第一の物語 始まりの日
婚約者のアンがいなくなってから3日がたった。
どこに行ってしまったのかと不安に思っているなか、仕事をしなければならなかった。
朝、国王がいる城に集まり、点呼される。
「キル・ガルバージ!」
「はい!」
マンゴスタリア王国軍第七部隊所属、キル・ガルバージ。それがオレだ。仕事は、王国の治安を守ることだ。
マンゴスタリア王国は自分がすんでいる町であるがゆえに、平和であってほしいと思う。だから、そのために入隊したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい?おいっ、キル?大丈夫か?」
点呼が終わり、解散後、自分の仕事である、町の警備についた。城に近く、周りに家々が立ち並ぶような場所にオレの仕事場がある。
しかし、仕事は上の空。顔がどうも死んでたらしく、同じ持ち場のウィルに心配されてしまった。
「あ?あぁ、大丈夫だ。多分…。すまない。」
「仕方ない。婚約者がいなくなっちまったんだ。心配するのは当たり前だよ。もしかして、もうお前に対して冷めちまったとか?」
「冷やかすのは止めてくれよ、ウィル。」
笑いながら言ってくるウィルに同じような感じで言葉を返した。
こうやって、励ましてくれる仲間がいるとありがたい。少しではあるが、心が落ち着く。
「しかし、いなくなったと聞いたときは驚いた。お前のことを一番愛してるあのアンがいなくなるとはね。」
「…。」
アンがいなくなったと気づいた時、すぐに仲間へ連絡をした。そっちにいっていないか、あるいはどこかで見かけなかったかなどを聞いていた。真っ先にした連絡先はウィルだった。
オレとアンとウィルはとても仲がよかった。毎日のように、酒場に行っては朝まで入り浸り、最後にはオレの部屋で爆睡するような日々を暮らすなかであった。だから、ウィルに対しては強い信頼を持っていたため、最初に連絡をしたのだった。
「まだ、帰ってこないのか?ってのは、違うか。何も手がかり無しか?」
「あぁ。アンからの連絡はもちろん、仲間や周りの人から情報は全く無しだ。どうしたらいいのか、さっぱり分からないってのが現状。はっきり言って、死んで…」
「そこまでだ。キル。そこから先は言っちゃダメだ。彼女はきっと生きてる。」
「あぁ…。」
もう、生きてるってことを信じられないくらいの心境だった。
今、世界では、三つ巴の戦争を繰り広げられている。マンゴスタリア王国、フリリアム王国、バタルスコル帝国による、世界の支配権をにぎるための戦争らしい。そんな最中、誘拐、窃盗、殺人諸々の犯罪行為は頻繁に起こっているのは普通。それを抑えるのがオレ達第七部隊の仕事。のはずではあるが、オレらは城に一般人を近づけるなというのが仕事らしい。
んー?なんか、おかしいと感じるのはオレだけだろうか?
それはさておき、この様な情況の中でアンがいなくなるというのは、誘拐されてしまったに違いないと思うのが普通であった。誘拐されてしまっては、何をされるかわからない。最悪の場合、死しかないだろうと思っていた。それが、オレはもう生きていることが信じられなくなっている理由である。
「気持ち切り替えて、頑張るかぁ!」
「おう!そのいきだぜ、キル!」
しかし、そんなアンに対する考えも今日で終わりを迎えようとしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜になり、仕事が終わる時間に差し掛かっていた。
「今日もなんも無し!疲れたぁ~…。」
「あぁ、お疲れウィル。」
「今日も帰ってこなかったな…。」
ここ三日間、オレとウィルはずっとアンについての連絡を勤務中であっても気にし続けていた。しかし、変化は全くなかった。
「そうだな…。」
「あ、悪いな。余計なことを言っちまった。城に戻って、仕事を終わらせよう。」
「おうよ。」
そう言って、オレとウィルは城に戻ろうとした。その時だった。
『キ…ル…。』
今にも、無くなりそうな声だった。
「アン?アンなのか?」
家の明かりだけで照らされた道の中で、呼び掛けながら発した声の主を探した。
そして見つけた。
「キ…ル…。」
顔をこちらに向け、這いずりながらこちらに来るアンがそこにいた。
「おい!アンしっかりしろ!何があったんだ!」
自分の目の前に信じられない光景があった。アンが帰ってきた。
しかし、おかしいと感じる。
さっき、アンがいる場所には誰もいないことを確認した。そして、彼女を抱き起こした時、彼女は衰弱していた。さらに、普通であれば、誘拐されたあと手錠をつけたり、何か危害を加えるはずだが、その痕跡が全くない。ただ、何も食べていないという感じであった。
おかしな点だらけで何があったのか、様子を見るだけではよくわからなかった。
取り敢えず、彼女を医務室に連れていなければと思い、アンを抱えた。
「もう、大丈夫だからな。いますぐ城の医務室に運ぶか…」
「お願い…逃げて…。今…すぐ…に…。そして…応援を…」
また、無くなりそうな声で妙なことを呟いた。
「お前、何を言って…」
その瞬間、何かの衝撃で尻餅をついた。何が起こったのか理解不能だった。
そして、立ち上がり後ろに一歩下がると目の前に黒い物体がいるというのがわかった。
同時に、その黒い物体は彼女だということも理解できた。
「キ、キル!なん…なんなんだ!こいつは!」
「わからない!でも、アンがいないってことはこいつはアンだ!」
「なんだって!?」
彼女は、とても恐ろしい姿をしていた。体調は2mを越え、鬼のような顔を持ち、腕はゴツゴツとしており、振り回したらオレらの上半身が吹っ飛ぶようなイメージが出来た。
そのくらい、恐ろしい姿にオレらは怖気づいていた。
『キ…キル…』
化け物からアンの声がした。
「アンか!」
『もう…私はどうにもならない…。今は…意識があるけど…そのうち…無くなるわ…。だから、軍に…応援を…。』
その言葉に、オレの頭に血が登った。
「ふざけるな!オレはアンを見捨てることなんかしない!どうにかしてやる!」
「どうにかつったって、何をしたらいいかわからないだろっ!」
ウィルがオレの感情を抑えるために言ってきた。しかし、オレは聞く耳を持たなかった。
「うるさいっ!どうにかしてみせるんだよっ!オレは…オレは…。クソッ!」
ウブォォォォォォ!
「「!!」」
その鳴き声と同時に、彼女は化け物になってしまったらしい。どうしようも出来なかった。
鳴き声は、城にも響き渡り、知らせが届いたような形になっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
----マンゴスタリア王国軍第三部隊:控え室
『ウブォォォォォォ…』
『!?』
控え室内の全員がその声に驚きを隠せなかった。
「隊長!今のって!」
「あぁ!第三部隊!出撃準備!」
『はっ!』
「何故だ…。王国の中には入れないよう細心の注意をしていたはずだ…。」
第三部隊隊長の女性はそう呟いた。
「隊長さんよ。どうするんだ。アイツが王国内で暴れまっくたら、パニックになるぞ。」
「わかってる。どうしたものか…。」
隊員の男と隊長はその場で頭を抱えてしまった。
「こうしていても仕方がない。行くぞ。」
「了解だ。」
隊長はレイピアを、男は銃を持って控え室をあとにした
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
----数分後:現場にて
『緊急事態レベル3発令。国民は、速やかに避難をせよ。繰り返す。緊急…』
城から緊急アナウンスが入る。全レベル4のうちの3である。余程彼女が危ないのだろう。
おまけに、
『おい!そこの二人!危ないからこっちに来るんだ!』
銃を持った軍人がオレ達の周りを囲んだ。軍人は、肩に部隊のワッペンを付けることが義務付けられている。彼らは、ワッペンを見るに第三部隊だとすぐにわかった。
第三部隊。通称:特殊部隊 A.F.P。何が特殊なのかは上層部しかわからないという。
そのよくわからない第三部隊が目の前にいるのは何故なのか。単純明快、彼らは彼女を殺しに来たということだ。
『早くしろ!それとも、お前らは化け物を連れてきたのか?』
その問いに、ウィルは答えた。
「違う!こいつは、キルの…」
「な………だ…。」
「キル?」
「な…で…よ。何でなんだよ…。訳わかんねぇよ。アンが何したってんだよ!チキショー…。」
アンの失踪。変化。化け物。第三部隊。全てが、オレの頭の中でぐるぐると回っていた。周りの声は聞こえてておらず、見えてもいなかった。
「キル!」
その、呼び声で顔をあげると目の前で化け物が腕を降り下ろす瞬間だった。
『危なっ
そこまで聞いて、目の前が真っ暗になった。
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