cord.33 カウントダウン
倒れ込む5人の元へ足音が近づいてくる。しかし今の5人にそれに対応する力など残っていなかった。その足音は5人の前で足を止める。
「みんな大丈夫!?」
「まぁ、どう見ても大丈夫そうには見えないけどな。」
聞き覚えのある声にジークはゆっくりと目を開ける。
「…大したもんだね、ジーク。」
そう言って笑いかけるルーティに、ジークは小さく笑ってみせた。
「今から貴様らを崖の上まで移動させる。その間で身体がバラバラにならないだけの魔力は分けてやる。」
そう言うと2人は横たわる5人の胸に手を当てていく。流れ込む魔力を感じ、ほんの少しだけ息をするのが楽になるのを感じる。と思った瞬間、目の前がぐにゃりと歪み、気が付いたら見覚えのある風景の元へ辿り着いている。
「よくやってくれたね、諸君。本当に、なんと言ったらいいか…!」
「貴殿らのその努力、しかと受け止めましたぞ。」
王のその言葉はジークの頭に届いてはいなかった。そして来た時の戦艦に乗せられると皆の意識は途絶えた。
「えぇ、私達はもう。ご迷惑お掛けしましたね。」
「勘違いするな、心配などしていない。俺達には貴様らの事を報告する義務があるからだ。」
「とか何とか言ってるけど、実は結構気に掛けてるんだよ。だからあまり気にしないで?」
あれから2週間、エレメンツは皆全回復していた。しかしジークは中々目を覚まさなかった。カインは目を覚まさないジークに段々苛立ちを感じていた。そんな時、セフィラの屋敷の玄関前で話していた3人にも届く大きな声が響き渡った。その声の主はミトであり、ハッキリとジークと叫んでいた。セフィラはカインとルーティをジークの眠る部屋へと案内した。
部屋には既にリオンとレイルも居た。ミトがセフィラを見るなり駆け寄る。
「さっき、ようやくジークが!魔力も安定しているし!」
そんなミトの言葉を聞かずにカインはズカズカと部屋へ踏み入る。そしてジークの隣に立つと冷たく言い放つ。
「やっと起きたか、屑。随分と寝て居たようだな。さっさと起きろ、お前の為に時間を割ける程、俺にはもう余裕はないんだ。」
「ま、待って!!ようやく目を覚ましたのです!今そんなに身体に負荷をかけては…!それに、余裕がないとは…!」
セフィラが制止するのも聞かず、ジークはゆっくりと布団から出る。もうドロドロとした気持ち悪さは感じない。ジークはセフィラに大丈夫だと言ってウインクしてみせると、すぐに表情を引き締めた。その様子にカインは小さく鼻を鳴らす。そして7人はコリエンテの北に広がる草原へ向かった。
「さぁ、貴様のご自慢のトゥルエノスヴェートでも召喚したらどうだ。」
「言われなくても…!召喚魔法…!雷光の双剣ートゥルエノスヴェート!」
手の内が光り、音を立てずに双剣が姿を現わす。それを見るとカインは静かに手を前に出す。
「黒闇の神剣ーゾークルーセント。」
瞬間カインの手は闇に包まれる。その闇が段々と剣の形を成していく。そして禍々しい形の剣が姿を現した。その剣の周りにはドロドロとした魔力が感じられる。それに気がついた皆が驚きを露わにする。
「お前…その魔力……!」
そのジークの言葉も聞かずカインが攻撃を仕掛ける。大きな剣を片手で軽々と振り回す。それをジークが全て双剣で受け止めると、カインは舌打ちをした。
「貴様…!何故攻撃して来ない…!」
「そりゃ…!決まってるだろ…!お前の攻撃、を、受け止めるので…!精一杯、だからだ…よっ!」
カインの攻撃を弾いたジークが今度は斬りかかる。双剣の攻撃をカインは見事に躱す。一瞬の隙をついて間合いを取るとカインは剣を上から下へ思い切り振り下ろした。ジークはまたもそれを双剣で受け止める。直後、カインはニヤリと笑うと剣を手放しジークの腹へ一撃、蹴りを食らわせた。ジークはその勢いで後方へ吹き飛ばされる。そんなジークを、神剣を手に取りながら追いかける。何とか態勢を整えたジークは前に居るはずのカインを捉える為顔を上げる。
「終わりだ。意外と早かったな。もっと楽しませてくれると思っていたが…残念だ。」
背後から神剣を首元に当てられ、ジークは身動きが取れなくなる。歯を食いしばり、目を瞑る。
「死っ……ガハッ!!ゴホッ!!」
突如カインは持っていたゾークルーセントを落とし、咳き込みだす。ジークはすぐさま間合いを取るとカインを見つめる。鼓動が早まるのを感じ、カインは目をギュッと瞑る。
ーまだ、まだだ!!治れ!治れ!!!ー
歯を食いしばり胸を押さえる手に力がこもる。
「カイン…!と、止めなくていいのですか…!」
「うん、止めちゃダメだよ。あいつの為にも。」
カインは暫くすると口元を拭い、フラフラと立ち上がった。そして足元のゾークルーセントを拾い上げると、何事もなかったかのように剣を構え直す。
「まだ…終わっていない!」
「はっ!そうかよ!けど…俺だってやられっぱなしは趣味じゃねぇ!」
ジークは自分の足元にトゥルエノスヴェートの片方を突き刺すとカインの後方へ回る。そしてもう片方も地面に突き刺した。それと同時に地面からは無数の光の刃が突き出してくる。避けきれなかったカインの左足には光の刃が刺さる。小さな呻き声をあげたがカインはすぐに剣を構え直す。
「全てを飲み込め…!邪光乱神!!」
一瞬光ったその場はすぐに闇に包まれる。感じた事のある気持ち悪い魔力にジークは叫び声をあげる。暗闇が段々と明るくなり視界が晴れる。ジークは膝をつき、肩で息をする。
ー何だ…今の技は!くそ!もう一度食らうのだけは避けたい!あんな魔力、もううんざりだ!ー
汗を拭いカイン睨む。するとカインは立った状態で動かない。瞬間、カインの口の端から血が流れ出た。
「カイン…!?」
ジークの呼びかけにカインはバッと口を押さえる。
「く…そ!くそ!くそ!!」
片手で口を、片手で胸を押さえるカイン。そんなカインにジークは歩み寄った。
「来るな…!ジーク…!勝負は、まだ終わっていない…!」
そんな言葉を無視し、ジークはカインの目の前に手を翳す。
「閃光魔法…!」
そして辺りは光に包まれた。カインは光が晴れるのと同時に膝から崩れ出す。その瞬間、セフィラが駆け出した。それにつられて周りで見ていたレイルとリオン、それにルーティも。
「こうなるとは思っていたけど!急いで!呪いを解除するよ!」
ルーティの言葉にセフィラは頷き、横たわるカインの身体に手を翳して魔力を送る。リオンは力ずくでカインが持っていたゾークルーセントを奪い取った。
「貴様…ら…!余計な、事を…!」
「お願い!死んでもいいなんて考えないで!!」
そんなセフィラの言葉に、カインは一瞬目を見開いた。