予知夢の始まり
夢で起きたことが現実に!?
しかし、そのうち知らなくてもいいことまで知ってしまって―――
予知夢をみる主人公・一色 由伸と女の子たちによるラブコメディ(?)
ある日の昼休み。
俺はなぜかある女子と昼飯を食べていた。名前はなんといったか……たしか黒岩さんだっけ。普段あまり関わらないのではっきりとは覚えていない。というかクラスのほとんどの人とあまり関わりがないのだが。 そんな俺がなぜ女子と飯を食べているのかわからない。
「赤川さん、どうしたの?ボーッとして。もしかして体調がわるいの?保健室行く?」
おい、待て待て。おれは一色だ、一色由伸という者ですが。赤川ってだれだよ。普段女子と関わってないとはいえ名前を間違えられるのは少しムカついた。
「あぁ、大丈夫、なんともないから。早く食べないと昼休み終わっちゃうよ。」
なんて適当に返事をしておいた。この時なんで正しい名前を言わなかったのか、俺にもわからない。でも後のことを考えると言わなくて正解だった。
昼休みも終盤に差し掛かった時、クラスで事件が起きた。
教室の前に掛かっている時計が外れたのだ。しかも、それは同じクラスの男子の頭に一直線に落ちていったのだ。それは一瞬の出来事だった。みんなどうすることも出来ず、鈍い音が教室に響く。そして男子生徒は倒れる。みんなその生徒の周りに集まり、「大丈夫か」と声をかけている。先生も駆けつけ救急車で病院に運ばれていった。
おれはどうすることもできなかった。いくら関わりがないとはいえ、他人を助けることができなかったのは心が痛い。
こうして昼休みが過ぎ5時間目が始まった。ついさっきあんなことがあったというのに授業は普通に続けられている。さっきのことを考えているうちになんだか眠たくなってきた。だんだんと瞼が閉じてゆく。
「起きて!朝だよ!起きて!起きなさい!!」
誰だよ、朝なんて何言ってんだ。今は5時間目の授業中ではないか。あぁ、授業が終わったから起こしに来てくれたんだなとおもい、目を開くと……。
なんとベッドに横たわっているではないか。
「お!起きたな、由伸。おはよ!」
「ん、千歳か。おはよう…。なんだ夢だったのか。」
起こしに来てくれたのは俺の幼なじみの青木 千歳である。彼女とは幼稚園からの付き合いで家も隣だ。だからこうして起こしに来ることがおおい。鬱陶しいが正直ありがたい。
「ん?夢ってどゆこと?なんか悪い夢でも見たの?もしかしていい夢?まさか女の人といやらしいことをする夢?うわ、最低。」
「朝から何言ってやがる。そんな夢見てねーよ。なんでもないから。」
そう言って布団を出るが千歳は「教えてくれてもいいのにー。」といった目でこちらを見てくる。
「着替えるからこの部屋から出てけ。見たくなんかないだろ。」
「じゃあ見たいって言ったらいさせてくれるの?」
何を言い出すんだ、こいつは。
「そんなわけあるか。さっさと出ろ。」
「はい、はい」といって千歳は部屋をでる。まったく朝から元気なやつだ。
朝ごはんを食べて家を出る。千歳も一緒だ。同じ高校に通ってるので当然といえば当然だ。ついでにいえばクラスも同じである。
学校に着き、教室に入るといろいろな人から「おはよう!」と声をかけられる。もちろん千歳に対してだが。
千歳は顔も頭も性格もいいので人気者だ。それにくらべて俺は頭は平均より上だが目立って良いわけではないし、顔も普通だし、他人とあまりコミュニケーションをとらないので正反対と言えるだろう。
その日の昼休み、俺は千歳と飯を食べていた。おれは1人でいいと言ったのだが真央がどうしてもと言うので付き合ってあげている。さっきから、周りの男子の視線が痛い。
「ねぇ、さっきの英語の小テストどうだった?」
「いつもより自信ある。9割は取れてると思う。そっちこそどうなんだ。」
「んー。私はいつも通りかな。由伸、自信あるならテストの点で勝負しようよ!何か賭けてさ。」
勝負なんてしたって負けるに決まってる。いつもなら。最近は俺も千歳に負けないように密かに勉強しているのだ。これなら千歳に勝てるかもと思った。
「おう!いいぜ!でも何を賭けるんだ?ジュースか?」
「んー」と千歳は考えこみしばらくして
「お互いの唇とかどう?」
俺は吹き出した。クラスも少しざわついた。主に男子が。千歳はニコニコ笑っている。
「な、な、な、なにいってんだよ。ビックリするじゃねぇか。それは却下だ。」
「えー、そんなぁ。由伸は私のこと嫌いなの?残念だなぁ。」
「だいたい千歳は俺のことそういう目で見てないだろ。ジュースにしよ!」
「じゃあ今回はそれでいいよ。どうせ私が勝つもんね。」
いちおう、納得してくれたようだ。千歳は時々何考えてるかわかんないなぁ。
そういえば、夢で事件が起きたのもこのくらいの時刻だったな。何もないと思うけど、いちおう念のため…。
「ちょっとトイレ行ってくる。」
そう言って教室を出ようとした瞬間、時計が外れた。 夢と同じことが起きてしまったのだ。
夢と同じように誰も動けない。しかし俺は違った。咄嗟に時計の下にいた男子生徒を突き飛ばし盾になった。
「いってぇぇぇぇぇぇ!!!」
教室には鈍い音ではなく俺の悲鳴が響いた。
時計は背中に当たったが、そんなに大したことなさそうだ。アザくらいで済みそうだ。
「助けてくれてありがとう!命の恩人だね!」
あぁ、なんだかお礼を言ってもらうっていいもんだ。
助けてよかったと思った。
「一応保健室に行ったほうがいいよ。もちろん僕も行くから。」
俺は大丈夫だと言ったが、結局心配そうな顔をしている千歳と助けた男子生徒によって連れていかれてしまった。まぁ、授業サボれるならいいか。
保健室に着くと先生はいなかった。
「氷でももらって冷やしておけばいいだろ。千歳、氷あったら取ってきてくれ。」
「オッケー」
そう言って彼女は冷凍庫から氷を氷のうにいれ、冷やしてくれている。
一方で男子生徒はというと…
「さっきは本当にありがとう!僕は花咲薫。これから仲良くしてくれると嬉しいな。よろしく!」
と言って手を差し出してきた。
「あぁ、よろしく。」
俺はそう言って握手をした。
こんな会話を千歳以外としたのは久しぶりだ。案外、コミュニケーションをとるのも悪くないかもしれない。
「ねぇ、暇だったら一緒に帰らない?」
花咲が放課後声をかけてきた。俺は断ろうとも考えたが、一緒に帰ることにした。花咲と仲良くなりたいと思ったからだ。
帰り道、花咲といろいろ話した。住んでいる場所はどこだとか、中学の頃のこととか、去年(高1)の時のこととか。
話に夢中になっているとあっという間に駅までついてしまった。
花咲は電車通学だそうだ。俺は徒歩通学なので花咲より楽なのかもしれないと思ったが、学校から自宅までの道に長い坂があることを思い出し、どっちも大変だと思った。
そう思いながら歩いているとその坂のところまで来た。
「やれやれ。ホント嫌だな。」
独り言を言っていても仕方が無いので坂を登り始める。徒歩だと10分ぐらいかかる長い坂だ。運動部には所属してない俺は登りきる頃には息が上がっていた。しかし、俺は気にせずに家路を急いだ。
家に着くと、ベッドに寝転がった。
今日はいつもと全く違った。夢であった出来事が本当になって、友達ができた。久しぶりに楽しいと思えたかもしれない。まぁ、痛かったけれどこういうのもありなのかもしれないと思えた1日であった。