〈Last episode〉終わりを眺めながら
――〈クリア・セントラル〉白城、最上階
「…………」
俺は、眼下に広がる光景に何も言葉が出ず、愛しささえ感じながら見渡した。
思い描いていた以上の光景だ。このパノラマを永遠に見ていたい。
己の欲望のままに肉を切り、骨を砕き、破壊の限りを尽くす。
本来、生物としての在り方を長い時間をかけて取り戻しただけだ。
持っている力をこまねいていては、生き残るなんて到底不可能だ。
さあ、戦え。
殺しあえ。
俺がわざわざ用意してやったんだ。
思う存分、互いを滅ぼしあうがいい。
大火が大地を這い、遠方の空には雷が踊る。
風に乗って聞こえる悲鳴と歓喜の調べは、心地よい音色だ。
爆発が夜空を彩って、魔力同士の干渉による波動が様々な模様に変化する。
瞬きの分だけ、景色は姿形を変えて俺を楽しませてくれる。
これが、褒美というやつか……。
「ただいま、フューリ」
突如、俺の隣に現れたのはリゲルだった。
「おかえり、リゲル。彼らの誘導、上手だったよ」
「ほんと?やったあ、ほめてもらえたっ!!」
「オリオンの方はどうだい?」
「それがさあ、ママ、ちっともリゲルとお話してくれないの」
「困ったちゃんだね」
「……フューリッ!!!」
青白い光がリゲルの体から発光したかと思うとリゲルの状態が変化し、
オリオンが弓を俺に構えて立っていた。
「やっぱり、お前だったのか……!!!」
「やっぱり……って、不思議なことを言うね、オリオン」
「全部お前が仕組んだのか?」
「そうだね。でも、僕はただキッカケを与えただけ。戦う意志を君たちが押さえつけていたから、魔導師たちがその気になるのはあっという間だったよ」
オリオンは顔をゆがめ、呼吸も苦しそうにしながら話を聞いている。
宿主から強制的に支配権を奪っているから当然だろう。あまり長くは持たないだろうな。
「何が……目的だ……?」
「強いて言えば、テトラと2人きりの世界を作りたい。かな」
「なんだと……?」
「言葉通りの意味さ。僕とテトラだけが生きる世界。2人だけの世界だから、人間も魔導師も、いらないんだよ」
いらない奴らばかりだ。
俺にとってゴミ同然の奴らだ。
キッカケを与えただけでこうも簡単に殺しあう。
なら、直接俺が手を下さなくても、勝手に数は減っていく。
生き残った奴らを殺すだけで片づけが終わる。
単純で、合理的な世界の壊し方。
それなりに準備はかかったが、時間をかけただけの甲斐はあった。
途轍もない収穫もあったしな。
「……これ以上、お前の好きにはさせない」
「ふふ、僕のことは好きにすればいいよ、オリオン。でも、リゲルにも構ってあげないと寂しがっていたよ?」
挑発するように言った言葉をオリオンはそのまま真に受け、矢を放った。
「貴様ッ!!!」
「流々禍」
ゼロ距離発射の矢でさえ、流々禍の攻撃無効が発揮される。
俺の頭は水となり弾けたがすぐさま元通りに形成された。
「貴様、その力は――」
「もう、うるさいよ。黙れよ、ゴミ屑」
そう言ってから俺はオリオンに一滴の水滴を飛ばし、額でバチンと弾けさせた。
衝撃が強かったのか、オリオンは意識を失い、リゲルに戻った。
「うあああ、いったああい!」
「ごめんごめん。ちょっと煩かったからさ」
「いいないいなフューリはママとお話できて!!」
それにしても、このカンナとかいう女、少々煩いぞ……。
どうにか封じ込めてはいるが、しばらくの間眠れなさそうだ。
まあ、いずれ諦める日もくるはずだ。
お前は、絶対に手放さない。
我慢していれば、いずれ会わせてやる。
だが、そのときお前は…………。
「ふふ……ふふふふ」
「んー、どうしたの?フューリ?」
「いや、面白いことを思いついてさ」
笑いが止まらなくなりそうだ。
次は、いつ、会えるだろうね。
……式瀬陸斗君。
*****
『……りく……助けて……』
*****
――〈クリア・セントラル〉郊外 森林
「はあ……はあ……、うおらあああっ!!!」
これで、何人目だ……。
何故、こいつらは俺に向かってくる?
俺に戦う事を抑制されていたからか?
いいぜ、かかってこい……。
頭冷えるまで、叩きのめしてやる。
――陸斗、俺はお前を待っているからな。
お前が言ってくれた言葉を忘れずに、戦い続ける。
今の俺の希望は、お前の意志だけだ。
だから、頼んだぞ……。
何があっても、お前はお前らしくいてくれ。
絶対に折れてはならん。強く生きろ……。
願わくば、お前たちの世界がいつまでも平和と共にあってほしい。
「しねええっ!!!エッフェンバルトオオオオオオッ!!!」
「雑魚がっ!鬱陶しいっ!!!」
大剣は血に染まっていく。
今の俺のやり方では、到底、世界は変えられない。
だとしても、俺は進む。
未来へ――。
きっと、未来には俺の知らないものがたくさんあるんだろうな……。
……いつか、見てみたいよな……。
*****
――〈クリア・セントラル〉白城 最上階
戦いは始まったばかりだ。もう、戦いを止めたり仲裁に入る邪魔者もいない。
今まで虐げられてきた者は復讐すればいい。
今まで傲慢に生きてきたものは、排除されてしまうがいい。
俺を楽しませてくれよ。
この戦いにもいつか終わりが来る。
そのとき、ようやくこの世界は変わるんだ。
そして、この世界が終わったら……。
無意識に体が震えてしまう。
こんなに気分が高まるのは、生まれて初めてだ。
人間だった頃もそれなりに楽しかった記憶はあるけれど、
今は、本当に幸せだ。
2つ存在する世界の片方が崩壊し、理のバランスが均等でなくなったとき……
いったい何が起こるのだろうな。
楽しみで仕方がない。
それに…………。
「……ふふ、戻ってきたみたいだね」
かつん、かつんと一定のリズムで城内を踏む靴の音が響き、
音は徐々に近づいてきていた。
靴の音が扉の前で止まり、金属を擦り合わせたような金切り音が鳴り止んでから
再び靴の音が鳴る。
やがて、彼女は、俺の隣に落ち着いた。
「……悪い、遅くなった」
白くて長い髪。
褐色の肌。
金色の瞳。
今回の計画で、最も重要な存在……。
彼女と、彼の活躍無しでは、成功はあり得なかった。
「どうかな。いい、眺めだろう?」
――リロウス。
〈episode End〉




