〈episode45〉彼女は死を望み、彼女は死を許さない
――〈ウェスト〉女王の神殿
〈イースト〉の侵攻が各国に伝わり、〈サウス〉〈ノウス〉がそれぞれ画策を練る中、〈ウェスト〉の現女王であるセネは1人、寝室で横になっていた。
〈大戦〉以来、自身が女王となって治めてきた国家に僅かな亀裂が生じ、世界情勢そのものにも暗雲が立ち込めてきている。〈大戦〉が終結した後、自国が混沌に満ちていたとき助けてくれた者たちもこの100年間の内に例の病で朽ちていった。
唯一の生き残りであり、無二の親友、衛兵騎士団長のクオーネも〈イースト〉の奇襲で死んだと伝えられ、セネの心には途轍もない不安と恐怖が襲い掛かってきたのだった。
先頭に立って動くべき自分が、一体何をすればいいのか、どこに向かって舵を切れば良いのか、”問い”ばかりが浮かび上がり、”答え”を出すための思考を妨げ、パニック状態に陥ったセネは気を失ってしまった。
一番、楽な逃げ道に逃げてしまったのだった。
風が窓を叩き、冷たい空気が支配する寝室に扉を開く音が小さく鳴った。
音ではなく、気配を察知したセネは目を覚まし、まどろみの世界で息を切らした親友の姿を見つけた。
「……セネ、無事か?」
その声によってセネは完全に意識を取り戻す。自身の眼にはっきり映ったクオーネはひどく疲弊し、壊れた赤い甲冑の間からは包帯が覗き、微かに血が滲んでいる。
セネは飛び起きて、クオーネに抱きついて、安堵の涙を流した。
「クオーネ!!……よかった。生きてたのね……、よかった……」
「心配させて悪かったのだ。〈クリア・セントラル〉でエフに介抱してもらったのだ」
「エフ……、エッフェンバルトに?」
クオーネの体から少し身を離し、ベッドに腰掛けて話を聞くセネ。クオーネも隣に促され、腰掛ける。
「ああ。イルヴァナたちの死も本当だった。仲裁できる力を持った魔導師が消えた以上、今この世界で争いが起きたらあっという間に〈大戦〉クラスの殺し合いが始まる……」
「そんな……」
「〈イースト〉の奇襲は巧妙だったのだ。きっと、どこの誰もが『ありえない』って思っているはず。あの〈イースト〉が奇襲を仕掛けたのが何よりもまずいのだ」
クオーネの話を聞き、セネはエッフェンバルトが〈ウェスト〉を訪れたときに話していたことを思い出す。
「やっぱり、諸悪の根源は〈イースト〉?」
「その可能性もあると思う。でも、〈イースト〉だけが企てていた計画なら、イルヴァナやウィズとウィードが死んだ……いや、殺された”事件”が同時に起こっているのが不可思議なのだ」
「クオーネ、あなたもしかして……」
「うん。全部の事件には黒幕がいると思うのだ。しかも、そいつはたった1人で暗躍している。かなり長い年月をかけて。巧妙に〈イースト〉のエミルを唆し、その裏で〈サウス〉や〈ノウス〉にも少しずつ争いの種を撒いていた。そして……」
クオーネはベッドから立ち上がり、セネに対して向き合う形をとりながら言葉を続けた。
「〈イースト〉の兵士が私たち衛兵騎士団の小隊を攻撃したことで、争いの種は一気に芽吹いたのだ……」
風が窓を叩く音が一層強くなる。
全ては何者かの手によって仕組まれていた”罠”だった。
クオーネはそう見立てている。セネ自身も、クオーネの考えをこの爆発的な情勢恐慌に当てはめると辻褄があってしまう。その事実が何よりも怖く感じた。
世界はこんなにも簡単に、崩壊の方向に向かうのか、と。
ならば、自分が女王としてすべき事は何なのか。
クオーネの生存を確認し、落ち着きを取り戻した心には”問い”よりも先に”答え”
が浮かんでくる。
〈大戦〉クラスの争いは2度と起こさない。
かつて、彼女は数多の墓標に誓った。
”自分が〈ウェスト〉を、この世界を守っていきます”
争いを止める。全てを守る為に。
決意を固めた女王も腰を上げる。
「クオーネ、よく聞いて欲しい」
「……はい、女王陛下」
「私たち、〈ウェスト〉は……」
セネが下した決断は、自国が〈クリア・セントラル〉の役割を果たすということだった。
その決断でさえも、フューリの手の平の上から逃れられていないことも知らぬまま、〈ウェスト〉は動き出す。
1度、崩壊に向かってしまった世界はもう、元には戻らない。
ただ、真っ直ぐに終わりへと向かうだけなのだ。
亀裂は広がっていく。
粉々に砕けるまで。
*****
――〈イースト〉
鳴海は翼を広げて、空に向かう。
土壇場で巻き起こしたカマイタチは広範囲に渡っていたらしく、
1つの森が消え去っていた。
〈ふふ、やるじゃない、まるこ〉
「嵐禍のおかげです。でも、まるこは禁止です」
魔導師の世界に来てからようやく一息をつくことができた。
嵐禍とのいつものやり取りが鳴海の心に安らぎを与える。
しかし、敵の気配は消えていない。
「まだ……向かってくるでしょうか?」
〈ええ。ここまできて許してくれる相手でもないわ。だから今の内に最後の一撃を〉
「……はいです」
鳴海はオリオンの魔力が放たれている木片の山に向けて両手を翳す。
次第に風が集まり、両手の中で乱気流を発生させる。
生まれたばかりの竜巻を高密度に圧縮し、ソフトボール程の大きさに整える。
風の弾丸を右手に携え、左手で右手首を掴み、狙うは一点集中。
頭に過る様々な葛藤や抵抗を奥歯を噛み締めることで消し去っていく。
自分が今からしようとしている事は、命を断つ行為なのは分かっている。
だからこそ、この先、後戻りはできない。”命の重み”をずっと背負っていかなければならない。それがたとえ、自分達の世界を脅かす脅威であったとしても。
命だけは、平等に与えられたものなのだから。
鳴海は、狙いを定めてから、目を閉じた。
「――っ!!!」
ぱっと右手が開かれて、風の弾丸が放たれる。
着弾する間際に、風の弾丸は解放され更地と化した大地に巨大な竜巻を起こした。
巻き上がっていく木片や土、泥。
上空から眺める災害の景色に、鳴海は逃げることなく、目を背けなかった。
それが功を奏する。
一瞬、竜巻の中央が光った。
その直後に、尋常じゃない魔力を鳴海は感知する。
まさか――。
鳴海が感じ取った大気をも揺らす魔力は、竜巻の消滅と共に、解き放たれる。
目が眩むほどの光を放ちながら、一矢が鳴海の左の翼を撃ち抜いた。
「きゃあああっ!!!!」
バランス感覚を失い、飛行が不安定になる。錐揉みしながら徐々に落下していく。
〈磨瑠、落ち着いて!飛べなくなったわけじゃない!翼を動かすの!〉
「わ、わかってるです……けど!!」
うまく体勢が整えられずに、地面は近づいてくる。
同時に、もう一本の矢が放たれていた。
〈――まずい!!〉
嵐禍が強制的に鳴海の右腕をコントロールし、矢に向けて風の壁を作る。
が、直撃の手前で矢は分散。防げなかった数本の矢が鳴海の体に刺さって、爆発。
力なく大地に落ちてしまった。
〈磨瑠っ!!!平気?大丈夫!?〉
嵐禍は必死に声を掛ける。すると、傷に痛みながらも返答が返ってきた。
「な、なんとか、生きてるです……。周りの風が助けてくれました……」
四つんばいになりながら、呼吸を整え、前を見る。真っ直ぐ見据えた先に、
背中から4つの蒼い翼を生やしたオリオンが立っていた。
手には三日月型に反り返った大きな刃。
刃の中心に柄があり、弓のように携えている。
「あれは……」
〈傀儡を使ったわけではなさそうね。真の姿ってところかしら〉
「真の……姿……?」
オリオンから発せられる夥しい魔力は、先ほどまでの魔力に比べて異様な雰囲気を醸し出していた。現に、オリオンの周りの切り株や木片は腐食しだしている。
オリオンは右手に持った刃を左肩の上まで持ち上げる。刃は発光し、小刻みに振動していた。
「人間相手に、この姿を晒すことになるとは。笑い者にもならない」
言い切った瞬間に、刃が振り下ろされ、三日月状の斬撃が鳴海に向かう。
「嵐禍!風刃を使うです!あと、翼をっ!!」
〈分かったわ!〉
鳴海の咄嗟の判断で両手には風の剣が握られる。そのまま、斬撃に対し剣を打ち込んだ。激しくぶつかり合う光と風は互いに譲らない。
「うう……っ」
しかし、この状況で分があるのはオリオンの方だった。
鳴海が斬撃に苦戦している隙に間を詰める。
「お前の覚悟とやらは認めてやる……」
鳴海が斬撃に打ち勝ったときにはすでに、オリオンが目の前にいた。
「あっ――」
「だがな、覚悟だけで私に勝った気でいたのなら――」
オリオンは左の手の平を広げ、青白い光を収束させていく。
剣を振りぬき、前傾姿勢になっていた鳴海は次の動きまでに手間取り、無防備になっていた。
「大間違いだッ!!!」
顔を上げた瞬間に左手から放たれた光線が鳴海の右肩を貫く。急所を避けることができたのは周囲の風が鳴海の体を少しだけずらしたからであった。
それでも、拳1つ分の穴が右肩に開き、痛みが波のように押し寄せる。
「ああああっ!!!」
「痛みに狂い、苦しめ!今の一撃で死ななかったことを後悔させてやる」
「後悔なんて……しないです!!」
鳴海は右肩を庇うことなく、オリオンの右頬に張り手を飛ばした。バチンッと渇いた音が鳴り、張り手によって僅かに横を向いたオリオンの視線が戻ってきた。
凍てついた眼光は鳴海を捉えている。
「私に触れるな。人間が」
そして、刃を突き出した。
鳴海は両手で刃の侵攻を受け止めているが、オリオンのパワーに押されていってしまう。ポタポタと両手から血が流れ、刃を伝って地面に沁みていく。
「うう……」
鳴海が耐える間に、オリオンは再び左手に光を集めていく。
その光が放たれようかというとき、嵐禍が叫んだ。
〈磨瑠!いいわよ!翼を広げなさい!!!〉
「ありがとです、嵐禍!!」
息を合わせて純白の翼は広げられた。撃ち抜かれた箇所も修復し、1度の羽ばたきでオリオンの攻撃から逃れることに成功する。
「こざかしい」
オリオンも追う様に翼を羽ばたかせる。スピードは互角だった。
鳴海は上空で身を反転し、オリオンに向かい合う。
「ふっ、逃げないのか」
「逃げるのはもう、やめたですから」
目を逸らしてきたものに、向き合うと決めたから。
鳴海は風刃を握り、真横に一閃。
オリオンは受け太刀せず上半身を反らし剣を避けてみせたあと、
刃を斜め下から上に振り上げてくる。対して鳴海はもう一本の風刃を作り、左手に持って刃を受けてから右手に持った風刃を真っ直ぐオリオンの顔に突き出す。
が、首を傾ける程度に容易くかわされて、受け太刀していた左の風刃が一気に弾かれる。その勢いで後ろに退いた鳴海にオリオンが距離を詰める。
「やああっ!!!」
鳴海も自ら距離を詰め、風刃を縦に、横に、斜めにとがむしゃらに振る。戦い方のセオリーなど知らないけれど、あらゆる参考書を読んだ鳴海には戦術が組みあがっていく。自分の動きに対し、相手がどんな動きをするのか、予測を立てて動きを読む。がむしゃらに振った分は全て避けられはしたが相手の”戦い方”を見るには充分だった。
「そんな攻撃は当たらない」
「当たらなくていいです!」
簡単に倒せる相手ではないからこそ、一撃にウェイトを置く。小刻みなダメージの蓄積は恐らく回復されてしまう。それならば、重たい一撃を与えた方が有利になりやすい。鳴海はその隙を伺っていた。
しかし、隙は簡単に生まれない。オリオンは避けることに飽きたのか風刃を平気で掴み、強く握って消滅させる。すぐに鳴海の襟元を鷲掴みして、パンチの要領で刃を突き出す。
「――っ!!」
鳴海の口から空気が漏れ、左肩から右の脇腹までを刃が切り裂いた。
けれど鳴海は逃げない。恐れない。左腕を伸ばし、オリオンの顔面を掴んで風圧を全力で叩き込む。
「なッ――」
オリオンはモロに食らって軽々吹っ飛んでいく。
「これも、邪魔です!」
鳴海は体に斜めに刺さったままの刃を無理やり引き抜いて、放り投げ捨てる。
直後、オリオンが吹っ飛んだ方向から多くの光線が向かってくる。
「光よりも速く、飛ぶです、嵐禍」
〈りょーかいっ!〉
翼はさらに2枚増えて、オリオンと同じく4枚に。そして、爆発的な風を巻き起こしながら光線の合間を掻い潜っていく。
彼方に浮かぶオリオンは右手で頭部を押さえていた。遠目ではあったが顔面に亀裂が入っているのが鳴海には見えた。
「ウ゛ウ゛ゥ、この……ゴミがアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
オリオンは頭部から右手を離し、両手で光線を撃つ。何百、何千の光線すらも鳴海の速さには届かない。
鳴海は両手に風刃を握りながら、速度をさらに上げていく。
「なぜ……、なぜ、当たらない!?――ぐあああっ」
その時、オリオンの体に異変が起きる。翼に亀裂が入り、左の脇腹からも蜘蛛の巣状に亀裂が広がっていく。痛みに悶え、光線を撃ち込めず、自らを両腕で抱き、崩壊を防いでいるように鳴海には見えた。
「く……、〈朽体病〉……!待ってくれっ!まだ……、まだ、待っ――」
予想だにしていなかった好機が巡ってきた。
オリオンは鳴海のことなど忘れてしまったかのようにもがき苦しんでいる。
その姿を前に鳴海は唇を噛み締め、腕をクロスさせて、風刃を構える。
「はあっ……はあっ……はあっ……っ!」
あとは腕を振り切るだけ。たったそれだけでオリオンは簡単に砕けて死ぬ。
この戦いの勝者となる。なのに、鳴海は最後の一撃で躊躇する。
「体が……クズレる……、ドウして……イマ……なんだ……ッア゛ア゛」
「うう……、ああ……、あああっ……」
もうオリオンの戦う意思は消え去り、自己防衛に意識を傾けている。その姿はあまりにも憐れであり、悲しくもあった。そんな相手に、自分は今からトドメを刺そうとしている。鳴海にはオリオンが必死に生きようとしているように見えてしまう。
故に、唇を噛む力だけが強くなっていき、血が零れた。
「アアッ!!アアアアッ!!」
オリオンの翼が粉々に砕け、さらに絶叫が木霊する。
〈磨瑠!〉
「ううううっ、やああああああああああああああ!!!!!!」
鳴海は目を閉じて、力任せに風刃を握る手に力を込め、そして――。
――――!!!!!!
目を閉じたままの鳴海に伝わった感触は、強い抵抗力だった。
*****
「……えっ……」
何かに掴まれているように両手がびくともしない。
謎の感触に目を開ける。そこにいたのは、
胸に真っ白な剣が突き刺さっている女の子だった。
「間一髪ってとこだねっ、ママ」
「……り、げる……?なぜ……ここに……。お前は……」
「えーっとね、あの地下、つまんないし!出てきちゃったんだぁ」
「どう……やって……」
「ねえ、ママ。今はそんなこと、どーでもよくないかなぁ。ママってば死にかけてるんだよ?あはは、弱ったママ、かわいそおっ!あはは、あはははっ!!」
女の子は鳴海に一切興味を向けず、空中で蹲るオリオンだけを見ている。
依然として、風刃は掴まれたままで鳴海が手放さない限り動かない。
鳴海は意を決して声を掛ける。
「あなたは……?」
「んー?なあに?リゲル、今、ママとお話してるの。あなたじゃないの」
振り向いた瞬間の眼の殺気は鳴海にそれ以上の言葉を飲み込ませた。
リゲルは、ふっと微笑むと再びオリオンに向き直る。
「だめだなぁ、ママ。発症してたのに本気出しちゃうなんて。体もたないことくらいわかるでしょー。お馬鹿さんだなぁ」
リゲルはそういいながら、空いている右手でオリオンの左腕を強引に掴み、砕く。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」
「あははっ!!痛そおっ!!ねえねえ、ママ!痛い?痛いの?ねえっ!ねえっ!!」
むごたらしい光景にもう1度鳴海は声を発する。
「や、やめるです!!」
「……うるさいなぁ、邪魔だよ、お前」
リゲルが鳴海を睨んだ途端、リゲルの左手からオリオンのものと類似した光が発生し、鳴海は吹き飛ばされてしまう。
「きゃああっ!!」〈な、なんなの!?この力は――〉
「もお、せっかくの親子水入らずをさぁ~」
殆ど半壊状態のオリオンを抱えて、リゲルは大地に降り立つ。
「なんの……つもりだ……、リゲル……」
「つもりもなにも、言ったよね?ママを殺すのは、リゲルだよ?って」
オリオンに対し、リゲルは満面の笑みを向ける。屈託のない表情だが、輝きはない。その表情には悪意しかなかった。
「だからリゲルはママを殺しにきたの。よかったぁ、あんな奴に殺されてなくて」
「……ッ」
「苦しい?ママ?リゲルも苦しかったの。ずっとずうーっと、苦しかったの。でも、だあれも助けてくれなかったの」
そう言いながらリゲルは自身の胸に刺さった白銀の剣を抜き、オリオンの胸に切っ先を当てた。
「あの日、ママが嘘をついたから。ママの嘘のせいでリゲルはいっぱい犯されたの」
「……それ……は……」
「仕方なかった。って言うつもりかな?そんな答えじゃ、許さないんだから」
リゲルの表情から笑みが消えることはない。
この状況を心の底から楽しんでいるかのように。
「ママが言うべきは、『仕方なかった』じゃないでしょお?リゲルは、ママの愛が欲しいの。ママの娘としても、〈器〉としてもね」
「……私、には……お前に……くれてやる……言葉なんて……ない……」
「……言ってくれないんだ。こんな時でも『愛してる』って、言ってくれないんだ」
「お前になんて……ぜったいに、言わない……」
「……」
「殺せ……、お前の体を使うくらいなら……死んだ方がましだッ!!!」
「………………………………………………」
リゲルは白銀の剣を少しだけ浮かせてから――
「そっか」
――躊躇することなく、オリオンに突き刺した。
「――ッ!!!」
オリオンの体全てに亀裂が走り、リゲルは剣を抜く。
「じゃあ、ママを殺すのやめよっと」
リゲルは亀裂だらけのオリオンの額に自らの額を近づける。
「何を……」
「ママと1つになるの。嫌なんでしょ?リゲルと1つになるのが。
だったら1つになるほうがずっとママを苦しめられそうでいいかなって。
ママは、ずっとリゲルの中で生き続けるの」
「私は……あの言葉は、言わない……」
「ふうん、ママ、やっぱり知らないんだね。パパから何も聞いていないんだ?」
「……?」
「『愛してる』はただの飾り言葉ってこと」
「えっ……」
「それに、擬似とはいっても〈器〉のリゲルはね、強制的に精神を引き抜く事だって可能なんだぁ~」
そして、リゲルは敢えてあの言葉を口にする。
最大の真心と、憎悪を込めて。
「ママ、世界で一番……」
「やめ……ヤメロォ……ッ」
『あ・い・し・て・る』
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