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2.異世界グロワール


 部屋の中は最低限の家具しか無い、至極シンプルなものだった。


 青年は三人掛けのソファーへと座り、私にも座れと横を示す。


「失礼しまーす」

 と遠慮がちに座った。


「……そう遠慮するな。ここは今日からお前部屋だ。自由に使え」

 と私へと鍵を差し出してきた。


「へ?私の部屋?」


「そうだ、部屋が無いと不便だろう。それとも野宿でもしたいのか?」


「いえいえ滅相もございません。いります。いります!ありがとうございますっ!」

 と急いで青年から鍵を受け取り、制服のポケットへとしまった。野宿は嫌だ。……こうして専用の部屋をもらえるという高待遇とは思ってなかったので嬉しい。


 ……ところで、まだこの青年の名前を聞いていなかった。それに自分も名乗っていない……。こうしてくれているのに、それは無いのではないかと思ったので、名乗る事にした。


「……あー。えっとまだ、お互いにに名乗っていないよね?……だから名乗るね。私の名前は桐崎天音。天音が名前ね。よろしくお願いします。……貴方の名前は?」

 と青年を見つめる。名乗ってくれるだろうか……。


「……俺は、アルディ・セルドナー。……アマネか……よろしく」

 とぶっきらぼうだか名乗ってくれた。


「うん!よろしくアルディさん」


「……さんは面倒だからいらない」


「……分かったアルディ、よろしく」

 と手を差し出した。握手しておきたいのだ、何となく。


「ああ」

 とアルディは握手にも応えてくれた。機嫌がだいぶん通常?に戻って来ているのか……?そして、アルディの手は男性らしくゴツゴツしていた。剣だこ?みたいなのもある様だ。やっぱり剣士か?それとも魔法と両方で魔法剣士??と再び同じ疑問が湧いた。


「アルディって、魔法使えたよね?でも剣を下げてるよね?剣士なの?それも魔法使いなの?」

 と疑問をぶつけてみる。


「……両方だ。……ギルドのクラス分けでは、魔法剣士とされているな」


「魔法剣士……なるほど」

 と納得である。推論は当たっていた様だ。てか、両方扱えるのかー。凄いなぁ。クラス分けがあるって事はランク分けとかもあるのかな?聞いてみよう。


「ねぇ?冒険者のレベル毎のランク分けみたいなのもあるの?」


「ああ、ある」


「やっぱり!……アルディはどの辺?」


「…………。そのうち分かるか……SSクラスだ」

 と少し渋って、多分とんでもないクラスを言った。これってすんごいやつではないか?


「……もしかして最上級のクラス?」


「……そうなるな」

 と肯定した。


 マジかよ。……ああ、そうだった歪の主になるんだから、アルディは凄い力を持っているのだった。


「……凄いんだね」


「……そうでもない。現にお前を元の世界へ帰してやる力も無いしな」


「……元の世界……」

 と数時間前までいた世界を思い出した。随分前の事のように思える。


「帰りたいか?」

 とアルディは真剣な眼差しだ。


「……分かんない……でも帰る方法とかあるの?」

 と少し興味が湧いた。帰りたいのか、このままここにいたいのかは……本当に分からない。せっかくファンタジーの世界に来たのだから楽しみたい気持ちもあるが、戦わないといけないならさっさと帰ってしまいたい気持ちもある。


「あるにはあるが……それは……途方もない話だ。聞くか?……絶望するかもしれないぞ……」


 その言葉にゴクリと唾を飲み込んだが、一応聞いておきたいので、聞くことにした。


 アルディの話を要約すると、異世界人はそれぞれにあった行為や儀式を行うと帰れるらしい。しかしその自分に合った条件を見つけることが容易ではなくて……とにかく各地の力の強い聖職者をしらみつぶしに当たらないといけないらしい。……何故かと言うと、条件は聖職者、しかも力の強い聖職者しか知ることが出来ない。異世界人が聖職者に直接会うことで分かるらしいのだが、その出会えた聖職者が自分と波長のようなものが合わなければ、どれだけ力がある聖職者でもダメなのだ。……そして、その波長の合う聖職者が現存しているかも分からないそうだ。


 そうして、しらみつぶしに当たっても帰れなかった異世界人も多くいるそうだ。だから大概の歪の主は異世界人の帰る方法を探す事を諦め、そのまま保護し続けるらしい。アルディもその部類だそうだ。


 なんて事だ……これでは帰れないも同然だ。ちょっと希望を持たせられてガッカリだ。


「大丈夫か……やはり教えるべきじゃなかったか?」

 とアルディが顔を覗き込んでくる。心配してくれている様だ。


「ううん。大丈夫。ありがと」

 と表面上は強がって見せたが、内心はかなりきている。これからの生活を思うと辛い。


「……そうか?……ならこの世界の説明などをしておくぞ」

 とアルディはいかにもファンタジーっぽい地図を目の前のテーブルへ広げて説明をしてくれる様だ。


 私はメモを取るために唯一一緒に持ってこれた学生鞄から、ノートと筆記用具を出した。


 アルディの説明はシンプルでわかり易かった。かなり面倒くさがっていたが。


 アルディの説明によると……この世界グロワールは人間と魔物がその活動領域を巡って戦闘を繰り広げているそうだ。が、別に魔王とかがいる訳では無いそうだ。


 現在人間の活動領域はこの途切れた地図に載っている分だけ。途切れた先はまさに魔物の領域、未開の地である。人間は世界の全てを把握出来ていないそうな。


 国はグロワール王国というただ一つのみ。地図の中心辺りに、王都モンドサントルと書いてある。


 私がこれから住むこの街は地図の端の方にある、フォートという街だ。ここは魔物との前線基地の街らしくて、街の外は魔物が強くてかなり危険らしい。


 異世界人の扱いは、基本的にこの世界の住人と変わらないそうだ。こちらへ来る原因となった歪の主の保護を除いて。……つまり刑罰も罪を犯せば適応されるという事だ。


「……ここまでの説明で、質問はあるか?」


「えっと……魔物と活動領域を争っているのが冒険者って事?」


「ああ、そうなる」


「じゃあ冒険者は未開の地へ入っていくの?」

 とワクワクしながら聞いた。


「……危険を冒し、魔物の領域を開拓する。……それは昔の話だ。最近では名ばかりで魔物を狩り生計を立てているだけの者がもっぱらだ」

 

「……なんだ。……夢無いなぁ……」

 とガッカリである。せっかくのファンタジー世界だというのに……。冒険者が冒険していないとは……。


「冒険したいのか?」


「そりゃあ、してみたいよ。……安全ならね」

 と安全を強調しておく。危険は嫌だ。


「……安全なら冒険とはいわないと思うが……」


「……まあまあ。……でさ、私も冒険者になっちゃったんだよね?……その仕事内容は?」

 と凄く気になっていた事を聞いた。ヤバイ内容じゃなければ良いが……。


「他の冒険者と同じく、魔物を狩って生計を立てればいい。他に依頼を受けて細々とした仕事をする事もあるな」


「……やっぱり魔物か……細々とした依頼だけじゃダメなの?」

 出来ればそうしたい。


「……ある程度実績や、ランク、信頼が無いと駄目だろうな。それに、細々とした依頼もどうせ腕力や魔力がいる事が多いぞ」


「ううっ……」

 ぐうの音も出ない。


「……そうだ、これは言っておく。この街は前線基地だから血気盛んな奴が多い、危険に巻き込まれたくなければ、ある程度ランクが上がるまで一人歩きは止めておくんだな」


「……外は強い魔物、中はヤバイ人……何かヤバそうな街じゃんここ!……散策したかったけど止めとく!」

 と即判断した。……散策したかったなぁ……ファンタジー世界。だが、身の安全には代えられない。


「賢明な判断だ。……一応保護者として、必要な場所には連れて行ってやる。日用品など必需品がいるだろうからな」


「ありがと!それ気になってたんだよねー。……あっ、でもこの世界のお金持ってないや……」

 そう、私の手元には少しばかりの日本の通貨しかない。これでは日用品や必需品が買えない。困った。


「大丈夫だ、保護者として出してやる」


「い、良いの?」


「気にするな、金なら余ってる」

 とサラリと言いおった。一度は言ってみたい凄い台詞である。……流石SSランク様。なので素直に頼る事にした。


「良かった!ありがとう!!借りは必ず返すからね!」

 とアルディに笑って見せた。


「ああ。……別に借りだとは思わなくても良いぞ。……俺のせいでここで暮らすことになったんだから……」

 と目を少し伏せた。自責の念でもある様だ。……不慮の事故だったみたいだから気にしなくて良いのに……。


「でも……。てかさ、ここへ来ちゃったのは事故みたいな感じなんでしょ?じゃあアルディがそんなに自分を責める事ないよ。……それに不用意に歪に触れちゃった私も悪いというか……」

 とアルディの為にもこっちの落ち度を説明しておく。少しでも自責の念を軽く出来れば良いが……。


「……そう言ってくれてありがとう……すまないな」

 と軽く微笑んだ。……美形の破壊力!!


「いえいえ。……他に注意事項とかある?」

 と話を変える。


「注意事項か……後は常識とかだろうな……ここまで話していて常識が無い様には思えないし……おいおい経験して覚えていけばいいだろう」

 と切り上げた。……説明が面倒臭いだけではなかろうか……。


「おいおい経験……さいですか。この世界……変な常識とかないよね?」

 と心配なので聞いておく。


「……変な常識か……思いつかんな。とりあえず他の異世界人達は苦労せずに馴染めてるそうだから、大丈夫だろう」


「ふーん。……他の異世界人……。結構いるの?」


「……そこそこ探せば一つの街に一人はいる、といった程度だな、多くはない」


「……一つの街に一人ぐらいか……この街にはいるの?」

 と地図を見て街の数を数える。……結構いるんじゃないか?


「……この街は……知らないな」


「そっか……先に来ちゃった人の経験談とか聞きたかったんだけどなぁ……残念」


「……さて、今日はもう遅い。明日の朝ここへ迎えに来るから、鍵を掛けて部屋からは出るなよ。絶対だ」

 と窓の外をチラリと見たあと、出るなと念を押す。……部屋から出るものヤバイのか?


「はーい」

 と、もちろんそのつもりなので返事をした。


「じゃあな、おやすみ」

 とアルディは部屋から出ていった。




 言われた通りちゃんとすぐに鍵を掛けた。それからベッドへ腰掛けため息をつく。


 本当に……本当に、異世界に来てしまった……。これからどうなっていくのだろう?


 日本では私の扱いはどうなっているんだろう……家族はどう思ってるかな……家出とか、失踪者扱いになってるかな……とファンタジー世界への興奮から覚めてきて、元の世界の事をグルグル考えてしまう。


 今まで散々ファンタジー世界へ行きたいと公言してきたが……いざ来てみると、不安で仕方ないのだ。保護制度が無かったらと思うとゾッとする。


 ……もう、頭の中はパンパンでショートしそうだった。

 

 ……とにかく今日はもう寝ようと思う。これからこの世界で生活するのだから、くよくよ考えていても仕方ないのだ。とベッドへ潜り込んだ。……割と寝心地良さそうなベッドだ。


 しばらく目を閉じていると、どうやら眠ってしまったらしい。……私って案外図太いのかも。

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