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BR∃AK∃R〜ブレイカー〜  作者: 笑夢
19/40

cord.18 青い空

 ミトが恐る恐る目を開けると、そこには右腕を魔物に噛まれているジークが立っている。


「あ、あ…!ご、ごめんなさい…!!」


 ミトはそんなジークに駆け寄る。震えるミトを押し退けると右目の眼帯を外した。瞬間魔物は破裂し、跡形もなく消えた。茂みから出て来る2匹の魔物をギリギリでかわすとミトを守るように立つ。そして右目の力を使った。その2匹も同じように鈍い音を立てて弾け飛んだ。魔物の攻撃が止む。気配が無いことを確認するとジークは一気に肩で息をする。なんとか息を整え、笑顔で振り返ったジークの右目からは血が流れていた。


「…はぁっ…!はぁっ……ミト…怪我してない………か…。」


 フラッと倒れ込むジークをミトが慌てて支えようと手を伸ばす。が子供の力では叶わず共に倒れ込んだ。


「ごめん、ごめんね…目…目が…!すぐに治癒魔法をかけるから…!」


 そう言って震える手をジークの身体の上にかざす。全回復とまではいかなかったが、それでも無いよりマシだった。


「悪い、ありがとな、ミト。助かった。いやぁ実践は俺もまだ中々させてもらえてなくて…迷惑かけたなぁ…ごめん…。」


 そう言うジークに涙を流して首を振る。その様子にジークは困ったように小さく笑うと立ち上がる。


「ほぉら俺はこの通り!ミトの魔法で回復しましたとさ!!」


 自信満々に両手を広げて言うジークに、ミトは微笑んだ。


「やっぱり凄いや…。」


 そんなミトに手を差し伸べ立たせると、早足で薬草を探す。森へ入ったのは初めてではないジークは、この辺だった筈だと呟きながらキョロキョロと地面を探す。


「……あの…もう少し…こっち…。」


 ジークの服の袖を引っ張り自信なさげにミトは言う。


「…風が…流れてるから。」


 そんなミトを見て頷くと、ジークは言われた方へ足を進める。そこには様々な薬草が生い茂っていた。


「…おぉ…!こんな一面に…!これは知らなかったぞ…!やったなミト!!」


 ジークに褒められて頬を染めるミト。そして先程のジークのように両手を広げる。


「ほ、ほぉらこの通り!ぼ……お、俺に頼れば薬草だってなんだって見つけてみせるよ!」

「…ぷ…!あっはは…!!お前中々やるなぁ!じゃあこれからどっちが先にボスにコードネーム付けてもらえるか競争だな!!」


 この日を境に任務はいつも2人で任された。次第に任務自体も変わっていった。

 そして初めての殺し屋としての正式な依頼、ターゲットの殺害を任されたのはそれから1年と少し経った頃だった。上級魔法を使えるまで成長した2人は見事な結果を残した。そこで、殺し屋として認められた者に与えられるコードネーム、ジョーカーとレイヴンの名を貰うのだった。


「ところで、今更なんだけどさ、ジーク。何でジークは殺し屋に入ってたの?」


 コードネームを貰った帰り、殺し屋本部の近くの家に向かっている最中、ミトが突然口にした。


「いや…ほら、さ、あの頃はバタバタで俺もジークに追いつこうって必死で…そういう事考えた事もなかったんだけど…。」


 何も答えないジークに焦った様な素振りを見せる。そんなミトにジークは寂しそうな笑顔を向ける。


「…言ったろ、ディクタティアをぶっ潰すって。」

「そ、それがおかしいんだよ!普通の人が国を滅ぼそうだなんて言わないよ!い、言えないなら無理には聞かないから…!」


 そんなミトにジークは小さくため息をつく。


「分かった。降参だ。これはいつか話しておかなきゃって思ってたしな、丁度いい。」


 ジークはそばの公園へスタスタと入るとベンチに腰をかけた。


「この右目の事は知ってるな?かの有名なウェスト・ロン・エリヴィンが目に刻んだという死神の目。以降俺達人間は何十年に一度その目を持った子が生まれる、そんな伝承がある事を。俺は生まれた時からこの目を持っていた。だから親にも忌み嫌われてさ、物心着く前に捨てられてるんだ。で、子供ながらに必死に生きたわけ。行商人の積荷を奪ったり、スリだってしたし、雑草を食べて何とか飢えを凌いだり…そうやって街や村を渡り歩いてたんだよ。生まれはここ、南の大陸のチャカ。その後、今はディクタティアが納めてる東の大陸の南端に渡ってさ。そこはその頃はまだディクタティア領じゃなかったみたいなんだよ。ま、それでようやく辿り着いた村で俺は拾われた。そこの人達はボロボロの俺に何も聞かず居場所をくれたんだ。みんな貧しい生活をしていたのに、本当に優しくてな……。」


 そう言って空を見上げる。その表情には憎しみがこもっていた。


「その村を焼き尽くしたんだ…あいつらが…!みんな…みんな…!!!」


 握り締めた拳が震える。それに気が付いたミトは止めようとした。が、ジークは構う事なく続けた。


「そこでこの目の力が開花したんだ。俺は襲ってきた兵士を皆殺しにしてやったよ。勝ったんだ、俺はあいつらに。でも……何も残らなかったんだ。みんな殺されて、家も全部焼かれて。俺はフラフラになりながら村の側を流れていた川を下ったんだ。そこで気を失ってんたんだけどな、見ず知らずの人が助けてくれたんだ。フレインって言ってな…本当の兄貴みたいに俺を可愛がってくれて…おかしい奴なんだよ。お揃いだって言って、これがあれば俺らは繋がってるとか言って、この刺青を付けようって言ったんだ。」


 ミトを見て顔の左にある刺青をトントンと指で叩いてみせる。


「んで、そいつが力をつけたいなら殺し屋はどうか、って教えてくれたんだよ。」


 笑顔を見せてジークは言った。


「…その…フレインさんは今は?」


 そのミトの問い掛けにジークは首を振った。そして地面を見つめ辛そうな表情をする。


「…居ないよ。ディクタティアの兵士に連れ去られた。その頃、もうそこの村はディクタティア領でな…ディクタティアは独裁国家。他所者から何か吹き込まれて住民たちが反乱を起こしたら面倒だろ?だから他所者は王に突き出すか、見つけた人間が殺さなくちゃいけなかったんだよ。あの時の俺は何にも知らなかったんだけどな。フレインはその制約を破ったんだ。だから殺された。俺のせいで。だから俺はフレインに言われたように殺し屋に入る事を決めたんだ。」

「……そう…だったんだ…。」


 申し訳なさそうにミトは小さく言う。ジークはミトを真剣に見つめて続ける。


「…だから俺は絶対にディクタティアを許さない。もっともっと力を付けて、絶対にあいつらを殺す。その時は……お前は付いて来なくていいからな?」


 へらっと笑顔になると、ジークは立ち上がって伸びをした。そして帰ろうか、と言いミトを振り返る。


「…なよ……。そんな事…言うなよ…!!そうやって…全部全部1人で背負い込もうとしないでくれ…!俺はジークに救われたんだ…!あの時からジークに着いて行くって決めてる!俺達は相棒だろ!!辛い時に助けられなくて…それで何が相棒だよ!!」


 ミトは立ち上がってジークの襟を掴み大声を出す。綺麗な翡翠色の瞳が涙で潤んでいるのがわかった。


「……そうだな…。ごめん、ミト。」


 そんなミトに笑顔を向けるとジークは空を見上げた。青い、蒼い空を。どこまでも続く青い空を。

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