cord.4 あの日あの時あの場所で
カインは血が止まらない右目に手を押し当てる。激痛に襲われ、噛み締めた唇からも血が滲む。そんなカインを見下してセイトは微笑む。
「待ッテイルヨ、俺ノ元ニ来ルコトヲ…。」
そう言ったセイトは右手を静かに上げると、天井を破壊する。
「ま、て…!待て…!セイトォ…!!」
そして音も無く浮き上がり高笑いをして空へ消えていった。必死に絞り出した声は虚しく、セイトには届いていないようだった。カインは壁に寄り掛かる。自分の視界が狭まるのをハッキリと感じていた。
「カイン!!」
視界の端に薄っすらと映るルーティを確認した瞬間、カインの意識は途絶えた。
数日してカインは見知らぬ部屋で目を覚ました。酸素マスクが当てられ、身体中に管が繋がれている。右目は開かなかった。身体中の痛みが残る中、最後に見たセイトの姿が頭を過ぎり居ても立っても居られなくなる。マスクを無理矢理外し、ズキズキと痛む身体を無理やり起こす為目眩がカインを襲う。そんな時、ルーティが部屋に入って来た。
「ちょ…カイン!?何やってんの!?まだ無茶は…!!」
見えている左目でルーティを睨むと、肩に置かれた手を払い退ける。
「止めねぇと、あいつ、止めねぇと…!!行っちまう!!」
その様子を見てルーティは驚く。いつもの冷静なカインではなかった。そしてもう一度カインの肩に手を置き、真剣な表情で告げる。
「落ち着いて聞いて。カイン、あんたはあれから丸5日目を覚まさなかった。その間セイトは数々の街を破壊し続けた。今、この王都ウラノスに各国の王が集結しこの事態をどうするか話し合いをしている。そこで、あの場にいたあんたに詳しい話を聞きたい。寝起きで悪いけど協力してくれる?」
落ち着きを取り戻したカインは少し考えてから短く分かった、と呟くとルーティに肩を借りて会議の場へ顔を出した。そしてあの日あの時あの場所で起こった事を話し始めた。
「…嘘は言わない。だから冷静に聞いてもらいたい。」
一連の事情を話すと、室内は沈黙に包まれる。当然だ。あのグラッド・ブレイカーであるセイトがこのような事をするとは到底思えなかった。それは国王達とて同じだった。
「つまり、あいつ…セイトは何者かによって操られているのかもしれない。だが、そうなる以前におかしな点はあった。」
「でも、あたしらにまで手を出すなんてセイトなら絶対にしない。それはカインより付き合いの長いあたしがよく知ってる。今あたしらに出来る事は、セイトを探し出しこの騒動を鎮めること。」
カインとルーティは国王を前に淡々と続ける。
「各国の王達には、少しでも住民への被害が少なくなるよう全力を尽くしてもらいたい。簡単な話ではないと思うが…協力して貰えるか。」
「セイトはあたしらにしか止められない。情報をいち早くあたしが知らせ、あたしらはそこに向かうから。でもこれはあたしらだけではどうにもならない。皆の協力が必要なの。」
王達は顔を見合わせ、そしてカインとルーティを見て、深く頷く。
「私達は貴殿らを頼ることしか出来ぬ。お願いするのはこちらだ。」
「頼めますか?グラッド・ブレイカーよ。」
その言葉にカインとルーティは足を揃え背筋を伸ばす。そして声を揃えて告げる。
「はっ!!承知!!!」