cord.13 水の都へ
鬱蒼とした森へ静かに着地すると、4人を包んでいたカプセルが静かに消える。辺りを見渡し、レイルが口を開く。
「ここから先には魔物が多い。なるべく物音を立てずに静かに進むのが良いだろう。」
そう小さく言うレイルにミトは頷く。
「おっしゃ!そんじゃ行くか!レイル、ミト、ジーク!!」
「しっー!!おいリオン!今のレイルの話聞いてたか…!?」
大声を出すリオンを小声で止めるミト。その時、近くの茂みが揺れるのがミトには分かった。
「待って2人とも。そこの茂み、何かいる。こっちはジークを庇いながら戦わなくちゃいけない。油断は禁物だ。」
そんなミトの言葉にジークは苦しそうに悪い、と言う。その様子を見てレイルは大鎌を召喚すると茂みに近寄った。瞬間、茂みから数匹の魔物飛び出した。それを一切の躊躇もなく切る。次々に飛び出してくる魔物を、地重魔法を使いながら蹴散らす。魔物の叫び声が辺りを包んだ。
「ひゅ〜流石だぜレイル…!でもあんま1人で突っ走んなよ?」
再び訪れた静かな森の中にリオンの声が響く。
(おかしい…静かすぎる…。嫌な予感がする…。)
異様な静けさに包まれた薄暗い森をミトは見渡す。と、リオンの背後の影が動く。
「リオン!!後ろだ!!」
ミトのその台詞と共に戦闘のセンスに長けているリオンは木の上へ軽々と飛び上がる。そんなリオンは先程までの軽い表情を一変させる。
「…おいレイル、ミト、こりゃやべぇぞ。俺らとっくに…囲まれてやがる!!」
木の上から薄暗い森を目を凝らして見渡す。するとそのリオンの背後から魔物が襲いかかる。
「っと!何だてめぇやる気か!!」
軽々と木から飛び降りてそれを避けると、背中に掛けてある大剣を抜き、襲いかかって来る魔物に突き刺し見事に着地する。それと同時にリオンの周囲から魔物が飛びかかる。大剣を大きく振り、その魔物達を綺麗に2つに切る。
「これは…リオンのせいって事にしとこうか…!」
リオンの無事を確認すると、ミトは突風魔法を使い、飛びかかって来る魔物を吹き飛ばす。そして風を操り、宙に浮いた魔物達を切り刻む。
国の状況が不安定な今、街の外の魔物が手付かずになっていたのだ。そして夜は魔物の活動時間でもある。1人を庇いながらの戦闘は簡単ではなかった。視界も悪く、容易に魔法も使えず、3人とも思うように戦えない。
「だぁーっ!!ムシャクシャするー!!俺の魔法で森ごとやっちまうぞこの野郎!!」
この状況を我慢出来なくなったリオンはそう言って大剣に炎を纏わす。森を燃やしてしまうとすぐに問題になってしまう。クリスタロスへの攻撃と見なされたらエレメンツ剥奪だけでは済まない。止めようとミトが叫びかけたその時、聞き慣れた声が聞こえた。
「この森は我が国、都を守る聖なる森です。申し訳ないのだけれど…リオン、それはやめてもらえると助かります。」
薄暗い森の奥から現れたその人物は笑顔でそう言った。そして水冷魔法でリオンの炎を消す。
「魔力を感じて屋敷を出て来たらこんな事になってるんですもの、びっくり。」
「セラ!!」
水のエレメンツであり、次期クリスタロスの王女セフィラ・トーンはミトを見て目を細める。
「何も…何もこんな夜中に来なくても良いと思うの!私がみんなの魔力に気が付いたからすぐにこうして魔物を眠らせ、被害を最小限に出来たのよ!?」
ミトと幼馴染であるセフィラは、ミトの前では素でいられた。幼い頃、セフィラは屋敷から出る事を許されていなかった。だが、そんなセフィラの元にミトの親がミトを連れてよく来ていた。同年代の子供と話した事がなかったセフィラは、最初の内はミトにも敬語であったが次第にそれも解れ、セフィラにとって唯一甘えられる存在だった。
「まぁ…それはもう仕方ない事だから良いとして…。」
セフィラはそう言って大きく深呼吸する。そして4人をゆっくりと見ながら口を開いた。
「…これは何事ですか?そこの方はジーク・カルロスだとお見受け致します。リオン、レイル、貴方達も…何故ミトと共に居るのです?そして何故ここ、クリスタロスに?」
それは俺から、とミトが手を上げて前に出る。
「簡潔に話すけど、今ジークの中に悪魔が入り込んでる。それを消してほしい。もしくは抑えてほしい。詳しい話はまた改めて話すけど、今は一刻を争うんだ。何も聞かずに協力してくれないか?」
真剣なミトの表情に、セフィラは目を閉じ、少しの間考える。
「………全く、貴方達で無ければ到底引き受けられる内容ではないけれど…分かったわ。案内します。」
風が吹き抜け、月明かりが木々の合間を縫って差し込む。セフィラの水色の髪が月の光で輝いていた。瞬間、セフィラの背後から影が飛び出す。誰もが気が付いたが遅かった。皆がセフィラへ手を伸ばす。
「セラァァァ!!!!」
ミトの叫び声と風の音だけが辺りを包んだ。