cord.28 再会
迫り来る兵士達を薙ぎ払いながらジーク達5人は城の廊下を駆け抜ける。セフィラは兵士達の死体をギュッと目を瞑り見ないようにする。それでもセフィラは足を止めなかった。その様子に気が付いたミトがジークの隣を離れ、セフィラの隣に駆け寄る。
「セラ、大丈夫か!?…戻るか?」
そんなミトと言葉にセフィラは力強く首を横に振る。ミトは優しく続けた。
「じゃあ…分かるよね?」
セフィラは悲しげな表情で小さく頷いた。リオンがジークの先で兵士を真っ二つに切りながら叫ぶ。
「セフィラァ!!てめぇの言いてぇ事は分からねぇでもねぇ!!けどなぁ!!」
「ここで迷えば命取りだ。それに…皆の死を無駄にする様な真似だけは、したくないだろう?」
セフィラの後ろからリオンの言葉を遮る様にレイルが言った。そう言ってセフィラの頭を優しく叩くと、リオンの元へと駆けて行く。叩かれた頭に手を当てセフィラが立ち止まる。ミトもセフィラと共に立ち止まった。声をかけようとしたその時、セフィラの光る空色の瞳を見るとミトは小さく笑い、ジークの元へ走り出す。
「……そうですよね。えぇ…えぇ…!」
セフィラもミトの後に続いた。
ジークは右目をグイと抑えると剣を構え直す。先を行くリオンの背後に現れた敵に斬りかかる。
「くそ!どれだけいるんだ!!きりがねぇ!」
あまりの兵士達の多さにジークはつい苛立ちを口にする。口にしても何も変わらない、それは分かっているが手の届く距離に復讐の相手がいるのを分かっていながら先へ進めない事に、もどかしさを感じていた。兵士2人と対峙するリオンの脇を抜け、廊下を走る。右へと曲がる廊下。ジークはその曲がり角で足を止めた。感じるのだ、大きな魔力を。そうだ、知っている、この魔力はあの時コリエンテへ襲撃に来た鎧の男だ。ジークは直ぐに気が付いた。その魔力に冷や汗が滲む。唾を飲み込み、目を閉じて大きく深呼吸をする。チラ、と顔を覗かせると大きな扉の前には怠そうに立っている1人の鎧の男が居る。その鎧の男が下を向いた瞬間、ジークは飛び出した。それと同時に、鋭い音が廊下を響き渡る。廊下の角に立ち止まったミトが目を見開く。
「そこを、どけぇ!!」
思い切り斬りかかったジークの剣を片手で持った剣で受け止める鎧の男。そんな男の口の端が上がるのが、兜の奥にうっすらと見えた。
「やっぱり、来たねジーク。」
その声を聞いたジークは固まる。そして急いで剣を弾き間合いを取る。そんなジークの後ろでミトがジークの名を叫ぶ。
「待てジーク!みんながまだだ!今ここで戦うのは!」
「…ミト、これは………俺が、やらないといけないみたいだ…。」
そう小さく呟いたジークの声は少し震えてる様だった。鎧の男は剣を足元に落とすと兜をゆっくりと脱ぐ。
「…生きて………いたのか…!」
頭を振り、髪の毛を整える。
「久しぶり、ジーク。」
「フレイン!!!」
ジークは友の名を叫ぶ。間違う筈もなかった。顔の傷を除けば何も変わらない。変わってはいないのだ。
「か、顔の、傷、どうしたんだよ…。」
顔に痛々しく残る傷。そのせいでフレインの目は見えていない。
「あぁ…これね、酷いもんでしょ?でも大丈夫、魔力で直ぐに分かるよ。後ろにいるミト・シェイムの事だってね。」
フレインはそう言って足元の剣を足で弾き、手に取る。
「…て…き、なんだよな。その鎧を、着ているって事は…。」
震える声で言うジークに対してフレインは小さく笑うと頷いた。
ーあぁ、これは、夢じゃないんだー
ジークの胸の中にそんな言葉がストンと落ちた。目を思い切り瞑り、剣を握る手に力が入る。噛み締めた唇には血が滲む。
「…んでだよ………くそ!!フレイン!お願いだ!通してくれ!!お前と戦いたくないんだよ!!分かるだろ!?」
必死に絞り出したその言葉は廊下に響いて消えていく。フレインは悲しげな表情で首を横に振る。そして剣を構える。
「ごめんね、それは出来ない。…行くよ、ジーク。」
瞬間、目にも留まらぬ速さでフレインが斬りかかる。何とかその一振りに対応するが、鈍い音を立ててジークの剣が2つに折れる。その状況にジークは目を瞑り、折れた剣を投げる。深く深呼吸をすると目を開いた。その目にはもう、迷いはなかった。
「……トゥルエノスヴェートよ、我が主人の声を聞け。召喚魔法…!雷光の双剣ートゥルエノスヴェート!」
かつて封印されていた古の武器の1つ、双剣を召喚するとジークは目を開く。
「ヒュウ…トゥルエノスヴェートかぁ!そう言えば発見されたと聞いていたなぁ。」
そんな軽口を叩くフレインに、ジークは双剣を構える。そこに追いついた3人と兵士達。
「…あぁもう!いつもいつも!ジーク!終わったら何か奢れよな!」
ミトはそう叫ぶと迫り来る兵士達を向く。
「ラファガストよ、我が主人の声を聞け。召喚魔法、烈風の短剣ーラファガスト!」
ミトは両手を合わせ、ゆっくりとその手を離して行く。それと共に短剣が姿を現わした。その様子を見た3人は頷く。リオンが大剣に炎を纏わせ、敵陣へ投げる。兵士達の悲鳴が聞こえる中、リオンは手を上へ掲げる。
「デフェールノヴァ!俺の声を聞け!召喚魔法!煉獄の大剣ーデフェールノヴァ!!!」
炎が渦巻きその手にズシ、と大剣の重みがかかる。それを大きく振るうと炎が燃え広がり兵士達を焼いていく。レイルがセフィラの後ろに迫る兵士の兜に大鎌を投げる。
「ウィルダネスよ、我が主人の声を聞け。乾坤の斧ーウィルダネス!」
足を開いたレイルの足元が光る。そして地面からゆっくり、ゆっくりと斧が出て来る。それに続いてセフィラが胸の前で手を組む。
「…フィンブルヴァッサーよ、私の声を聞きなさい。泡沫のロッドーフィンブルヴァッサー…!」
組んだ手が光るとその手の中からロッドが現れる。それを床に付くと床が波打ち兵士達がふらつく。そして4人は迫り来る兵士達に向かって行く。ミトが身体に風を纏わせクルクルと回転しながら飛び上がる。そして軽々と兵士の後ろへ回ると首を切り落とす。リオンが大剣を銃のように構え火の玉を飛ばす。逃げ惑う兵士達を、レイルが重力を操り押さえつける。セフィラがロッドを振るうとたちまち兵士達は泡を吹いて白目をむいて力尽きる。その様子にセフィラは小さく謝るのだった。
「流石、エレメンツはみんなこの武器を代々受け継がれて行くんだもんね。いやぁ恐ろしい。」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ…!」
ジークが双剣を構え一瞬でフレインを斬りかかる。なおも声色を変えずにフレインは続ける。
「はは…ジーク…失敗したねぇ…?」
その瞬間ジークは吹き飛ばされ、廊下の壁へ叩きつけられる。その衝撃に堪らず呻き声が漏れる。そしてフレインは一瞬にしてジークの元へ近寄り、反対の方へ投げ飛ばす。何とか受け身を取り、体勢を整えるジークにフレインはゆっくりと歩み寄る。フレインの体からはドス黒い魔力が溢れ出す。ジークは直ぐに間合いを取ろうとした、が足が動かない。ビクともしないのだ。
「…1つ、僕と一対一で勝負をした事。2つ、僕の目の前で古の武器を召喚してしまった事。」