表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『te:tra』  作者: 坂江快斗
94/100

第47話「想いは何もかもを超えていく」




戦いを終えたエッフェンバルトは、子供達の破片と武器を全て拾い集めて

小高い丘にある墓地へ移動する。雨降りしきる中、ぬかるんだ土を手で掘り進め、

1体ずつが入れるように墓穴を作っていく。


墓はイルヴァナの大剣が刺さった隣に6つ作った。


できるだけ元の形に整えながら子供達を墓に埋める間、

彼は何も言わずに手だけを動かした。


彼はまた、ひとりになってしまった。



また、生き残ってしまった。



*****



――――――。



こんなにたくさん眠れたのは、久しぶりな気がする。

水の音も聞こえないし、あの声も聞こえない。

とても気持ちがよくて、頭の中がすっきりしていて、心が楽になる。


どこまでもつづく、まっしろなせかいだ。


静かで、落ち着ける。もしかしたら、最後の夢ってやつかな。


この夢から醒めたとき、あたしはあの子になっちゃうんだろうなぁ。


んー……最後の夢にしては、なんか味気ない……。

もっとこう、走馬灯だっけ?あんな風に今までの人生を振り返るとか、

そんなのが良かったけど。


……あ、そっか。


あたし、別に死ぬわけじゃないもんね。

あたしじゃなくなるだけ……だね。


もう1人のあたしは、みんなと仲良くできるかな。

みんなも、受け入れてくれるかな。

ちょっと心配だ……。


きっと、普通に考えたら、『死んだ方がまし』って思うんだろうけど、そういう気分にならないのは不思議。なんでだろ。このままずっと、自分じゃない自分があたしの体を乗っ取って生きていこうとしてるのに、あたしはそれを許そうとしてる。


だって、どっちもあたし……なんだもんね。

どっちが本当のとかじゃなく、どっちも矢薙沢栞菜だから。


だから、多分、もうひとりのあたしも、彼に恋をすると思う。


というか、恋をしてほしいな。


リクに……。


……………………。


……………。


………。


約束してたけど間に合わなかったんだね、リク。

せめて、もう1度だけ、会いたかった。


今のあたしのままで、あなたに会いたかった。

会って、あなたの答えを聞きたかった。


あの時、リクはなんて言おうとしたの?


もう、知ることはできないの?


どんな答えでも受け止めるよ?

その答えを聞けたら、あたし、心残り……ないから。

でもさ……もし、まるちゃんと付き合うなら……、


……幸せにしてあげてね。まるちゃん泣かしたら、許さないよ?


……………………。


……………。


………。


あたしは深呼吸をしてから、前に向かって進む。

足元も、目の前の景色も、振り返ってみても、右も左も、まっしろ。

確実に1歩を踏み出してはいるけど、景色が何も変わらないから足踏みしてるだけみたいに感じる。でも、じっとしているのは嫌で目的もなくひたすら歩いてみた。


好きな歌手の歌を歌ってみたり、人前じゃ恥ずかしくて言えない様なドラマの台詞を言ってみたり、家族や、友人たちの名前を大声で叫んでみたりした。

自分の声なのに、自分にも聞こえないなんて、結構ショックだな……。

だんだん、消えていってるみたいじゃんか。

ふと、自分の両手を見てみる。ちゃんとあるし、指も動く。


ちょっと安心した。安心するってのもおかしいか。あははは……。


あはは……。


はは……。



……このままずっと、ひとりきり、なんだ。

ずっと、ずっと、ずっと。


ずっと、ひとりきり。



足が止まる。

立ち止まって、膝を抱えるように座った。

できるだけ縮こまって、顔を埋めた。


怖くなんかない。殆ど死んだも同然になるけど、怖いわけじゃないんだ。


ただ、寂しいの。

寂しくて、つらい。

誰ももうあたしの方を矢薙沢栞菜として認めてくれなくなるから。

ひとりきりで誰にも知られず生きていくから。


寂しいよ……。


ねえ、りく……。

はやく、かえってきてよ……。


ばか……。

ばかりく……。


ばか、ばかばかばかばかばかばか!


かえって、きなさいよ……。

――りく。






『―――』






――えっ?


今のは……。


聞こえた。記憶の中にある声じゃない。

本当の、リクの声。


ここはあたしが見ている夢の世界。だから、本物のリクじゃないとしても、

あなたが今、この世界のどこかにいるのなら、あたしはあなたに会いたい。


いるなら、もう1度声を聞かせて!


「りくっ!!」


――『   』


――聞こえた!でも、どこからかなんて分からない。

わからなくてもいい。リクに会えるなら、あたしは走るよ。


「まって、りくっ!!!」


夢の中は動きづらくて何度も転んだ。痛みはないけど足が思うように動かないから全然前に進めない。体全部に重力がかかっているみたいに動きが鈍くなるけど、あたしはリクを探して走った。


リクを見つけたら、多分、この夢は終わるだろう。


そのあとで自分がどうなるかは……、今は考えなくていい。

あたしはひとりじゃないんだって、思えるから。

やっぱり、いつだってリクはあたしの力になってくれる。

こんなにも弱いあたしを、支えてくれるんだ。


最後の最後まで……。


あたしは走る。

声を上げて。

声になってない声は、あなたに届いているかな。


届いているなら、振り向いて。

届いているなら、答えて。


あたしは息を大きく吸った。


「リクーーーーーーーーーっ!!!!!!!」


人生で一番大きな声を出した感覚がある。

相変わらず、この世界では発生されていないけど。


それでも……、あたしの声は彼に届いた。


「……りく」


ついさっき現実世界で見ていた彼の背中が、10メートルくらい前にある。

少し跳ねた後ろ髪が揺れた後、リクはあたしに振り返った。


――『   』


彼の声も、あたしには聞こえない。

口だけが動いていて何を言っているのか分からない。

あたしは近づこうとした。

けど、足がリクとの距離を縮めようとしない。

たった10メートルの距離なのに永遠に縮まらないような気がしてしまう。


リクは軽く微笑み、何かをあたしに向かって話している。


なんて言ってるの?教えて。近くに行きたいの。ねえ、リク――、あたしね――


――『     』

 ――『     』

  ――『     』



どうして……。どうして聞こえないの。あたしの声は、あなたに届いたんでしょう?

こんなにも聞きたいのに。声を聞かせてよ。

あなたが今何を伝えようとしているのか、教えてよ……。


「りく!!!」

――『   』



リクの口が閉じ、また頬を緩めて笑った。

あたしには、口の動きから最後の言葉だけ何と言っていたのかが分かった。


――『ごめんな』


リクは言い終わると歩いていく。動けないあたしに背を向けて。


……ごめんなって、何?どういうこと?

どうして謝るの?なんで?どうして、あたしを置いていくの?


りく……。ねえっ!!りく!!!

置いてかないで!!


リクの背中はどんどん遠くなり、白い世界に同化していくみたいに霞んでしまう。



〈このままここでないてていいの?〉


頭の中でそんな問いかけが聞こえた。

小さな頃の、あたしの声だった。


……もう、泣きたくなんかない……


どうせ終わるなら、笑いたいんだ。


〈おいかけなくていいの?〉


……追いかけたいよ。

追いかけなさいよ、あたし……。


〈きっと、りくもまってるよ〉


……だったら、待ってて。すぐに……行くから。


〈いまも、あのばしょで、りくは、ひとりきりで、まってるとおもう〉


……あの……、場所……。


〈――おねがい。りくを、たすけて、あげて〉


声が消える。

同時に、右足が踏み出せた。


「『あの場所……。

  助けて、あげて……。』」


あたしの瞼が開いていく。

思い出したのは、あの日の光景。

リクが向日葵園の崖から落ちて、大怪我を負った日。

彼女の声が聞こえて、それからあたしは――。


その時、視界が急激に広がっていく。


「こ、これは――」


突然の出来事に一体何が起きているのか分からない。

困惑するあたしを余所に今まで見ていた世界の風景が目まぐるしく変化していった。


まっしろだったせかいに次々と色が塗られる。

緑色、茶色、橙色、黒色、黄色、そして


――赤色。


「こんなこと……って……」


あっという間に何もなかった世界が変わった。

見覚えのある景色。忘れもしない景色が、目の前に広がっていた。


懐かしい匂いとともに、あたしはあの日に帰ってきたんだ。


聞こえてくる川の音とヒグラシの鳴き声。


夕焼けに染まった空には一番星が光って、時折吹く風は生暖かい。

夏の日差しを受けた岩や丸石に残る熱があたしに汗をかかせる。


川の上流のほうである左側から右側へと見渡していくと、

あたしは見えた光景に息を飲んだ。


「――っ」


静かに、穏やかに流れる川のほとりで、



「りく……」



あたしは、血だらけになったリクを見つけたから。



*** ***



……………………。


……………。


………。



……………………。


……………。


………。



……………………。


……………。


………。



……………………。


……………。


………。



いたい……。


……………………。


……………。


………。


からだ……じゅうが、いたい……。


………。


なんで……だっけ……。


それに……、ここ……は……どこ……。


え……、えっふぇん……ばると……は………。


おれ……は…、ま……け……た……のか……。


まどう……しの……せかい……は……。


さっきから……聞こえる……この……音は……、なん……だ……。


みず……の……おと…………?

……せ……み…………?


……………………。


……………。


………。


……………………。


……………。


まさか、ここは………ささぬき……まち……?

……ひまわり……えん………の……がけの……した……?


どうして……、かこに……?


なにが……どうなって――



「りく……、りくっ!!!」



……かんな?



駆け寄ってきた足音はとても小さいもので、半分しか開いてない瞼から見えたのは

あの頃の栞菜でありながら、俺が知る栞菜の姿ではなかった。


長く伸びた蒼い髪、透き通った蒼い瞳、蒼いドレスに身を包み、俺を見つめていた。

蒼い瞳から大粒の涙が零れてくる。


……あの日、俺を助けてくれたのは、栞菜だったのか……。

やっぱり……栞菜は……力を……。



「りく、もう、だいじょうぶだよ……」


俺を……、崖から落ちた俺を……助けるために……、栞菜は……。


「いま、たすけるからね」


あの日から、全部、はじまってたんだ……。


俺がリロウスに出会う前から、ずっとずっと前から……。


「りく……、しっかりしてっ」


こんなに、小さいころから……。

俺を……助けるためだけに……。


なんで……。


なんでなんだよ……。



「りく、めをあけて!いやっ!!やだ!!!」


……どうして、俺なんかのために……。


「やだよぉ……りく……、めをあけて!あたし、りくをうしないたくない!」


……俺は……お前を……失いたくない……。


俺の事故のせいで、お前はお前じゃなくなるんだぞ……。

俺を助けたせいで……。これからの日々、全部、なくしちまうんだぞ……。


「……しなせないからね。ぜったい、たすけるからね」


……やめろ、たすけなくていい……。


栞菜は小さな体で、動くこともできない俺をおんぶしようとしている。

ゆっくり、自分の首に俺の両手を回して両足を掴むと、よろけながら立ち上がる。


細かい丸石に足をとられたりしながら、川下に向かって歩きだす。


一歩踏み出す度に体が揺れるが、俺はもう殆ど意識がなくなりかけていた。


栞菜は息が上がっていても、俺に話しかけながら歩く。


「はあっ……、りく、へーきだよ。びょういん……つれてってあげるからね」


もし……。

もし、これが……最後の夢に選ばれた光景なら……


「はあ……っ、はあっ、あたしね……」


俺は守りたかった……。

この女の子に、こんな想いをさせたくなかった……。


「りくをたすけたくて……がんばったんだよ……」


敗けたくなかった……。

なんで、なんで俺は敗けたんだ……。


自分にも……、あいつにも……っ。


なんで。なんで……っ!!



「はあっ……それにね……、りくに……はあっ……ききたいことも……はあっ」



栞菜……、俺はさ……。



「あるんだ……。だから……、けががなおったら……」



おれは………………………



……………………。


……………。


………。



「……りく?」



……………………。


……………。


………。



「りく……、ねえっ!!ねえってばっ!!」


栞菜……、


「りく!しっかりして!もうすぐだから!!」


……ごめんな。


「まって……」



……………………。


……………。


………。



*** ***



「ねえ、まってよ……そんなの、やだよ……」


あたしはリクを降ろして、抱きかかえた。

まだ、リクの体は温かいのに息をしていない。

眠っているみたいに安らいだ表情だった。


「やだあ、いやだあああ……しなないでよおお、どうしてぇぇ……」


この夢があの日の繰り返しなら、彼は助かっているはずなんだ。

なのに、この夢の中で彼は命を落とそうとしている。


だから、この夢はあの日とは違う。


これは、夢なんかじゃない。

多分、リクに何かあったんだ。

そして、リクは……。


――たすけてあげて


かつてのあたしが真っ白な世界で言っていたのを思い出した。


「あっ……あの願いは、あたしに向けられたもの?

なら、今のあたしにもできることがあるというの……?」


それって……もしかして……。


「あたしにできることがあるなら、教えて!」


あたしは問いかける。彼女に向けて。

あたしを救い、リクを救ってくれた、あの力に向けて。


「……黙ってないで、教えなさい!!!!」


あたしがあたしで無くなった日に聞いた名前。

呼ぶことはないと思っていた彼女の名前をあたしは叫んだ。


「――流々禍るるか!!!」


……………………。


……………。


………。


〈君が……〉

〈まさか君が童の名前を呼んでくれる日がくるとはね〉

〈いいよ。童は君の願いを叶えられる〉

〈君が願えば、彼を助けてあげられるよ〉

〈そのかわり、君はもう……〉


「なんだっていい!!リクを助けられるなら!!」


〈……君は変わらないんだね。それでこそ、童の主だ〉

〈では、君の願いを叶えよう。彼の額に――〉



あたしは言われたとおりリクのおでこに自分のおでこをくっつける。


彼女からの最後の指示にちょっと驚いたけど、1度告白してるし、

言葉通りの想いは持ってる。


待ってて、リク。

今、助けてあげるからね。


いつの間にか、川の音もヒグラシの鳴き声も聞こえなくなっていた。

この夢は、リクと初めて作った思い出だ。

あの夏の思い出が、リクとあたしをもう1度だけ繋げてくれた。


やっとあたしは、本当の1歩を踏み出せるのかもしれない。


心を込めて。

あなたに届きますように。




「愛してる」




――想いは何もかもを超えていくから。




*****



6つの墓を埋めた直後、エッフェンバルトは大きな揺れに見舞われ、

何事かと城の方に向き直る。

すると、大地から天に向かって蒼い光が柱のようにそびえている。


「今度は、何だ!?……あそこは?」


光から放たれる波動がエッフェンバルトに伝わる。

彼は即座に今までの力とは全く異なる違和感を感じ取った。


「いや……奴は完全に殺したはずだ。生き返ったとでもいうのか?」


手に残る骨を砕いた感触を握り締め、光の柱を睨んだ。


「誰かは知らんが、生かしておくつもりもない!」


彼は大地を蹴り、一直線に光の柱へ飛び込む。光の柱に近づくにつれて空と大地の中間付近に人影が見えた。

すでに振りかざしていた拳を、その影に向かってぶち込んだ。


その瞬間、光の柱が消失するとともに大量の水が弾け飛んだ。


「水……?」


間違いなく手応えはあった。だが、彼の拳についていたのはただの水。


〈いきなり攻撃してくるのはやめてくれないか〉

〈まだ、慣れていないんだ。童も、主も〉

〈この器にはね〉


エッフェンバルトが後ろを振り向く。


身長よりも長い蒼色の髪、さらに蒼く光る瞳と眼が合い、再び拳を構える。

一方、蒼い髪の女は肩や首、手首を回し、肉体の動きを確認しているようだった。


「何者だ?」

〈名前を答えたらいいのかな。それとも、敵かどうかを答えたらいいのかな〉


やがて準備運動が終わったのか、蒼い髪の女は雨を降らしている空に向かって右手を伸ばした。


〈水よ、童の矛となれ〉


その瞬間、全ての雨が時間が止まったように空中で静止し、長い髪の女が手の平をエッフェンバルトに向け、ぐっと握ると、数十万発以上の雨粒が彼に襲い掛かった。


「ぐあああああっ!!!!!」

〈ただの水でも高速で打ち込めば、鉛球のようになるのさ〉

「くっ……!!ウオオオオッ!!!」


しかし、エッフェンバルトは物ともせず膨大な魔力を体から放ち、

雨粒を蒸発させた。

息もつかず、長い髪の女の懐に飛び込み、今度こそ全力で右頬を殴りつけた。


――が。


バシャっと水飛沫が散り、女の体は消えてなくなる。


「……はあ、はあ……どういうことだ!?」


彼の慟哭に女はもう1度同じ場所に現れて答えた。

弾け飛んだ水が集まるようにして。


〈無駄だ。童に攻撃は効かない〉

「……な……?」


女は左の手の平に雨粒を収束させていく。

徐々に水の弾丸は大きくなっていった。


〈この世に存在する全ての攻撃は、童には無効だ〉

「そんな、馬鹿な話があるかあああ!!!!」


エッフェンバルトは女の頭部に上段蹴りを放ったが、結果は同じ。

頭が水に変化し、飛び散ってから元通りになる。


「はあ……っ!こ……、攻撃無効の力なんて……」


カッと見開いた眼が水の弾丸を映す。



そして――――



女はエッフェンバルトの耳元で囁いた。



〈童は流々禍。主の願いを叶えにきた〉


自己紹介とともにエッフェンバルトの鳩尾に添えられた水の弾丸を爆発させ、

彼の左半身を氷づけにする。


「――ッ!!!」


〈悪いが、攻撃力は大したことなくてね。楽に死なせてやれない〉



そう言って、流々禍はエッフェンバルトの凍った左腕を根元から粉砕した。





                            to next story is...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ