cord.19 敵襲
「…で?セフィラ、話って何だよ?」
ジークの部屋から少し歩いたところでリオンが口を開く。
「……ジークが完全に動けるようになるまで…私の治癒魔法を使ってもまだ少しかかるでしょう。城の者にも治癒をさせますが、悪魔の魔力との干渉が引かない限り安心は出来ません。」
「………それで?」
セフィラは足を止めて3人を振り返る。
「貴方達はこれから、どうするつもりなのでしょうか。」
3人は黙り込む。どうするつもりか、改めて聞かれてレイルとリオンは一瞬固まる。
「お、俺は勿論…ジークを待つよ…!元々仕事を任されてる。俺とジークの…殺し屋としての最後の仕事なんだ。それはみんなが着いて来なくても変わらない。」
ミトは一歩前に出てそう言う。リオンは頭を掻いてレイルを見た。
「…私は……悪魔がジークの中に居る以上…それを見逃す事はできない。それに…この状況を作ってしまったのは私だ…。」
「はぁぁ〜…どうしてこうなるんだっての…。」
レイルの言葉にリオンは呆れたようにそう言い、足を止めたセフィラの横を通り過ぎる。
「俺は関係ねぇ。てめぇのそれは自分がやった事の罪滅ぼしなだけだ。それは…。」
リオンは途中で言葉を止めた。そして目を細め辺りを見渡し、匂いを嗅ぐ。その様子に3人も身構える。
「……これは…!」
1つの殺気が迫って来ている。しかも物凄い速度で、だ。それはすぐに4人も理解する。その時、セフィラの首飾りが弾け飛んだ。
「キャッ!!あ…こ…れは…!!結界が…破られました…!!」
セフィラはそう言いながら屋敷の玄関へ駆ける。その後を3人は追う。セフィラに追いつくと、3人もセフィラが見ている上空を見上げる。そこにはディクタティアの鎧を着た1人の兵士が結界の境に浮いていた。そしてゆっくり、ゆっくりと4人の前に降り立った。街の住民達は恐怖のあまり叫びその場で立ち尽くしている。
「住民の皆様!!急いでここからお逃げなさい!!!早く!!」
セフィラが屋敷の前から広場に居る住民達に叫ぶ。そんなセフィラに構う事なく鎧の人物は一歩4人に近寄る。
「……これは予想外だなぁ。エレメンツが揃いも揃って…。これは少し遊んで帰るかなぁ。」
兜の奥からは男の声が聞こえた。
「…貴様…ここに何の用だ。」
「答え次第では貴方をここから出すわけにはいきません。」
「…どういうつもりでここへ来たんだ!」
「んな答え分かりきってんだろぉ…こんだけの殺気、ディクタティアの鎧、聞かなくても丸分かりだぜ…!」
すると鎧の男は優雅にお辞儀をすると鋭い音を立てて剣を抜く。そして…逃げて行く住民の1人へ向けて剣を振るう。その剣から出て行く剣撃がその住民の背中に当たると、鮮血が飛び散り倒れ込んだ。
「あれ、あちゃ〜僕って外すのが苦手なんだよなぁ…。」
鎧の男が倒れる住民の姿を見て頭を掻く仕草をする。とは言っても兜の上からだが。
「ひっ…!!あ…!あ…!!」
セフィラがその光景を目にし声にならない声を上げた瞬間、リオンが大剣に炎を纏わせ駆け出した。それに続いてミトも飛び出す。
「てめぇふざけてんじゃねぇぞぉ!!」
ジャンプして男に斬りかかる。それを男は剣で軽々と受け止めると、そのままリオンを弾き飛ばした。弾き飛んだリオンの下からミトが短剣を構えて駆け抜ける。そして男の首元目掛けて短剣を振るった。
「終わりだ…!なっ!?」
男はグン、と身体を逸らせ、そのまま後ろに両手を着きその勢いでミトの顎を思い切り蹴り上げた。レイルはその一瞬の隙を見逃さない。大鎌を召喚すると大きく横に薙ぎ払い衝撃波を飛ばす。
「これで…とどめだ…!」
男へ放たれた衝撃波。瞬間、男は思い切り身体を回転させる。そして足先から刃を出すと衝撃波を粉々に切り裂いた。
「なっ…!んだと…!」
切り裂かれた衝撃波の間からミトの銃撃が追い打ちをかける。しかしそれもあっさりと切り裂かれる。
「それがダメなら魔法でいきます…!水冷魔法!」
男が両手着いている地面には泡が浮かぶ。男はすぐにそれに反応し、両手を使い飛び上がる。そして何か唱えると黒い刃が4人を襲う。4人は突然の痛みに苦痛の声を上げた。男はガシャ、と音を立てて見事に着地をする。
「…ハ…何だ…この程度なんだね君らの力。これじゃこの国を落とすのも時間の問題かなぁ。」
息の一つも切れていない男は肩を回しながら空を見上げる。そして剣を鞘にしまうと伸びをした。
「な…なめて…やがる…!」
リオンは歯を食いしばって男を睨む。と、突然背後からガタッと音が鳴り、全員の視線がそこへ移る。
「…はぁ…!はぁ…!みん…な…これ…は…!」
「ジーク!」
ジークが剣を杖にし、扉に寄りかかりながら皆を見る。ミトはすぐさまジークの元へ駆け寄り、肩を貸す。
「………ジーク…。」
男は小さくそう言ったかと思うと静かに浮き上がる。
「安心しなよ、何も僕は君らを殺すためにここへ来たわけではないんだよ。状況を見に来たんだ。結界の強度、結界が破られた時の対応……ハハ…これは僕1人でも出来そうだよ…!この国を奪う事くらい、ね!」
そう言ってふわっと結界の上まで浮き上がると一瞬にして姿を消した。
「……あ…ぁ…!だい、大丈夫です、大丈夫ですよ…!すぐに…!」
セフィラはすぐに倒れこみ動かない住民に駆け寄ると震える手を身体の上にかざし、治癒魔法をかける。
「ごめんなさい…い、痛かったですよね…でも…これで大丈夫ですよ…もう少し…もう少し…あ……あれ……お、おかしいわ…何で…何で動かないの…?」
涙を流しそう口にするセフィラに4人は歩み寄る。そしてリオンがセフィラの手を取った。
「やめろセフィラ。」
「……なん……で…何で…止める…の…?この方は…まだ…!」
そんなセフィラの肩に手を置くレイル。セフィラの目を見つめ、そして目を閉じながら首を振った。セフィラの澄んだ空色の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。ミトはジークを座らせるとセフィラを優しく抱き締めた。
「…ごめんな。守れなくて。」
セフィラの鳴き声が響き渡る。
「………んだこれ…あいつ…!」
リオンはこの状況に拳を強く握りしめた。そんなリオンの頭にポンと優しく手を置くと、レイルは穴の開いた結界を見つめる。
「……やはり…倒さねばならんのだな…。」
そしてその住民の埋葬を終えると、再びジークの部屋に5人が集まった。
「俺もやるぜ、ジーク。ディクタティアをぶっ潰す。目の前であんなことされて…許せるかよ!」
「私も同感だ。元よりジークに着いて行く予定だったが、改めて意志が固まった。このまま野放しには出来ん。」
「右に同じく。ま、俺はジークに着いて行かないなんて選択肢は初めからなかったけどな。」
「………今ここを離れる事は危険なのは分かっています。けれど…私もケジメを付けなくてはいけません。連れて行ってください。」
4人はそれぞれ口にする。そんな4人を静かに見るとジークは深く頷いた。
「…その前に。この話を聞き付けたグラッドブレイカーがここへ顔を出す筈です。みなさん、失礼のないように。」
悲しそうな笑顔を作るとセフィラは静かにそう言った。