のスープに、ウインナーの様なものに、目玉焼きとトーストというオーソドックスなものだった。案外地球と変わらない様だ。これがアルディのオススメメニューらしい。


「ほら、食え」

 とアルディも同じメニューをもう食べ始めている。


「うん。いただきます」

 と手を合わせて、私も食べ始めた。


 味は想像よりも美味しく、ペコペコのお腹はすっかり満たされた。満腹だ。


「ごちそうさまでした」

 と手を合わせる。


「……では、行くか」

 と既に食べ終わっていたアルディは、立ち上がり歩き出した。


 置いていかれてはたまらないと、私も立ち上がりアルディを追いかける。昨日から追いかけてばかりだなぁ……。


「どこへ行くの?」


「買い物だ……戦闘するにはそのままでは動きにくいだろう。それに武器もいる」


「あっ、そっか……よろしくお願いします」


「まずは装備……服だな」

 とギルドを出て、しばらく歩いた先の古めかしい店に入っていった。私もそれに続く。


 店の中は色とりどりの布地で溢れていた。流石服屋さんである。


「いらっしゃい!」

 と元気な夫人が声を掛けてきた。


「これで、こいつの装備を整えてやってくれ」

 とアルディは金貨を何枚か夫人に渡した。いくらぐらいの価値なんだろう……金貨。


「あいよ!じゃあお嬢さん、こっちへおいで」

 と夫人は手招きする。


 夫人の前へ行くと、夫人は私のサイズを採寸し始めた。アルディは外を向いている。一応デリカシーはある様だ。良かった。


「あんた細っこいねー。ちゃんと食べてるのかい?」

 と夫人は悪意なく失礼だ。


「標準体型だと思うんですけどねぇー……」

 そう、胸はないが。……まさか、そこが細っこいって事か!?心外である。


「そうかい?……はいよ。測り終えたよ!じゃあどんなデザインが良いかい?」


「え?デザインですか?」

 と首を傾げる。


「そうさ!まずはどんな色が好みかい?」

 と色とりどりの布地を目の前へ出す。


「色……まさか、一から作るんですか!?」

 と、まさかまさかに目を見開く。


「そうだよ!決まってるじゃないか。……あ!あんた、異世界人かい?」


「は、はい」


「そりゃあ、知らないのも仕方ないね!冒険者の服はオーダーメイドが基本なのさ!動きにくいと命に関わるからねぇ」

 と物騒な事を言う。


「い、命……」

 と喉がゴクリと鳴った。


「まあ、歪の主がアルディの旦那で良かったじゃないか!旦那はそりゃもう凄腕だからねぇ!」

 と豪快に夫人は笑う。


「そんなに凄腕なんですか?」

 SSランクだとは知っているが、街の他人に知られているほど凄腕なのか……。


「そうさ!グロワールでも屈指の冒険者さ!」

 との言葉に目玉が飛び出しそうだ。……世界でも屈指の腕だと!?……めちゃくちゃ凄い人なんだ。


「さあ、デザインは?」

 と夫人は先を促す。


「ええっと……」

 とデザインは夫人と相談しつつ決めていった。好みのものにしたいが、あまりグロワールの一般から乖離したものではいけないから。


 デザインの相談には随分時間が掛かったが、アルディは大人しく椅子に座って待っていてくれた。やっぱり案外優しいのかもしれない。


「よし!これで決まりだね!……じゃあ始めるよ!」

 と夫人は作業台に必要な布地や材料を乗せて、杖を手にした。


 そして、杖を作業台に向けて呪文を唱えた。すると……おとぎ話の魔法の様に、みるみると私の為の衣装が魔法で作られていく。


「すごーい!本当に魔法だ!!」

 と私は目を輝かさせて、その光景に魅入る。


「あはは!喜んでもらえた様でなによりだよ。はい!出来上がりだよ!」

 と出来上がったばかりの衣装を渡してくれた。


「ありがとうございます……アルディもありがとう」

 とアルディに満面の笑みを向けた。


「……そうか」

 とアルディはそっぽを向いた。照れ隠しだろうか?


「じゃあ、ほら。着替えてみなよ!」

 と奥の部屋を夫人は示す。


「はーい。お借りしまーす」

 と奥の部屋で着替える事にした。


 衣装は魔法使い風も良いかなと思ったが、動きやすさ重視で物語の中で憧れていた女性騎士の様なデザインにした。黒地に赤のラインが印象的だ。服に良く合うオーバーニーのブーツまで作ってくれている。


 着替え終わり、奥の部屋から出る。


「おお!良く似合ってるよ!これで立派な冒険者だよ!」


「あ、ありがとうございます」

 嬉しいがちょっと照れる。


「さあ、旦那!どうだね?」

 と夫人はアルディを見る。


「…………まあ、良いんじゃないか?」

 とチラリと私を見た。


「なんで疑問形!?」

 とそれは無いだろう……。自分では結構似合ってると思うんだけどなぁ……。この世界の人とは感性が違うのか。


「まあまあ、旦那は照れてるのさー。さあさあ、次もあるんだろ?頑張ってきなー!」

 と夫人は私がそれまで着ていた制服を手提げ袋にまとめて手渡してくれた。


「そうだな、行くか。世話になった」

 とアルディは店から出でいく。


「ありがとうございましたー」

 と私も店から出てアルディを追いかける。


 後ろから夫人のありがとねー、と言う声が聞こえたので、手を振っておいた。


 アルディに次はどこへ行くのかとたずねたら、武器屋に行くと教えてくれた。


 ……武器か……いよいよ戦いに近づいているなと身震いした。やっぱり怖い。


 しばらく歩いてアルディはまた古めかしい店に入っていったのでそれに続く。


 店の中はありとあらゆる武器だらけだ。流石武器屋。


「いらっしゃい!おっ?アルディの旦那じゃないか……丁度良い剣が入ったんだが……」

 と店主は何やら取り出そうとする。


「いや、今日はこいつの武器を買いに来た」

 とアルディは後ろにいる私を示す。


「おやぁ……お嬢さん連れとは、隅に置けないねぇ……」

 とニヤニヤする店主。


「……こいつは異世界人だ」

 と少し声音が不機嫌そうだ。……私が連れだと誤解されるのがそんなに嫌か?


「そうなのかい?……ふむふむ……ではお嬢さん、何がお望みで?」

 と店主はこちらを見てきた。


 だが、いきなりどんな武器が望みかと聞かれても、さっぱり分からないのだ。


 なので、助けを求めるようにアルディを見つめた。察しておくれ……。


「……。オヤジ、こいつに合う剣を見繕ってくれ」


「あいよ!ちょっ待ってくれな……」

 と店主は剣を見繕い始めた。


 ……剣って……。私には魔力があるんじゃ無かったの!?……てっきり魔術士として、ロッドとか杖とか何か触媒とかを使うと思っていたのに……。まさかの剣……前衛っ!?


「……ああ、別に後衛の魔術士としてロッドとかでも良いが……もしもの事もある、前衛でも戦えた方が良いと思ってな……。……ロッドに変えるか?」

 とアルディは言う。……どうやら先程の考えは全部口に出していたらしい……。


 そして、私を気遣ってくれている様だ。


 ……もしもの事態か……一人でも戦えた方が良いのかな……?うーん……。それもそうだよね……。魔術は剣がある程度扱えるようになったら、教わったら良いか……。


「それで、決まりだな。魔術は後で教えてやる」

 とアルディ。ってどうやらまた口に出していたらしい……。


 そうしていると、店主が数本の剣を抱えてこちらへ来た。


「この辺が良いと思うんだがな……ほら持ってごらん」

 と一本の剣を差し出してきた。


 受け取り構えてみるが……


「お、重たい……」

 と、多分これじゃ振り回すなんて無理だ。ズッシリとして重たすぎる。剣ってこんなに重たいんだ。


「そうかい?……うーん。じゃあこのより軽い方を持ってみな」

 と綺麗な細工のされた細剣を差し出してきた。


 前の剣と交換するようにそれを受け取る。


「……あっ!軽い!すごーい!!」

 と剣をブンブンと振ってみる。……本当に軽い。それにすっごく手に馴染む。何だかあつらえたみたいだ。それにその剣はすっごく細工が綺麗だった。好みである。


「……決まりの様だな」

 とアルディは店主に代金を払ってくれた。


「アルディありがとう!私、頑張るよ!」

 と笑顔を向けた。感謝の気持ちである。


「ああ」

 とアルディはまたそっぽを向いた。……これも多分照れ隠しだ。


 それから私達は店を後にした。




「ねぇ、次は?」

 と路地にて、たずねる。


「実戦だ」


「……へ?」

 今、実戦と言ったか?……いやいやまさか……。そんな筈……。


「実戦だと言っている」

 とアルディは繰り返す。……流石にここまでハッキリと言われると、理解せざる負えない。


「……いきなり実戦?」

 とアルディを軽く睨んでみた。頼むから気を変えてくれ。今から実戦なんて無理だ。


「実戦の方が効率よく経験を積める。それだけだ。つべこべ言うな」

 と足元へ移動陣らしきのを出現させた。マズイ私ももう範囲へ入っている。とりあえず逃げよう。と、逃げようとしたら首根っこを摘まれた。私は猫か!


「逃げるな」

 とピシャリと言うアルディ。ひどい……。


「……ううっ……ちゃんと危なくなったら守ってよね!?」

 と逃げる事は諦め、守ってくれる様に念を押す。……マジで守ってくれるんだよな……。と胡乱な目をしてしまう。


「分かってる。行くぞ」

 と返事もする間もなく陣により転送された。ああ、無情である。

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