cord.21 敵襲のその後
カインとルーティが席に着くや否や、セフィラが手を挙げて言う。
「では状況を私から。ディクタティア兵が1人、我が国へ…都へ侵入。被害は結界の破損と住民1名の死亡。私を含めたエレメンツの軽傷。これで済んだ事に正直安心しています。」
「何故このタイミングなのか、それは分からない?」
「はい。言ってしまえば…いつ攻め入られてもおかしくない状況ですから。」
エレメンツの3人は黙って話を聞く。カインは手と足を組み、目を瞑る。
「そう…貴方達が優先してすべきは結界の補修。次に今回のディクタティアからの攻撃にどう対応するか、だね。正直ウラノスもチャカもディクタティアには頭を悩ませていてね。私達が直接ディクタティアへ攻め入る事は許されないけど、協力くらいは出来る。」
「私達は近い内にディクタティアへ行きます。仕事を任されているジークとミトと共に。」
ジークの名が出た瞬間、カインは静かに目を開ける。
「…で、そのジークは今何処へ?死んではないんだろう。」
「ジークは今城の治癒魔導師に治癒させています。」
カインの冷たい言葉にセフィラはハッキリと告げた。
「待って、問題はそこじゃない。ジークはグラッドブレイカーだよ?国へ加担する事は禁じられている筈。それは分かってるの?」
「…俺はグラッドブレイカーである以前に殺し屋だ。俺をグラッドブレイカーにしたのは俺の希望じゃない。この世界の希望だ。クリスタロスに加担するわけではない。そして俺は殺し屋の仕事を蔑ろにする気はない。それが許されないというならグラッドブレイカーを辞めよう。………ジークからの言葉だよ。俺も、エレメンツだからと言ってディクタティアへ攻め入らないなんて言わない。クリスタロスに加担するわけではないけど、今ディクタティアは何を仕出かすか分からない。始まってからでは遅いんだよ。」
ミトは真剣な表情でカインとルーティを見て言う。
「私は悪魔の調査をしている過程でここまで来たのだ。その悪魔を野放しにする事も、人の命を簡単に奪う奴らを放っておく事も出来まい。目の前で見てしまっているのでな。」
レイルもまた、2人を見る。
「…要は、俺らはクリスタロスに加担する訳じゃねぇんだよ。俺らは俺らの意思で俺らの目的があんだ。それを果たしに行くのを止める権利はねぇんじゃねぇのか?」
「待って、そうは言っても…!国を攻めるには開戦宣言もいる。でもあんた達は国として攻め入る訳じゃない。確かにあたしらが止める権利はないかもしれない。そうなるとあんた達はエレメンツの称号を失うだけでは済まないかもしれないんだよ!?この世界にとっては過去にない大事件になりかねない!だって、世界を支える為に作られたグラッドブレイカーとエレメンツが協力して国を滅ぼすんだよ!?やろうとしてる事、分かってるの!?言ってしまえばクーデターと変わらない!!!」
ルーティは立ち上がり、机を叩いて言う。
「…私達は、革命をしに行くのです。今の世が1番恐れているものはディクタティアで間違いないでしょう。そこを滅ぼす事で他国の安全とディクタティアで縛られている住民達を解放出来ます。この世界にとって、何かマイナスになる事があるのでしょうか。」
そんなルーティに、セフィラは冷静に告げた。セフィラ本人も分かってはいるが、ここで動かない訳にもいかなかった。
「そして私は次期王女です。なので、ここで開戦を宣言しても何もおかしな事は無いのではないでしょうか。しかし、私達はディクタティアを侵略する気はありません。勝ったその時から、住民達に自由を与えましょう。」
「…ふ……はは…!セフィラ・トーン、貴様中々見所あるじゃないか。」
セフィラの言葉にカインはニヤ、と笑ってそう言った。そんなカインを見てルーティは動揺を隠せない。
「ちょ、カイン…!?あんたは止める立場…!」
「これだけ口を揃えて言っているんだ。ここはこいつらの好きにやらせればいい。宣言するなら王達を集めなければいけないがな。」
そしてカインは真剣な表情になって綺麗に座り直す。
「まず、開戦宣言をするまで貴様らがディクタティアへ向けて進行を始める事は許されない。次に、開戦を宣言した所で他国の王が反発する可能性もある。協力を申し出てくれるのが1番だがな。そして、貴様らが行ったところで勝てるとは限らない。これを踏まえてもう一度考えろ。」
そのカインの冷たい声に、部屋は一気に緊張に包まれる。
「そしてこれは迷ったがな、貴様らには言っておく。」
そんなカインの言葉にルーティは静かにカインを見た。
「ここを襲撃したディクタティア兵…そいつと顔を合わせてな。奴の顔には数々の傷があった。そして…顔の右側に、ジークがしているものと同じ刺青をしていた。」
瞬間、ミトは立ち上がった。目を見開き、握りしめた拳が小さく震える。
「…な…名前は…!!」
「……悪いな、そこまでは聞いていない。俺らはジークについて聞かれた。だからジークとどういう関係かと、聞いた。そこで奴はこう答えたんだ。ジークの兄だと。」
レイル、リオン、セフィラは声を上げ、そしてミトを見た。皆が動揺を隠せない中、ルーティが冷静に口を開く。
「これをあたしらからジークに言うつもりはない。そこはあんた達に任せるよ。そしてミト・シェイム、何か知ってるんだね?」
そんな全てを見透かされたような目で見られ、ミトは俯く。そして重い口を開いた。
「……名前は…フレイン。昔、傷だらけのジークを助けた人物だよ。ジークはもう居ないと言っていたけど…その人を兄のように慕っていたんだよ。…ジークには…言わないでくれ、頼む。」
そんなミトを見て、皆は頷いた。兄だと慕った人物がディクタティアに居る。しかも敵として立ちはだかると分かれば、たちまち精神が不安定になるだろう。知られる訳にはいかなかった。
「…了解。分かったよ。あんた達にこれ以上話せる話はない。あたしらは各国の王をここコリエンテに集める。勿論ディクタティアもね。そこでの話し合いで全てを分ける。それを頭に入れておくように。」
そのルーティの言葉に、カインは立ち上がる。それに続いてルーティも立ち上がる。
「今から1時間後、またここで。」
そう言って2人は部屋を出て行った。