cord.15 始まりの朝焼け
何かあった時にすぐに対応出来るよう、まずミトがジークを連れて部屋へ入り、それにレイルとリオンが続く形になった。
「…じゃあ、俺が先に入ってジークを支えるよ。それまでジークを頼む。」
ミトはそう言ってジークをレイルに預け、入り口に立つ。実際にそこに立つと、見たこともない景色に冷や汗が滲むのを感じる。部屋の中、中央には台があり、それを囲うように水が張られている。そこ以外の地面は土で覆われており、数カ所に火が灯されている。そして何処からともなく風が吹き抜ける。
1つ大きく深呼吸をすると、中で待つセフィラを見て、頷く。そして…一歩部屋へ足を踏み入れた。
「う……あっ…!!」
入れた右足から全身へ鋭い痛みに襲われ、呻き声があがる。
(これが…!セラの言っていた…!!)
視界に映るセフィラが不安そうにしているのに気が付く。ミトはすぐに全身を部屋へ入れた。
「ぐぁ…!!!」
痛みに耐え切れず膝をつくミトの後ろからレイルとリオンの声が聞こえる。大丈夫だ、と何とか答えるとゆっくりと立ち上がる。全身が切り刻まれているような感覚だった。暫く耐えるとその痛みが次第に引いていった。
「…良かったわ、ミト。落ち着いたのね。」
そう言ってセフィラは静かに笑う。ミトはセフィラに笑顔を向けるとすぐに振り返り、ジークを見る。レイルもすぐにジークを入り口まで運ぶ。
「…わる、いな…2人…とも。」
小さくそう言ったジークをゆっくりと部屋へ入れ、中のミトが支える。瞬間毛の逆立つ様な、吐き気のする様なドロドロとした魔力が溢れ出す。それに反応してか、部屋中が眩い光に包まれる。ミトとジークの叫び声が響く中、レイルとリオンが部屋の外で身構える。
「………ジー…ク…無事か…!?」
うつ伏せに倒れ込み、動かないジークを揺すりながらミトは言う。
「…ミト、離れて。貴方は今ジーク・カルロスではないですね、答えなさい。貴方は何者ですか。」
「………ハ…人間…ゴトキニ…。ク…オカシ…イデス、ネ…コノ身体…動キマ、セン…ネ…。」
その声を聞き、ミトも立ち上がり身構える。ジークの身体自体にダメージがある為、悪魔と言えどジークの身体をあやつる事は簡単ではないようだった。その様子を見てレイルは躊躇なく部屋へ入る。瞬間襲った鈍い痛みに顔を歪める。心臓を握られている様な苦しさがあった。小さな呻き声を上げながらジークへと歩み寄る。
「…リオン…急ぐのだ…!今、しかない…!」
「…たく…いてぇの分かってるのに入れ、か…。はっ!良いなこれ、こういうスリル求めてたぜ。」
そう言って大剣を抜き、部屋へ入る。
「ぐ…っ!!んだ…これっ…!!!息…が…!」
痛みとその苦しさにに思わず膝をつく。四肢を締め上げられているような感覚だった。体が重く、言う事を聞かない。
「こんの…!舐めんなぁ!!」
「リオン、いけない…!!」
セフィラの制止も聞かず、リオンは思い切り炎の魔力を放出させ四肢の違和感を払う。瞬間、身体中を切り刻まれるような鋭い痛みに倒れ込んだ。
「ここで魔法を使ったらどうなるか言ったはずよ!?リオン!!それは火炎魔法であっても、魔力を放出させる事であっても同じもの…!」
倒れ込むリオンに駆け寄るセフィラに、リオンはニヤッと笑う。
「ケッ…!こんなもん…あの気持ち悪ぃ苦しさに、比べたら…!俺は、大丈夫だから、さっさと済まそうぜ…?」
そう言って大剣を杖に立ち上がる。セフィラは少し悲しそうな表情をし、ごめんなさい、と一言言うと4人を見る。
「ジーク・カルロスをこの中央の布陣の上へ。3人はそれぞれ地、火、風が描かれている周囲の布陣へ。そこで私の合図と共に魔力を布陣へ流し込みます。布陣へ流し込まないと結界は正常に張られない、そしてさっきのリオンのように攻撃を受けます。流した後は私に任せてください。悪魔が動けない今急いで結界を張りましょう。」
そう言って4人は持ち場に着く。ジークは中央の台に寝かされる。
「…ココデ…終ワルト思ワナイ事デス…ネ…。」
そう言って不気味に笑うジークの目は黒く染まっていた。ジークからは今もドロドロとした魔力が感じられる。魔力が放出されている状態のため、ジークの身体の周りは光が止む事はなかった。どれほどのダメージを受けているだろうか、4人には分からぬ事であった。セフィラが大きく深呼吸をする。
「エレメンツの加護よ…今ここに、契約を交わす。悪なる者を封じ安寧を齎せ。我が名はセフィラ・トーン。ティアラ・トーンの末裔なり。」
そう言いセフィラの身体が青く光る。それと共に他の3人も魔力を放出する。部屋が様々な色に光り、風が駆け抜ける。地面が、水面が揺れ、灯された火が小さく揺らめく。
「古代魔法……!」
瞬間バチッと大きな音が聞こえ部屋の動きが止まる。それと共にジークの叫び声が部屋を包む。
「うあぁぁぁぁ!!!!」
「ジーク!?セ、セラ!失敗したのか!?」
そして…意識を失ったジーク。4人はジークに歩み寄る。セフィラはジークの身体の上に手をかざす。
「…今まで受けたダメージに耐えられなかったのね…。大丈夫、結界は張ってあるわ。ただ…これは一時的なものよ。ジーク自身の力や感情が不安定になれば再び悪魔が現れるわ。その時悪魔を抑え込めるのは本人のみ…。それは…みんな、頭に入れておいて下さい。」
そしてジークを部屋から運び出し、セフィラから案内された一室へ寝かせた。部屋の大きな窓からは綺麗な朝焼けが確認出来る。
「…何だか、凄く長い一夜だったな…。」
ミトは眩しそうに目を細めて遥か先を見つめた。
ジークが目を覚ましたのはこれから一週間後だったという。