13.精霊
あれから治療も終わって、疲労も落ち着いてきた。……アルディはまだ考え中である。
流石にちょっとなぁ……と思ったので名前を呼んで肩を揺すってみる。
すると、ハッと気が付いた様だ。……何なんだ。
「アルディ……どうしちゃったのさ?」
とアルディを覗き込む。心配だ。
「ん?……いや……アマネ……お前さっきの一撃の時、身体の中に風が駆けなかったか?」
「へ?何で分かるの?」
とビックリする。何故分かる?
「はぁ……そうだったのか……そりや使えない筈だ……はぁ」
と何だかまた、思考の海へ帰りそうだったので、どういう事?と引き止める。帰ってこーい。
「あー……つまり、アマネ……お前は精霊に愛されている」
と訳分からない事を言う。それと無詠唱何が関係あるのだ?
「へ??」
と困惑するのみである。
「……説明が面倒臭いな……。えー……とにかくだな、今まで無詠唱が失敗していたのは精霊がちょっかいを出していたからだ。つまり、
からかわれていたんだ」
「……うーん?……それが無詠唱出来なかった原因?……で、何でさっきは使えたの?」
と首を大きく傾げる。
「……死地に面して覚悟したから、お前に精霊達は従ったのだろう。だから発動できた。分かったか?」
と眉間を抑えている。頭痛でもしてるのか?
「……一応」
とファンタジー知識を総動員させる。なるほどなぁ……。助けるんじゃなくて、舐められてからかわれていたのか……。なんてこったい。
「この世界では精霊に愛される者は少ないから、失念していた。無駄な努力をさせてしまったな、すまん」
と平身低頭だ。珍しい。
「いえいえ、お気にならさず。……で、精霊に愛されちゃったら無詠唱は難しいの?」
「そう、無詠唱はな。……言霊が乗る詠唱ありなら精霊に術者の意志が明確に伝わり従わせるのは容易だがな」
「ほー……んじゃあ、無詠唱を上手く使えるようにする為にはどーしたら良いの?」
と聞く。そこが問題である。
「……今までの無詠唱の時の分に足して、精霊を意識し、感じ、従える意思を強く持てばいい。さっき出来たんだ、もう精霊達は力を貸してくれる筈だ」
と眉間の皺を少し緩める。
「……何か更に難しそう。……頑張らないと」
と気張ってみるが、不安だー。
「大丈夫だろう。それに精霊を従えるのはメリットがある、行使する術がより強化される。精霊が力を上乗せしてくれるんだ」
「なんと!良いメリットじゃん!うん!頑張れるわ」
と現金な私はコロッと態度を変えた。どんどん従えてやるっ!
「それに強力な精霊と契約さえすれば、精霊術も使える様になる」
と更に大きなメリットも言ってくれる。うはは。
「精霊術!マジかー!!」
と喜びを隠さない。嬉しい!嬉しいっ!
「……が、精霊との契約には色々条件が必要だ。しばらくは諦めろ、Fランク」
とグサッとくる一言を言われた。ひどい。
「へーい……」
と今度は凹む。
「……ま、まあそのうち契約出来るだろう」
と付け足すように慰めてくれる。……本当か?
「うーん。……てかさ、何でアルディはこんなに詳しいのさ?」
と再び湧いてくる疑問。
「……俺も……一応精霊術士だからな……」
と目をそらす。
「はぁ?……剣も魔術も治癒術も出来て、その上精霊術も使えるとか……何そのハイスペック!?」
とオーバーにリアクションしてみる。
「褒めても何も出ないぞ……。とう言うか、お前もスペックで言えばレベルは違えど同じと言えるぞ?お前も剣と魔術、治癒術、まだだが精霊術が使えるだろう?」
と虚を突いてきた。……考えてみたら、そーである。私、意外とハイスペックだった!……まだ熟練度はFランクですが。あはは……。
「あらまあ……」
「……今気付いたのか?」
と呆れた顔をされた。失礼だな。
「あはは。……でさぁ、これからは精霊の扱い方も教えてくれるんだよね?先生?」
と話を逸らす。
「ああ、必要だからな」
「よっしゃ!マスターしてやるぞー!無詠唱と精霊の従え方っ!!」
と気合を入れる。
それから日が暮れるまで、再び無詠唱で草原の魔物達と対峙させられた。なんとたまにカタルハウンドも出るようになってしまったぞ。ヒエッ。
が、精霊を従えるのは案外難しくてよくコントロールを外してしまった。やはりノーコン……。
まあ、そこそこ精霊は従ってくれる様になったので良しとしますかねぇ……。
そして精霊術も使える人物ねぇ……。アルディの謎がまた増えたなぁ……。はあぁ。
アルディって本当に一体何者なんだろう。
知りたい様な……知りたくない様な……。