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BR∃AK∃R〜ブレイカー〜  作者: 笑夢
27/40

cord.26 呼ぶ声

「奴ら…!皆殺しにしたのか!!!!」


 眼前に広がる壮絶な光景。皆が唖然とし立ち尽くす。


「あ……あ…ぁ…!!」


 ー何で、どうしてー


 ジークの身体が大きく震えだす。目が泳ぎ息が詰まる。その異変にいち早く気が付いたのはセフィラだった。


「いけない!!」


 セフィラが叫ぶのとほぼ同時にジークは膝から崩れ落ちる。それを側にいたミトが咄嗟に支えた。


「ジーク、ジーク!大丈夫か!!聞こえてるか!!くそ…!なんだってこんな…!!」


 ミトの言葉に返事を返す余裕はなく、ジークは呻き声をあげる。目を見開き、息を荒げる。


「精神が不安定なんだわ…!このままじゃ…!!また、悪魔が!!!」


 ジークはその言葉を聞きながら意識が徐々に遠のいていくのを感じた。そんな時、ジークの頭の中にあの低い声が響く。


「フフ…ドウシマシタ、カ?ソノママ私ニ身ヲ委ネルノデス。サスレバコノヨウナ国一瞬デス、ヨ。」


 全身から汗が噴き出るのを感じる。身体には力が入らなかった。震える、という表現より痙攣している、と言った方が正しかった。しかしこのまま引き下がるわけにもいかない。ジーク自身、自分のせいで皆を巻き込んでしまっている事に負い目は感じていた。出来るならば、皆を危険に晒したくはなかったのだ。


 ーここで悪魔に力を貸せば…みんなをこれ以上危険な目に合わせなくて済むのか?ー


 そんな思いがふと頭をよぎる。しかしすぐにその考えを頭から消そうとする。悪魔に力を貸すわけにはいかないと自分に言い聞かす。その想いも虚しく、たちまち身体の中から気持ち悪いものが込み上げてくる。


「う…!!あぁアぁあ!」


 堪らず声をあげる。その声は最早悲鳴に近かった。


「ジーク!ジーク!!しっかりしろ!」


 そんなミトの声を掻き消すように、また悪魔の声が響く。


「フフ…サァ選ブノ、デス。身ヲ委ネル、カ、委ネナイ、カ。」


 全身が鉛のように重くなり、視界が狭まる。吐き気にも襲われ目の前が歪む。


 ー苦しい。痛い。こんなのもう、早く、解放してくれ…!ー


 全身を駆け巡る激痛と気持ち悪い魔力にジークは心の中で助けを求めていた。そんなジークを見ていられずミトはセフィラに懇願する。


「セフィラ!!どうにか出来ないのか!?」

「みんな力を貸して!仮の結界ですがもう一度悪魔を抑えま…!キャッ!?」


 駆け寄ったセフィラに、ジークは剣で切りかかる。セフィラの頰からは静かに血が流れる。その様子にリオンはセフィラの前に立ち、声を荒げる。


「おいジーク!てめぇどういうつもりだ!!」


 ミトは座り込んだまま不安そうな顔でジークを見上げる。レイルとリオンは大鎌と大剣を構え、セフィラはその後ろで頰を押さえる。ジークはゆらゆらと揺れながら不気味な笑顔を浮かべた。


「フフ…!アァ、イイデス、ネ…コノ体。力ガ、溢レ出テキマス…!」


 その声に4人は凍りついた。ジークは構わずゆらゆらと不気味な動きを繰り返す。そしてリオンに向かって魔法を放つ。避けたリオンにもう1発。側にいるミトへも剣を振るう。


「やめて下さい!貴方は簡単に身を委ねる方ではないはず!!」


 そう、ジークは自分の中で抑え込んでいたはずの悪魔に操られていたのだ。ジークの体からは黒いドロドロとした魔力が溢れ出す。


「フフ…アァ……アァ…コレ、コレデス、ヨ…!イイ、イイ…!モット、モット快感ヲ…!快感ヲ…!」


 不気味に笑いながら剣を振り回し、辺りに魔法を放つ。その状況に側に居た国王とその側近を庇いながら逃げる4人。ジークはフワフワと暗闇に浮きながら、自分が仲間達を傷付けている光景を虚ろな目で見つめる。


 ーあぁ、身体が楽だ…このまま…何も感じたくないー


 ジークは静かに目を閉じた。先程までの苦しさが嘘のように身体が楽になり、小さな笑みが溢れる。4人の声が耳に入ってくるが上手く聞き取れなかった。それでもいいか、とまた暗闇に身体を委ねる。


 ー俺、頑張ったよな……なのに、どうしてこんな事ばかり…もう…無理だ…限界…限界だー


 全てを委ねかけたその時、ハッキリと自分の名を呼ぶ相棒の声が聞こえた。


「ジーク!ジーク!!!ふざけるなよ!!ぶっ殺すんじゃ…!なかったのかよジークゥゥ!!!!」


 ジークはハッと目を開く。そして目の前の光景を目にする。ミト、セフィラ、レイル、リオン…その4人が傷だらけになりながら自分と戦っている。


 ー俺は…何をー


 そして3人も次々口を開く。


「ジーク!私達の声が届いているか!」

「ジーク!!もし聞こえているなら…!」

「耳の穴かっぽじってよーく聞いとけよくそったれ!!」


 4人は王達を守りながら何とかジークの攻撃をかわす。


 ーどうして、こんな事に…!動け…動け…!ー


 必死に抵抗しようとするが、それも虚しく悪魔の魔力に押さえ込まれているのをはっきりと感じる。体にドロドロとしたものが流れ込み堪らずまた目を瞑る。身体を丸めその苦しさに耐える。諦めかけたその時、仲間達の声がジークの耳に届いた。帰って来い、と仲間達が呼んでいる。4人が口を揃えて早く帰って来い、帰って来て、と。


「ダマ…れ…ェ!」


 ジークは声を絞り出しゆっくりと剣を振り上げる。そんなジークへと、ミトが目を見開き駆ける。


「やめろおぉぉぉ!!!!!」


 その場には叫び声と肉を切る鈍い音が響いた。

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