cord.37 救われた者
泣き叫ぶ少年にレイルは静かに歩み寄る。炎に包まれる中、レイルは止まらなかった。
「大丈夫だ。私はお前の敵ではない。」
そう言って、優しく、優しく抱きしめたのだ。そのレイルの手や肩…少年に触れた部分からは小さくジュワッという音が鳴る。痛みに耐え、レイルは優しく話しかけ続けた。暫くして、魔力の放出が止まる。レイルは息を整えるとまた優しく話しかける。
「…無理に話せとは言わない。私はレイル・ロンドだ。お前の敵ではない。」
「……お…れ……。」
そのまま少年は気を失った。痛む身体で少年を寝かせ、レイルも部屋の隅に横になった。
「…ル……レイル……。」
声が聞こえ、レイルは目を覚ます。少年は部屋の隅で小さく丸まっていた。何かを言おうと、しかし言い出せないような素振りを見せる少年に体を起こしたレイルは言う。
「…言ってみろ。それでなければ何も始まらんだろう?」
そんなレイルの言葉に少年は恐る恐る口を開いた。
「俺…殺した…殺したんだ…母さんを、父さんを…街の、みんなを…!街で、俺のこと、火竜って…怖がられて…!この力のせいで、嫌われて!それで!それで!!………気が付いたら……殺してた…みんな、みんな横になって、動かなくて、血が、溢れてて…!怖くて!!!それで!逃げて、逃げて!!!気が付いた時には…ここで…!!」
そんな少年を抱き締めてレイルが言う。
「私は望んでこの手で親を殺したよ。その事実を改めて冷静になって知った時は恐怖した。親を殺して気持ちが良かったなんて、どうかしている。私は悪くない。悪いのは全て…………そう……今までずっと、現実から目を背けていた。しかし今やっと気が付いた。私は弱い。強い力に身を任せ親を殺した。私もお前と同じだ。それにな、ピッタリではないか、火竜という名。お前によく似合う。」
そんなレイルの言葉に、少年は涙を流した。
「…そんな…嘘………!」
「嘘などついても無駄だろう…?」
泣き噦る少年の頭を、レイルが優しく撫でる。
「辛かったな。」
「俺!俺…!怖くて!!苦しくて!!!俺…!!」
そんな少年にレイルが聞く。
「そう言えばまだだったな、お前の名前。」
「…!!リオン……!アルディック…!!!」
涙で濡れたその顔に笑顔が浮かぶのを、レイルはその時初めて目にした。
それから1年近い月日が経ち、エレメンツを決める大会が行われた。レイルとリオンはそれに参加し、その時エレメンツに選ばれたのだった。
「この際だ、リオン、話しておこう。これを聞いて、この先どうするかを決めるといい。」
「…あ…??」
大樹の側の小さな村アルバ、そこの家でレイルが真剣な表情で口を開いた。
「以前私は父親を殺したと言ったな。父を恨んでいたのは事実であったが、殺すに至ったのは奴に力を貸してしまったからなのだ。」
「…分かりやすく言えよ。」
「古代大魔法使い、ウェスト・ロン・エリヴィンが生み出したとされる悪魔。それを私が呼び覚ました。そして自分で呼び覚ました悪魔に乗っ取られ、父を殺した。それから悪魔達は世界で問題を起こした。数々の事件を知っているだろう?勿論、リオンの街のことも悪魔の所為にされているしな。」
「…おう、そりゃ分かった。悪魔起こして、そいつに乗っ取られて親殺したんだろ?で?」
「…私は後悔をしているのだ。私が呼び覚してしまった所為で、混乱を招いた。あってはならないことをしたのだ。あの時の弱さが…!」
そう言って歯をくいしばるレイルに、リオンは大きなため息をついてみせた。
「…で?てめぇはどうしてぇ。後悔なんてしてたって変わんねぇ。そりゃ分かってんだろ?それに何でてめぇが悪い事になんだよ。その時、てめぇが、たまたま、悪魔とやらを起こしただけだろ?」」
「……この罪は消えることは無い、無いんだ……!」
リオンは立ち上がりレイルの目の前に立つ。
「作れるって事は消す事も出来んじゃねぇのかよ。何でそういう考えが出来ねぇ。何でお前は立ち止まって振り返って後悔してんだ!後悔なんてしたって何も変わんねぇだろ!?てめぇがやるべきなのは!反省じゃねぇのか!立ち止まる暇があんなら進めよ!!!」
そんなリオンの言葉にレイルは涙を流した。そしてハッキリとリオンの目を見て告げた。
「リオン、ありがとう。目が覚めた。私の罪は消える事はない。大勢の人間に恨まれるだろう。しかし…それを受け入れて進む。これから私に出来ることを…探す。これからを。その為に、協力してほしい、リオン。」
「ケッ!今更遅ぇんだよ…!頼まれるまでもねぇ!」
リオンは両手を腰に当て、堂々とそう告げた。
「この旅で得たものは多い。それで…少しでも良い方に変われば良いのだがな。」
そうやって笑ってみせるレイル。リオンはそんなレイルの前まで近寄ると、レイルの胸に拳を当てる。
「俺は悩んでも良いなんて甘ぇ事は言わねぇ。辛くても苦しくても何があっても進め。そうすりゃそれを見てる奴らが手を貸してくれるはずだろ。それでも苦しいなら………一緒に進みゃ良い話だ。てめぇには俺がいる。俺は街に戻るけど、てめぇと縁を切るつもりはこれっぽっちもねぇんだよ。だから、何があっても進め。進む事を諦めんな。」
リオンの言葉にレイルは深く頷いた。
「そう、だな。本当にお前は…普段は子供のくせにこう言う時は私に言えない事を言ってくれる。どれ程救われているか、分からないだろう?」
その問いかけにリオンはケッ!と笑って見せる。そしてレイルの胸に当てた拳をもう一度レイルに押しやる。
「んなの分かりたくもねぇよ!!ばーか!」
光輝く青空の下、皆が意思を固め新たな一歩を踏み出す事を決意したのだった。