cord.27 決戦の合図
その場にいた皆が立ち尽くし口を開ける。ただ1人、ジークを除いて。剣を足元に落とし膝をついたジークに、ミトが駆け寄る。
「ジーク…!しっかりしろ!戻って来いジーク!!」
ジークの肩に手をかけ必死に叫ぶ。ジークは右目を押さえて痛みに耐える。その様子にレイル、リオン、セフィラも恐る恐る歩み寄る。そんな時、ジークの笑う声が聞こえ、その場が緊張に包まれる。
「…はは…!戻って……来た、ぞ…!」
そんなジークの言葉を聞くとミトはそのままジークに抱きつく。3人も笑みを浮かべ早足で歩み寄った。
「良かった…!本当に…!」
「悪かったな…みんな。もう、大丈夫だ…!」
ミトの頭をポンポンと叩いて3人に笑ってみせる。その右目からは今も血が流れる。
「最初に、この右目を通して悪魔と繋がったろ…?だから、その右目を、潰してしまえば…何とかなるかもって…!これで悪魔が怯んでくれて、助かった…!」
その言葉を聞いたミトが静かにジークから離れると、ジークの襟を掴む。その突然の行動にジークは目を丸くする。
「だからって…!!どうしていつもいつも考えなしなんだ!!それで助かる保証はなかったろ!?何とかなったから良かったものの…!!」
「何とかなった、だろ…?」
血を拭いながらジークが笑ってみせる。ミトは小さくため息をつくと降参だと両手を上げた。セフィラはそんなジークの右目に手を翳し傷を癒した。その暖かさにジークは目を閉じた。
「……みんな、悪かったな。」
そう言って目を開けると4人は立ち上がりジークの方を向く。ジークもそれに続いてゆっくりと立ち上がり、仲間の元へと歩きながらまた目を閉じて小さく笑う。そして崖の端に並ぶ。まだ少し痛む右目をぐいと押さえると目の前に広がる戦場を見渡す。大きく息を吸い込み、震える手をぐっと握り締め天を仰ぐ。
「…俺達はディクタティアを…アルコン・ディクタティアをぶっ殺す。それは何があっても変わらない。」
そしてジークは崖から飛び降りた。そしてクル、と崖の上の4人に向き直ると拳を突き上げて真剣な表情で言う。
「さぁ行くぞ!!城に…乗り込むんだ!!!」
その掛け声と共に4人も飛び降りる。一足先にジークが静かに着地する。
「しゃあ!!やってやんぜぇ!!!」
リオンは笑いながら大剣に炎を纏わす。そのまま身体中に炎を纏わせ見事に着地した。それに続いてミトがクルクルと身体を回転させ風を巻き起こし着地した。
「あまり調子に乗るなよ、リオン。」
レイルは地面を操り足場を作る。そしてリオンの隣に小さな音を立てて着地する。最後にセフィラが足元に水の球を出してゆっくりと着地した。セフィラの着地と同時にその水の球は弾けて消えて行く。ミトが体に付いた土埃を払いながらジークの元へ歩み寄る。
「ジーク、行こう。」
戦争時という事もあり、城の門は固く閉ざされている。どうする、とレイルが小さく言うのに対し、リオンがケッと笑う。
「んなの決まってる…! ぶっ壊すっ!!!」
リオンの緋色の瞳がぎらりと黄金色に光る。そして手に炎を纏わせた。
「火炎魔法!!!」
そしてリオンが大きく振りかぶり引っ掻くように腕を振るう。それに伴い手に纏わせていた炎が扉に飛んで行く。扉に鉤爪の後を残した瞬間爆発を起こす。その衝撃に皆が目を閉じ耳を塞ぐ。熱風が収まり目を開くと壊れた扉の残骸と燃え広がる炎が残っていた。そして城の中からは警報が鳴り響く。その様子にレイルは頭を抱えてため息をつく。ミトとセフィラが目を見開き呆気に取られている中、ジークが笑う。
「ったく…流石だなリオン!行くぞみんな!!!」
ジークの掛け声と共に4人が続き城へと足を踏み入れた。
「……これは酷いな。」
崖に到着したカインとセフィラは眼前の光景に唖然とする。
「僕らも驚きだ。大損害だよ。ディクタティアはそれも厭わないようだけれどね。」
「わしらは先刻軍に撤退を命じたのですよ。しかしその直後ディクタティアが自軍諸共…。」
チャカとウラノスの王が気まずそうに静かに言う。
「それでも僕らには見届ける義務がある。…姫のように僕らにも戦える力があればね。」
「そうは言いましても、わしらは戦う為に王になったのではないですからな…。」
静かに城を眺めて2人は続けた。その瞳は悲しみに満ちている。ルーティは2人の側に歩み寄った。
「これより貴方方の命はあたし達の命に代えても守る。それが唯一あたし達に出来る事だからね。」
そんなルーティの言葉に崖の端に立つカインがルーティを向いて頷く。城の方から爆発音が聞こえチラ、と城に背を向けたまま静かに見る。
「奴らが城へ入ったようだな。」
カインの言葉にルーティは頷いて術式を展開させた。この術式によってジーク達5人の動きが全て読み取れる。高い魔力反応が写れば直ちにバリアを張り王を守る。ジーク達5人の魔力反応が薄れれば、直ちに1人が城へ向かい救出する。カインとルーティが動かなくて済むのが最善ではあったが。術式のピピっという音が鳴る中、城の警報が鳴り響くのが崖の上まで聞こえる。
「あたし達は最悪の状況にならない限りここにいて、何かあればあなた達を避難させるから、そのつもりでいて。」
その言葉に2人の王とその側近は深く頷いた。その様子を見ていたカインが空を仰ぐ。
「…まぁ、俺はルーティのようにその約束を守るとは限らないがな。」
そして腕を組み俯いて小さく、誰にも聞こえないように続ける。
「あいつを殺すのは………俺だからな。」