12.軌道に乗れない
翌日の今日も草原で葉っぱ相手に無詠唱のトレーニング中だ。
「ふぬぁああーー!ほぁああーー!」
と色々唸りながら無詠唱してみるが、一向にどーにもならない。
もう日が昇り、お昼が近い。
「何で!?……本当に何でよぉ……」
と涙が溢れてくる。ぎ、ギリギリ泣いてはいないぞ。
「…………」
アルディは黙りだ。
「アルディも黙ってないで何か言ってよ!……何そのダメだコイツみたいな目は!?」
とアルディに八つ当たりする。
「……落ち着け。心の乱れは魔力の乱れに直結する。平静、平常心を心掛けろ」
と的確なアドバイスをくれる。……分かってるやい!……でも出来ないんだよぉ。
「ううっ……平静、平常心……平常心……」
と何度も深呼吸し、荒んだ心を落ち着かせる。
しばらくそれを繰り返した。
「落ち着いたか?」
と優しく聞いてくるアルディ。
「……なんとか……。上手くいかないからって、八つ当たりしてごめんなさい……」
としょんぼりする。……本当にごめん。
「気にするな。魔術は精神力を削られるからな。さあ、もう昼食にしよう。お腹減っただろう?」
と優しい。荒んだ心が落ち着く。
「うん。ありがと。そうだね、お昼にしよう」
と手頃な岩に腰掛ける。アルディも側の岩に腰掛けた。
それからお昼を食べた。今日はおにぎりっぽいものだ。てかおにぎり?……とにかく美味しい。米質はちょっと日本とは違うかな?ってぐらい。海苔まである。
パクパクムシャムシャと食べる。魔力に集中してかなり消耗していたらしい。栄養が染み渡るわー。
「ぷはぁ……ごちそうさまでした」
と手を合わせて片付け、お茶を飲む。
「この弁当も気に入ったか?」
とアルディももう食べ終わってお茶を飲んでいる様だ。
「うん!美味しかったよー」
とニコッと笑う。
「そうか」
とアルディも微笑む。ココ最近見れる光景だ。
「そういや、アルディはさぁ……誰に魔術教わったの?」
とふと浮かんだ疑問を口にする。
「人に教わった事は無いな……指南書を読んだぐらいか……」
と呟く。
「は?マジか??」
と開いた口が塞がらない。
「ああ、マジだ。……俺の事はもういいだろう……」
とそっぽを向く。……このそっぽはこれ以上立ち入ってほしくない時のものだ。
「そっか……」
とまだまだ壁を感じるなぁ……。
「さて、食い終わった事だ、そろそろ訓練を再開するぞ」
と葉っぱの山を指す。
「……はいよ……」
と言う私の目はさぞ座っていることだろう。
そしてまた葉っぱへ向かう。しかし一向に、やっぱり綺麗に真っ二つにはならない。
「ぐぬぬ……」
と再び平静を失ってきた。
アルディはというと、腕を組んで何かを考えている様だ。
「アマネ……実戦でやってみるか?」
「ぬぬぬぬぬぬぬ……へ?実戦?」
とマヌケな声が出てしまった。葉っぱからアルディを向く。
「そうだ。お前は追い詰められた方が実力が出るかもしれない。もう、デボレ種の扱いには慣れているだろう?……やって、みるか?」
と真剣に見つめてくる。
「……実戦……うん。……分かった!やってみる!」
と覚悟を決める。
それからデボレボアを見つけて対峙する。
突進してくるデボレボアに無詠唱で術を放つが、やはりほぼそよ風だ。突進や攻撃は軽々避けれるので問題無いが、剣を使ってはいけない為トドメがさせない。くっそ。
イラッとして煩雑に無詠唱で放つとデボレボアは千切りになった……無残……。
真っ二つにしたいのに……。やはりノーコンだ。困った。
それから何体もデボレ種を狩ることになってしまった。大体その最期は無残に千切りである。こっちは無傷だ。
……もう千切りの術で良いんじゃないかという気もしてきた……が、ノーコンは駄目である。危な過ぎる。
そしてまた、デボレバードを千切りにして、素材にし、麻袋に詰め終わった頃である。
割と近くから聞き覚えの無い咆哮が聞こえた。
「な、何?」
と視線を彷徨わせる。
「カタルハウンドだ……」
「カタルハウンド??」
とオウム返ししてしまう。聞き覚えが無い魔物だ。
「ああ、滅多に出ないこの辺では少し強い魔物だ。……今のアマネには危険かもしれない種だ。どうする?」
と私に決めさせてくれるらしい。
「……こ、これでステップアップ出来るかもしれないから……やってみたいっ」
とゴクリ唾を飲む。ちょっと手汗をかいてきた。
「分かった。……だか、死にそうになったら割って入るからな」
と言ってくれた。それで安心出来る。
「ありがとう。……頑張るよ!」
と頬をパチンと叩いて気合を入れる。おりゃーやってやるぞー!
しばらくして、カタルハウンドが姿を現した。……デボレウルフよりもかなり大きいし、圧を感じる。……ちょっと腰が引けそうになったが、気合を入れ直し対峙する。
「せいやっ!」
とカタルハウンドへ向けて何度も無詠唱の術を放つが、微風か烈風になってもカタルハウンドが早すぎて当たらない。きぃっ!
それに、いつしか襲ってくる鋭い牙と爪を避けるので精一杯になってしまう。防戦一方だ。マズイ。
カタルハウンドと無詠唱の微風という微妙な攻防を続ける。
カタルハウンドはいつものデボレウルフより素早くて力強い。
また、カタルハウンドの鋭い爪が襲ってきたが、避け損ねて二の腕を掠めた。良い切れ味してますねぇ。ヒリヒリと痛い。
「うわー……ヤバイかも?」
と冷や汗が伝う。一応アルディが死なない様には守ってくれるだろうが、それでも怖いものは怖くなってくる。
このまま恐怖に支配されるとマズイだろう。早めに決着を付けねば。
ちなみに例の如く、腕輪の防護機能は死にそうになるまで発動しない様に制限されている。追い込む為だそうな。酷いわー。機能してたらさっき二の腕切られる事も無かったのに。
再びカタルハウンドが襲い掛かってくる。それを素早く避けるが、今度は左足を結構やられた。痛いっ。疲れとこの傷で更に機動力が落ちる。うわー、うわー……。
その隙を逃さずカタルハウンドは飛びかかってきた。それを避けようとしたが、負傷した左足が小石に躓き、背面から倒れ込む。
あっ……死ぬなこれ。と瞬時に思う。……だが死んでたまるかぁっ!オラァ!!とも思った。
その時だった、身体の中に一陣の温かい風が吹いた気がした。そしてみるみるうちに、頭の中にカタルハウンドを両断するイメージが浮かぶ。そしてそのままそれを現実にする様に無詠唱の術を放った。
刹那、飛びかかる途中のカタルハウンドへ一陣の鋭い風が駆け抜け、カタルハウンドは真っ二つに両断された。カタルハウンドは最期の咆哮も上げる暇も無かった様だ。
「へ?……で、出来たの?……倒せたの?」
と興奮と困惑が入り混じる。
「ああ、良くやった。おめでとう」
とアルディが倒れたままの私を起こしてくれた。
「あ、ありがと。……本当に出来たんだっ!」
と喜びを噛み締める。
アルディは、と言うと何かを考え込んでしまった。
「アルディ?……おーい。アルディ??」
とアルディの目の前で手をヒラヒラさせるが反応が無い。かなり考え込んでしまっている様だ。
疲れたし、治療もしたいから……その辺に座ってアルディが考えから浮上するのを待つことにする。結構掛かりそうだ。はぁ。