cord.6 俺は、ジーク・カルロス
カインとルーティはすぐにウラノス国内の端、星の見える街-ステルラにある部屋へ向かった。部屋へ入るな否やルーティは部屋中に術式を展開する。
「この数日セイトが襲った街の残留魔力を調べてそれを追う術式を作ったの。何か動きがあればすぐに見つけられる。ただ、詳しくは分からないからカインがセイトの元へ向かいながら術式の変化をあたしがここで読み取り教える形になる。どの方角へどの位の速度で移動してるかね。あたしが駆けつけるまで…持ちこたえられる?」
部屋の空間という空間に無数の文字が浮かび上がる。ルーティはそれを物凄い速度で目で追いながら手を広げる。これ程の術式を数日で仕上げ、制御出来るのはルーティ以外に居ないだろう。
「…2度もヘマはしない。ここは任せる。」
ハッキリとそう告げるカインに、ルーティは笑顔を見せた。
「…問題は……この術式を最後まで完成させる事、だね…。あと少し何だけど…おかしいな……なぜここが言う事を聞いてくれないの…?」
とある一箇所の文字を見てルーティは言う。そこに変化がない事は、その文字を読み取れないカインにも分かった。
「…おい待て…!!まさかそいつは…!!」
「ははっ…こりゃ参ったよ…そのまさか、だね。」
カインはその返事を聞き終える前に部屋から姿を消し、建物の屋上へ瞬時に移動する。そしてテレパスでルーティとの会話を始める。
「方角は!!急げ!奴はもう街を襲撃している!!!」
「北!クロウカシス国内!レド!!北の港町、レド!!!」
それを聞いたと同時にカインは移動を開始する。あれからまだあまり時間も経っていなかった。カインは痛む身体に鞭を打つ。
「保ってくれよ…俺の身体…!!」
「カイン!動いた!!北の大陸の東端!!!そこで止まった!!」
突然頭に流れるルーティの声に了解、と短く返す。北の大陸が見え始める。レドがある場所からは黒煙が上がっている。
「嫌な予感が当たったか…!やはり…!終わっていたか!!!」
目の前に広がる光景に冷や汗が滲む。雪に包まれた北の港町が見るも無残な姿になっている。そこら中が赤く染まり、家は燃え、黒煙が上がる。
「移動したと聞いて嫌な予感はしてたんだ…!何で…セイト…!」
レドの上空で歯を喰いしばる。しかし今はこの町で止まるわけにはいかなかった。
「…すまない…!!」
まだ生き残りが居るかもしれない破壊された街を後に、指示された場所に急ぐ。完全に回復していないカインにとって、道程はとても長く感じられた。
「カイン!!動きは止まったんだけど…!おかしい!魔力が治ってないの!!気を付けて!あたしも直ぐに向かう!」
そのルーティの声が聞こえ、先を見る。と、突然の爆風に襲われる。何とか耐えるとその場へ急いだ。大きな洞窟が見えてくる。
「…セイト…そこか!」
洞窟の入り口に降りると剣を抜き、静かに中へ進む。奥からは大きな魔力が感じられた。
「…セイト…?」
人影を見つけ、小さく言う。しかし直ぐに違和感を感じ、足を止める。その場には横たわる人間と、その前に立つ2人の男が居た。
「…はぁっ…!はぁっ…!任務、完了…だな…!」
「…やっと…終わった、のか…!」
カインは胸騒ぎがした。
「誰だ。ここで何をしている。」
焦りを隠し、カインはそう声をかける。すると2人はバッと振り返る。そして顔の左側に刺青をした男が口を開いた。
「…お前は…カイン・リート…?何故ここに…?」
「質問に答えろ!!!」
そこにルーティが追いつき、この状況に固まる。
「…これ…は…まさか…。」
そんなルーティをチラ、と見ると尚も表情を変えず男は口を開いた。
「あぁ、これか…。俺が今殺した。仕事でな。もう用は無いから、何かあるなら好きにすればいい。行くぞミト。」
「お、おう!」
カインに背を向け、洞窟の入り口へ向かう2人の男。
「貴様は!!貴様は誰だ!!!!」
2人は振り向く。そして刺青の男が静かに言う。
「俺は、ジーク・カルロス。」