cord.3 悪を破壊する者
「今年度のグラッド・ブレイカーはやはりこの3人!昨年度苦難を共にした3人が、今回も選ばれました!!皆様、盛大な拍手を!!!!」
会場内が拍手と歓声に包まれる。
「ね?今年もあたし達だったでしょ?」
ウインクをして満足げに笑うルーティ。
「やったなカイン、ルーティ!ま、やっぱこれが1番しっくり来るワ。」
3人で肩を組んで楽しそうに言うセイト。
「当たり前だ、俺達がいりゃ当分は変わんねぇだろ。」
いつもの淡々とした口調でそう告げるカイン。
昨年に続き、今回も3人揃ってグラッド・ブレイカーに選ばれた。もっとも、グラッド・ブレイカーに選ばれて1番長いのはセイトであった。3人は魔物狩りに駆り出されたり、国王が集まる会議に出席したり、四六時中共に過ごす事も少なくなかった。
しかしいつしか3人で行動する事は減っていった。セイトが1人で出歩く事が増えたのだ。フラフラで夜遅くに帰って来たり、帰って来るなりブツブツと分からぬことを呟いたり、ルーティとカインはその異様な姿に距離を置くようになった。
そんな時、セイトは部屋の沈黙を破った。
「なぁ…俺らでこの世界壊すんだワ。いい考えだろぉ?」
部屋の中央に置かれている机を叩いて言うセイトを、側の壁に寄り掛かっていたカインは怪訝そうに見る。ルーティは分厚い本を読みながらチラ、とセイトを見やる。
「…また、それか?最近おかしいぞ、セイト。」
小さくため息を吐きセイトの向かい、ルーティの隣に腰を掛ける。
「相変わらず冷てぇ男だワ、カインは。けど嫌いじゃねぇワ。俺らならやれる、そう思わねぇか?」
尚も身を乗り出して続ける。そんなセイトにルーティはため息を吐き、大きな音を立てて本を閉じる。
「戯言はやめて。あたしらはこの世界の悪を破壊する者、グラッド・ブレイカーとして選ばれたの。それはあんたが1番良く分かってる筈でしょ?」
セイトはハッ!と大きく笑うとゆっくり立ち上がり、両手を広げて天井を仰ぎ見る。
「俺は見てぇんだワ…この国が、世界が!!俺らの手で壊れていく姿を!!!!」
そんなセイトの体からは禍々しいドロドロとした魔力を感じた。危険だと感じたルーティとカインは咄嗟に立ち上がり間合いを取る。そしてセイトには聞こえないよう、カインはルーティに指示を出す。
「ここは俺に任せて、お前はすぐ本部に連絡してくれ。こいつは洒落にならねぇぞ…!」
「分かった…!くれぐれも死なないように、これだけは言っとくよ。」
それだけ交わすとルーティは一瞬にして姿を消す。セイトに向き直り、大きく息を吸う。
「セイト、ここ最近のお前の戯言には反吐が出る。耳障りだ。今すぐ消えろ。」
静かに、しかし力強くそう言うカインをセイトは目を見開いて睨みつける。
「…貴様…何様ノツモリダ…?」
突如セイトの体からは黒い霧が溢れ出す。咄嗟に剣を抜き構えるカインは自分の額に冷や汗が滲むのを感じる。
「調子ニ乗ルナ、ヨォ!!!」
セイトの体から放たれた黒い刃。辛うじて致命傷は避ける事が出来たが、強烈な痛みが全身を駆け抜ける。黒い刃はカインの身体中に刺さるとすぐに闇の霧になり、カインの体に流れ込む。その痛みや気持ち悪さに堪らず呻き声があがる。セイトは膝を付いて肩で息をするカインの喉に剣を突き立てると、冷たい声で言う。
「モウ一度問ウ。私ト共ニ来ルカ。」
喉元で光る剣を思い切り掴み、カインはセイトを睨みつける。
「お断りだ!!!」
血が滴り落ちるのも構わず、剣を掴む手に力を込める。セイトは掴まれた剣を思い切り振り上げた。咄嗟に手を離し、振り上げられた剣を追う。瞬間、鈍い音とともに激痛が走る。
「ぐ…あ…っ…!!」
呻き声と共に右目からは血が滴り落ちていた。