cord.1 闇夜の追走劇
「はぁっ…!はぁっ…!ジーク!!」
爆発音が夜の町を響き渡る。
「あぁ!分かってる!!回りこむぞ!!」
殺し屋ジーク・カルロスとミト・シェイムは、広がり続ける火の海を走り抜ける。狙いはソキウス・ダヴァー。かつて、悪を破壊するもの…通称グラッドブレイカーの1人だった、セイト・グレス・ローダンセを慕い続けた人物。今回の彼らの任務はそのソキウスを殺す事だった。
「ったく聞いてねぇぞ…!!」
顔の左側に炎の様な刺青をした銀髪の男、ジークは言う。それもその筈、彼らはソキウスを一ヶ月以上追い続けていたのだ。目撃情報がある度に現地へ赴いたがそこにあるのは町の残骸のみ。今までソキウスが彼らの前に姿を現す事などなかったのだ。しかし今、ソキウスは何の前触れもなく彼らの住む街に姿を現した。深い緑の長髪を揺らし、ミトが続ける。
「それは俺の台詞だよ…!何だってこのタイミング…!」
目の前には火柱が上がる。彼らの瞳は火柱の根に立つ人物を捉えていた。
「あっはははははは!!!」
火柱の中で手腕を大きく広げ、空を仰ぎ見る。離れていても分かるほどの禍々しい魔力、奴だ。間違いない、目の前の人物はソキウスだと、頭で理解するより早く身体が訴えかける。
「遅かったなぁ殺し屋さんよぉ!!!」
火柱が一瞬大きくなったかと思ったら、空の彼方へ巻き上がりボッと音を立てて消える。ソキウスは一呼吸置くと大きく広げていた腕を力なく下ろし、一歩、また一歩と確実に彼らに歩み寄る。
「なぁ今、どんな気分だ?怖いか?怖いか!?」
目を見開いたソキウスは、一瞬にしてミトの正面まで移動する。瞬間、ジークの隣に立っていたミトは遥か後方へ吹き飛ばされる。咄嗟にミトの姿を追う。
「ミト!!!」
「てめぇはてめぇの心配をしておけよ?」
不意に耳元から聞こえたソキウスの声。寒気が走り腰にかけていた剣を抜き、思い切り払う。ソキウスはそれを軽々と避けると不気味な笑みを浮かべる。ソキウスを切るつもりで思い切り振った剣は空を割く。その一瞬の隙をソキウスは見逃さなかった。一気に間合いを詰め、ジークの腹に1発蹴りを入れる。思わず声が漏れるジークを見て続け様にもう1発、更にもう1発。苦痛に顔を歪めたジークの眼前にソキウスの手が伸びる。その手が段々と熱を帯びるのがハッキリと伝わっていた。チリ、と小さな音を立て手の内から炎が現れる。
「終わりだ。呆気なかったな、ジョーカーさんよ。」
その時ジークは聞いた、最も信頼するパートナーの声を。確かに聞こえたのだ、避けろと。その瞬間、目の前に居た筈のソキウスは突風によって吹き飛ばされる。コードネームを漆黒の翼〜レイヴン〜とするミトの魔法は、何者にも囚われない自由なものだった。元素を操る者、エレメンツの1人でもあり風の魔法を得意としていた。時に優しく包み込むような優しい風を起こし、仲間の為ならいとも簡単に相手を傷つける鋭い風をも作る。それがミトの魔法だった。
「間に合った、ね、ジーク!」
「ナイスタイミングだ、ミト!!」
側に駆け寄ってくるミトに親指を立てて笑顔で言う。安心したのも束の間、ソキウスが吹き飛んだ先…瓦礫の山がガラガラと音を立てて崩れる。燃え盛る火の中、ソキウスがゆっくりと立ち上がるのを彼らは見逃さない。目を見合わせ、ジークは剣を、ミトは銃を構える。
「さぁて、あんま調子乗んなよ?」
ソキウスが瓦礫の山を飛び出すのと同時に彼らも踏み込む。長年パートナーとして共闘していた彼らの間に言葉はいらない。ミトの突風魔法でソキウスの行動を制限し、そこにジークが斬りかかる。時には様々な属性の魔法を使えるジークが魔法での攻撃繰り出し、ミトが銃で畳み掛ける。見事な連携プレーを見せられ、不気味な笑顔を貼り付けていたソキウスの顔は次第に焦りに変わっていく。そして、遂に追い詰めたソキウスの喉に剣を突き立てる。
「逝け罪深き者よ、俺はジーク・カルロス。」
殺し屋の任務は上からの命令には必ず従い、罪の有無に関わらず対象者を殺す事。せめて最期だけは苦しまずにという思いから、最後は思い切り一太刀、確実に息の根を止めるようにしてきた。それは今回も例外ではなかった。
静かにそう言うと、ジークは剣を振りかぶる。
「そこまでだ!!!」
聞き覚えのある声にジークは一瞬固まり、静かに声の主を探す。剣は今も尚、振りかぶったままだ。そして、建物の屋上に立つ人影を捉えた。
夜の闇に溶けてしまいそうな黒髪が、風になびいていた。
彼らの特徴を書き足しました。未熟者で申し訳ございません。