cord.2 それぞれの想い
声の主は前髪の間から覗く独眼でジークを睨むと屋上から飛び降り、ソキウスの後ろに立つ。
「こいつを俺に寄越せ。用が済んだらこっちで始末する。」
ジークはその突然の言葉に目を見開く。確かに殺し屋の仕事は対象者を殺す事。ようは殺してしまえばいい話だが、ジークにも殺し屋としての責任がある。殺し屋であるミトがとどめを刺すのと訳が違う。
「…無関係な奴が仕事の邪魔をすんなよ。こっちは仕事なんだ、私情じゃない。」
剣を振り上げたまま、その男、カイン・リートを見て静かに言う。
「融通の利かない奴だな貴様は。少し貸せと言っているだけだ。」
小さくため息をつくカイン。この男は面倒なのだ。グラッド・ブレイカーの1人であるこの男は物事を力で捻じ伏せよう言う事を聞かせよう、そういう雰囲気が溢れ出ている。ジークがグラッド・ブレイカーになってから何度も意見の違いから対立してきた。また、カインはジークを良く思っていなく何度も理不尽な物言いをされ、ジーク自身もなるべく関わり合いたくない人物だった。ジークは小さく舌打ちをすると剣をゆっくりと降ろす。
「ククッ…!そんな事させるかよ!!あばよ!!!!」
突如目の前にいた男、ソキウスが大声を出す。その顔にはあの不気味な笑顔が張り付いていた。
「ジーク!逃げろ!!」
少し後ろで見ていたミトが叫ぶのと同時に目の前のソキウスは爆発した。その爆発に巻き込まれてジークは自分が吹き飛ばされている事を感じる。もう少しバリアを張るのが遅かったら跡形もなく消えていたな、と冷静に考えるだけの余裕はあるようだった。
体に衝撃が走り、鼻先まで感じていた熱も次第に引いていく。痛む体を起こすとソキウスの姿はなかった。ジーク同様ソキウスの近くにいたカインも吹き飛ばされ、咳き込みながら瓦礫の山から立ち上がるのが確認出来る。
「ジーク!大丈夫か!?まさか、自爆するなんて…!」
ミトはジーク駆け寄ると立ち上がろうとするジークに肩を貸し、ソキウスが居た場所を見つめる。そこには何かが焼けた跡があるだけだった。
「何とか助かったぜ…サンキュな、ミト。それにしても…。」
笑顔でミトに礼を告げるとカインを向き直る。服に付いた埃を払い落とし、カインもまたジークを睨む。
「何故貴様はいつもいつも俺の邪魔をする!!」
怒りが入り混じる声でカインが叫ぶ。思い当たる事のないジークは困ったように頭を掻く。
「それはこっちの台詞だ!俺は、俺達は仕事だ!!殺し屋として仕事を任され、それに従い動いている!いつも邪魔をするのはお前じゃないか、カイン!!!」
その言葉を受けカインは一瞬目を見開き、歯を食いしばりながら下を向く。
「貴様が何もかもを壊したくせに…っ…!」
その声はジークには届いていないようだった。そしてジークを睨んで続ける。
「人の居場所を奪ってのうのうと生きる貴様に何が分かる!!殺してやる!貴様の大事にするもの全て!!!覚えていろ!!」
そう叫んだカインは一瞬にして姿を消した。辺りを包む炎の音だけが耳に焼き付いていた。
大きな音を立てて乱暴に扉を開く。カインは現在自分とグラッド・ブレイカーの1人、ルーティ・ヴァーナスが拠点にしている建物の一部屋に入ると何も言わずソファーに腰を掛ける。
「…その顔を見れば、聞くまでもないね。」
カインの座った向かいのソファーで読書をしていたルーティは静かに言った。
「ねぇ、もうやめない?ジークが全て悪いわけじゃない事はあんたが1番分かってる筈でしょ?それにあいつ…セイトだってこんな事求めてるはずない。」
読んでいた分厚い本を机に置くと真っ直ぐにカインを見つめる。その真っ直ぐな眼差しは、全てを見透かされているようで昔から苦手だった。目を逸らすとカインは小さく言った。
「あいつはジークに殺された。」