cord.32 決戦!
「ジーク!!!!」
ミトが泣き崩れるジークの元へ駆け寄る。ミトでさえ、ジークが泣いている姿を見るのは初めてだった。
ーフレインはもう居ない。やっと会えたのに。また生きて会えたのに。あの時俺が気が付いていれば、フレインは連れて行かれずに、家を焼かれずに済んだのか?ごめん、ごめんなフレイン!ー
そこへ3人も歩み寄る。残りの少数の兵士をリオンが殺しながら、ジークの様子を伺う。
「…ジーク…。」
「早くしねぇとまた奴らが来るぜ??」
ジークは座り込んだまま4人に問いかけた。
「みんなは、知っていたのか、フレインの事を。」
「…カインから聞いた。黙っていたのは、俺がジークに言わないよう口止めをしていたからだよ。恨むなら俺を恨んでくれて構わない。」
ミトが静かに言うのを聞くとジークはゆっくりと立ち上がった。
「…ジーク、無理をする必要はない。ここに残っても誰も咎めはしないのだぞ。」
「えぇ…その通りです。ここに残りますか?」
そんなレイルとセフィラの問いかけにジークは首を振る。
ー俺はもう、1人じゃない。みんながいるー
「いや…行く…ここで…立ち止まるわけにはいかないんだ…!絶対に…アルコンを許さない!!!」
ジークの言葉に皆は頷く。そして目の前の重い大きな扉をゆっくりと開くのだった。
部屋の窓はカーテンで覆われ薄暗い。その部屋の奥に大きな1つの椅子がある。そこに座る人物。
「アルコン!!!!」
扉を開けるなりジークが斬りかかった。その瞬間、何かの力によって弾かれ、扉付近まで飛ばされる。それをミトが支えると目を細めて奥を見る。そんな時、男の笑い声が響いた。それと同時に男の影はみるみる大きくなり、部屋の天井を突き破った。
「これが…!こいつの真の姿か!!」
アルコンは、手に握っていて共に大きくなった剣を振り回す。アルコンが辺り構わず攻撃するのを5人はギリギリで避ける。ある一撃で床が抜け、アルコン諸共一階へと落ちて行く。土煙が上がり視界が悪い中、尚もアルコンは攻撃を続ける。なんとか着地した5人はそれをギリギリでかわしていた。
「こりゃ何にも見えねぇぞ…!俺は鼻がきくから分かっけど…!うおっ!!っぶねぇなくそ!」
「これでは手が出せん…!」
そんな時、ミトの突風魔法によって土煙が拐われて行く。瞬間アルコンの持つ剣がジーク目掛けて振り下ろされた。迫り来る大剣にジークは目を見開く。
「ジーク!」
そばにいたミトが咄嗟にジークを突き飛ばす。倒れ込んだジークは慌ててミトを捉える。ミトの深い緑の長髪が切られ、足元に束になって落ちていた。
「ミト!無事か!!」
「あぁ、俺は大丈夫。けど…願掛け、だったんだけど…切られたからには勝たせてもらわないと、だね。」
そう言ったミトの周りに風が集まる。そしてミトが駆け出した。それに続いてリオンも飛び出す。遅れてジークも飛び出した。少し離れたところからセフィラは3人のサポートを、レイルは敵の攻撃に合わせて地面を操り、3人に攻撃が当たらないようにしていた。
「チッ!キリがねぇぞこりゃ!!いっちょやっか!!行くぜ!燃え尽くせ!炎上邪火!!!」
リオンの掛け声とともに足元に現れた黒い炎がアルコン目掛けて広がって行く。その炎は龍のように動き回るとアルコンの身体を覆い尽くす。がそれも束の間、アルコンの笑い声とともに炎が弾かれた。
「くっ…!これなら…!空を割け!空刃乱舞!!」
ミトが全身に風を纏いアルコンの体の周りを飛び回りながら短剣を振るう。一振りするとたちまち無数の空気の刃がアルコンに襲いかかる。それに続いてレイルも叫ぶ。
「全てを我が物に!地殻重圧!!」
レイルが手を動かすのと同時に地面も動き出す。そしてアルコンの動きを押さえると土でアルコンを包む。そのままレイルは両手をパンと合わせた。その瞬間アルコンを包む土の塊が潰れて行く。
「静寂の輝きを放て…!水氷極光!」
土がアルコンによって弾き飛ばされるのと同時に、セフィラの技によりアルコンの真上から光り輝く水の球が落ちる。それとともに飛ばされた土も動きを止めた。勿論、アルコンの動きも止まっている。正確には、水の球に呑まれ動きがゆっくりになっている。その時、4人から今だと叫ぶ声が聞こえる。ジークは最後の力を振り絞り飛び上がる。
「みんなの意志を乗せてここに!!駆けろ刃よ!雷光…!瞬連斬!!!!」
ジークの双剣、トゥルエノスヴェートが目にも留まらぬ速さで振るわれる。その直後アルコンの叫び声が響き、5人が弾き飛ばされる。
「ぐあぁ!く…!まだ…やれないのか…!!」
これまで長い間戦闘を繰り返し、皆の魔力は限界まで減っていた。吹き飛ばされた衝撃で皆はそれぞれ呻き声をあげる。瓦礫の山を押し退けジークが這い上がった。その目の前にはアルコンが立っている。振り下ろされる大剣をギリギリで躱すとそのまま瓦礫の山に突っ込んで行く。その時ミトの声が聞こえ、ジークが勢いよく瓦礫を退かすと、目の前には身体を絞めつけられているミトの姿があった。瞬間、ジークの周りを包む魔力が変わった。
「ミトを…離せェぇぇェ!!!」
ジークの赤みがかった目が鋭く光ると勢いよく瓦礫の山を飛び出した。
「な…んだよあの魔力…!」
「く…!私達も…すぐにミトを助けねば…!!」
「ジーク!いけません!!その魔力は!!!」
ボロボロの3人がそれぞれ口にする。
「ジーク!そのままでは!悪魔の魔力に!!」
ジークは体に残る悪魔の魔力を操っていたのだ。ジークの身体からは微かにドロドロとした黒い魔力が溢れている。
「ジ…ク…やめ…ろ…!」
その様子を見たミトが声を振り絞る。が、その声はジークには届いていなかった。尚も駆け抜け、トゥルエノスヴェートでアルコンの身体を切り刻む。
「うおォおォ!!!!」
閉じた右目が光る。そして切り刻まれたアルコンは段々と肉を削がれていった。その身体にはもう力が入らないようで、ミトの身体を掴む手からも力が失われる。その瞬間、ジークの一太刀によってアルコンの太い腕が斬り落とされた。それをレイルが受け止める。ミトを助け出したジークは止まる事なくアルコンの肉を削ぐ。遂に右足、そしてもう一方の腕も斬り落とされた。アルコンが倒れ込むのを軽々と躱すと追い討ちをかける。
「許サねぇ…!許さネェぇ!!」
血が飛び散りアルコンの大きな頭が空中へと投げ出される。その頭を追い、ジークは勢いよく飛び上がった。そしてー…。
血の雨が降り注ぎ、肉の塊と共にジークが空から落ちてくる。レイルが地面を操り何とか受け止める。しかしジークの状態はギリギリであった。魔力が他の誰よりも極端に少なくなっている。ジークは乱れた息を必死に整えようとする。が、深く息が出来ずに上手く整えることが出来ない。
「や…たぞ……!」
「あぁ!あぁ!!ジーク!!だからもう喋るな!」
「急いで治療しなければ…!今私の治癒魔法が使えれば…!」
「しゃーねぇだろ…!俺らも、限界なんだ…!」
「とにかく急いで引き返すぞ…!奴らに今襲われたら、最悪だ…!」
そして何とか城から脱出した5人はその場で倒れ込んだ。目を開くとどこまでも青い空が広がっている。
ー俺達は勝ったんだー
ジークは拳を高く、高く突き上げた。