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『te:tra』  作者: 坂江快斗
81/100

〈episode40〉―――臨界点―――


――クリア・セントラル 王の白城


降りしきる雨はさらに激しく城に降り注ぐ。

オリオンが雷雨の中、〈イースト〉に向かって1時間ほどが経過しクオーネが目を覚ました。治療の甲斐あってか、強襲の際に負った傷はあらかた塞がっていたが、それとは別の傷を見つけ、クオーネは慌ててその部分を手で押さえた。左手の甲だった。


彼女に〈朽体病〉が発症したのは、ごく最近の事だという。

傀儡は持っているか?との問いに頷いたが、クオーネの視線は窓の外だけを見つめていた。〈ウェスト〉が気になるんだろう。


俺は子供達に元の部屋に帰るよう指示を出して、クオーネと2人きりになる。

改めて、何があったのか聞いた。


「襲われたのはいつ、どこでだ?」

「奴らが襲ってきたのは昨日だ。〈ウェスト〉を出国したのは一週間前。襲われたのは〈イースト〉の国境付近」


ここに来るまでに起きた出来事をゆっくりと語る。憔悴が滲む表情は自身が傷ついたことよりも仲間を失ったことが原因と見えた。


「でも、おかしいのだ・・・」


クオーネが悔しさ交じりに言う。俺も首を傾げた。


「私達が情報を入手して国を出たのが一週間前。5つの小隊に分かれて出発したのだ。そして〈イースト〉小隊が撃破されたのが4日前。その連絡を聞いたのが襲われる2日前・・・」


俺はすぐに察した。〈イースト〉の対応があまりにも早すぎる。

まるで――。


「まるで、私らが来るのを分かってたみたいだったのだ・・・」


加えて、襲う準備もしていた・・・。

俺はクオーネにエミリアという男の事と、フューリの事を話した。

クオーネたちが聞いたシルフィンの少女の話は、恐らくエミリアが流したものだと断定する。指示を送ったのはフューリ。フューリの頭の中の計画に”〈ウェスト〉が調査隊を各国に送る”という筋書きがあったのかどうか、今となっては分からないがたとえ予定が狂ったとしても他の作戦を立てていたに違いない。奴は用意周到かつ粘着的執念をこの世界に来たときから持っている男なのだ。


「全て、彼らの思惑通りに事が進んでいる。気づくのが一歩だけ遅かった」


いや、遅すぎた。現に歯車が崩壊に向けて動き出してしまっている。

〈イースト〉以外の国の動きがまだ読めないが、オリオンが〈イースト〉と〈ウェスト〉の中正を取り持つことさえ出来れば、まだ状況は打開できるかもしれない。

他の国が今回の事件に反応を示していなければの話だが・・・。


クオーネは赤い甲冑を足元から取り付けていく。横顔に彼女の母の顔を思い出した。


「まだ、万全ではないだろう?安静にしておけ」

「仲間が大勢やられたのだ。なのに私は生きている。団長として守れなかった証拠なのだ。一矢を報いたい」

「話を聞いていなかったのか?今、余計な荒事を起こせば他国が・・・」


その時、クオーネが壁を思い切り殴った。亀裂の入った左手で。


「分かっているっ!分かっているからこそ、もどかしいのだ。エフ・・・、お前にも分かるだろう?」


俺は時間を置いてから頷いた。かつての俺も同じ気持ちだったときがある。目の前に選択肢を提示されている瞬間だ。


「セネにも誓った。必ず帰ると。〈イースト〉のことはオリオンに任せる。一旦国に戻り状況を立て直す」

「その後は・・・?」


クオーネは壁に打ち付けた左拳をさらに強く握り締めた。


「私が従うのはセネだけなのだ」


動き出してしまった歯車は、そう簡単には止まらない。と予感した。



*****


――〈ウェスト〉王都・カリヴェラ 神殿


各地の小隊から入る情報は、セネにとっても〈ウェスト〉にとっても芳しくなかった。

特に〈イースト〉小隊の全滅は衛兵たちに衝撃を与え、一時神殿内は騒然とした。

また、〈クリア・セントラル〉に向かったクオーネたちの所在が不明となり後の情報で全滅したと聞いたとき、セネは耐え切れず卒倒した。


――クオーネが死んだ。

――衛兵団長が死んだ。


誰が漏らしたのか、この情報は瞬く間に国民に知れ渡り、神殿前の広場には多くの民が押し寄せる。

国中が〈イースト〉に対する反国の色に染まっていくのに対し、セネは幼き頃からの親友の死を受け入れられずにいる。


必ず帰ると約束した、衛兵騎士団長が死んだ。

約束は必ず守ってきた親友が死んだ。理由も分からず、〈イースト〉小隊の応援に向かって殺された。


神殿の外から聞こえてくる怒号と悲しみの声が彼女の心を蝕んでいく。

セネの中には2つの想いが介在し、葛藤する。


――だめ。あの過ちを繰り返すことになる。

――許さない。〈イースト〉を滅ぼしてやりたい。


頼れる者はもういない。

私が何とかしなければ。私がこの国の女王なのだから。


母も、姉も為し得なかったことを私が――。



私が―――ッ!


*****


――〈サウス〉国王宮殿


外壁の強化及び武器の精製を進める兵士達。

国王ガイアルが見つめる視線の先には、かつて共に”滅び”を経験したはずの国がある。〈ノウス〉で大量の武器が精製されているとの情報は先日耳に入ったばかりだった。

何の為か。誰の指示か。決まっている。戦闘狂いの国王・ハーディだ。


我々の元にクリア・セントラルの情報が舞い込んできたということは、この世界全土に知れ渡っている情報に違いない。だとすれば、〈ノウス〉の動きはこれを機に乗ずる侵略への準備だ。


ガイアルにはまだ拭いきれていない違和感が残っていた。

全ての出来事が、導かれるように発生している点だった。

何かがおかしい。その何かが何なのか。どの国よりも先に掴まなければ最悪の事態が訪れる可能性さえある。

どんなに争いが絶えない世界だろうと、あの悲劇惨劇を繰り返そうなど愚の骨頂だ。何故、奴らはそんなことも分からないのだ。ガイアルは奥歯を噛み締める。


しかし、彼の想いはここでも通じない。

模造の太陽がぎらぎらと照りつける中、ベリアルが持ってきた情報に項垂れた。


予想もしていなかった〈イースト〉の〈ウェスト〉に対する先制攻撃。

ガイアルが思っていた以上に世界の時間は恐ろしい速さで進んでいたと実感する。


――動くべきか。まだ、動かざるべきか。


ガイアルは、そっと腰に据えた剣の柄に手を触れた。



*****


――〈ノウス〉山岳の要塞城


その日、ハーディの機嫌は兵士を2人、意味も無く殺してしまうほど悪かった。

武器の精製が遅いせいもあったが、一番はまだ戦火が上がる兆しが見えなかったからである。どの国も牽制しあっているのか、一向に現状が変わる様子が無かったことにハーディは底知れぬ怒りを覚えた。


ようやく、心置きなく殺し合いが出来る世界になったというのに何故戦わない?


彼には不思議以外の何物でもなかった。

〈ノウス〉の狂ったような厳寒は、武器の保管には向いておらずどんなに精巧に作った武器もすぐに駄目になってしまう。故に、武器の精製は戦闘直前に行わなければならないハンデがあった。作業の遅さは日に日にハーディの怒りを募らせていく。


ついに我慢の限界を超えた彼が向かった先は、ステア村の武器職人・クーの所だった。どういうわけか、クーは大量の武器を精製していたのである。クーは「ある筋に頼まれた」として、武器を押収しようとするハーディに拒否を示したが、村全体を人質にとられ為す術が無くなってしまう。クーは村の安全と引き換えに要塞城に向かい、武器の精製に尽力することになった。


クーの精製技術により、量・質共に申し分のない武器が出来上がるとハーディの機嫌も良くなり、さらに彼にとっては吉報と言える情報が入ってきた。


狼煙を上げたのは〈イースト〉!ついにこのときが来た!

ウィザードに壊滅させられた悪夢、〈大戦〉で負った数多の傷、これまで虐げられてきた〈ノウス〉にとって今回こそが世界掌握に向けての前進の日であると、ハーディは高らかに宣言する。


戦いに飢えた戦闘兵たちは、勝鬨を上げてそれぞれ散っていく。

ハーディもまた、不敵な笑みを浮かべた後、意識を〈サウス〉に向けた。



*****



――〈イースト〉王宮


国民からの大批判にエミルは耳を貸さなかった。

今も、玉座に座り片肘で頬杖をついている。今のエミルに国民の声は心底どうでもよかった。彼が欲しいのは新たな情報。

先日、裏切り者・エミリアが残した情報は正しく、本当に〈ウェスト〉の衛兵小隊が〈イースト〉の地を踏んだ。同時に、〈イースト〉からも各国に兵を送り込み先手を打つつもりでいた。捕らえた衛兵小隊は有無を言わさず殺害し、異変を知り駆けつけた衛兵騎士団長の小隊にも辛酸を舐めさせた。騎士団長だけを取り逃がしたようだが、彼は特に気にも留めなかった。


エミルの独断専行は各地に大きな波紋を呼び、各国に送り込んだ兵士から多くの情報を手にいれ次の動きへと移行する。

彼の狙いは〈ウェスト〉の蹂躙、ただひとつ。

大儀よりも私怨の方が大きい彼には、もはやセネの首をとることしか考えられない。

自分自身のプライドを守るために。


しかし、問題が起きる。全軍への侵攻を告げた直後、国民による内乱が勃発したのだ。国民のその行為がエミルの逆鱗に触れる。


邪魔をする者など、斬って捨ててしまえ。


彼の一言が、〈イースト〉の内乱をさらに激化させていった。



*****



――〈クリア・セントラル〉子供達の部屋



セナたちが部屋に戻ると、ラナのベッドに3つの膨らみがあった。どうやら眠っているらしい。マナがそおっと毛布を覗くと、ラナの右隣にはルナが、左隣にはレナが寄り添うようにして眠っていた。むにゃむにゃと指を加えて眠るルナを見て3人は微笑んだ。毛布を掛け戻すと、3人は部屋を出る。


いつも訓練を行うホールでドナが口を開いた。聞かれるのはまずいと、小声で。


「なあ、どうする?」

「どうするって?」


セナが答える。セナにはドナが言いたいことが分からなかった。


「このまま、ここにいて良いのかってこと」

「でもでも、お父様にはここにいろって・・・」

「お前、この世界がどうなってもいいのかよ」


ドナの強い口調にセナは臆してしまう。自身の武器である杖をぎゅっと抱きしめた。


「だって・・・」

「ドナの言うことも分かるけど、お父様の言いつけも大事だけど・・・」


マナもどうすべきか迷っている。3人は何とか父であるエッフェンバルトの力になりたいと思った。しかし、どう動くべきか考えが及ばない。加えて、外は雷雨の嵐。

魂を分け与えられた傀儡でしかない彼らには遠出は危険だ。


「よし、お前らが行かないなら俺だけでいく」


迷いもあるが、ドナの決意は固かった。それに自信もあった。以前、国外調査を任されたとき、ドナはエッフェンバルトが眼を丸くするほどの成果を挙げ、彼の事を褒め称えた。ドナはそのことが嬉しく、忘れられなかった。父からの愛を感じることが出来た瞬間だったから。


「でもでも、ドナ・・・あぶないよ・・・」

「でもでもってばっかりのセナは残ってラナの面倒を見てればいい」

「でもでも・・・」


セナとしてもドナを1人では行かせたくない。だが、自分にはドナほどの固い決意がないのも知っていた。


「マナも残るんだな?」


狼狽えるセナを置いて、ドナはマナに問う。彼女の答え次第では1人での旅になる。


「マナは・・・、どっちでもいいけど・・・。やれることやるけど・・・」


マナも、本心では父の為という想いが強かった。いつも子供達のために尽くしてきてくれた父が困っているのなら、自分がやれることをやるまでだ。マナはそう思った。


「じゃあ、俺とマナで行くか」


2人はこくんと頷きあう。いまだにセナは迷っていた。


「セナ、無理はよくないけど・・・。待っててもいいけど・・・」

「でも・・・でも・・・」


一番の年長者として、今自分が出す答えは重要だと知っているからこそ最後まで悩む。任務の成功保障なんてない。かといって、何も出来ないわけではない。

セナは、ふと父に初めて会ったときのことを思い出す。

くたびれた研究室で、父は優しく抱きしめてくれた。多くの時間を自分達に注いでくれた。いつか返したいと思っていた恩。返すなら、今しかないんじゃないのか・・・。


セナの迷いが、ほどけていく。父や兄弟たちがいない世界になんてしたくない。

これからも家族と生きていきたい――。


「セナも」


とても怖いけれど、ここで逃げたら後悔する気がした。


3人は手を合わせ、団結する。

そして、父には内緒で国外調査に向かった。


3人とも、帰ったら父に怒られるだろうなと想像して。



*****


――〈クリア・セントラル〉城外


雷雨は一向に止む気配がない。

子供達の様子も気になるが、エッフェンバルトはフューリの死体回収に向かった。

回収というより、確認か。


打ち付ける雨は冷たく、見上げれば龍の如く稲妻が空を舞っていた。

瓦礫の山は健在で、雨により血は殆ど流れていったらしい。


上の方からひとつひとつ瓦礫を取り除いていく。

山が小さくなっていくにつれて、エッフェンバルトの表情は曇っていった。

やがて、瓦礫の山は消え去り、そこにあるはずの死体も無くなっていることを知ると彼は両膝に手をついた。


「フューリ・・・あの攻撃を受けて生きているはずが・・・」


そう思いかけて留まる。彼は魔導師とは一線を画した存在。〈主様〉に選ばれた器なのだ。同じ尺度で図ってはいけない。自分に何度も言い聞かせた。


――生きているのなら、もう1度今度は確実に殺すだけだ。


しばらくその場に立ち尽くした後、城内に戻った。



*****


――〈クリア・セントラル〉子供達の部屋


「・・・ふわあああ」


意識が覚醒すると同時に、大きな雨音がラナの耳に入った。両隣からはすうすうと小さな寝息が聞こえてくる。ちょっとだけくすぐったかった。


「まだ、雨止んでないんだ・・・」


それに朝でもなかったので、ラナは再び眠りにつこうとする。

瞼を閉じたときだった。


――おいで。


「ん?セナちゃん?」


また瞼を開けてきょろきょろと部屋の中を見渡したがセナの姿は見えなかった。ドナとマナもベッドには入っていない。


――こっち。


今度は少し大きめに聞こえた声。ルナとレナが起きない辺り、自分にしか聞こえていないとラナは思った。

声は、自分を呼んでいる。


――おはなし、しましょ。


声は暗い奥底にある場所から聞こえる感じがする。ラナは2人を起こさないようにベッドから抜け出し、痛む体を引きずって部屋を出た。


――はやく、きて。


「どこぉ・・・?」


ラナにとって久しぶりの部屋外だった。何度も後ろを振り返り、誰もついてきていないことを確認する。声がする方向を頼りに歩いて、辿り着いたのは地下へと続く階段。


――ずうっと下にいるよ。


一段一段、暗い中を降りていく。

ラナの足音が壁に反響して怖さを増徴させた。


「どこまでおりればいいの・・・?」

――いちばん下まで。


その後、声は何も言ってこなくなった。

ラナは壁伝いに、階段を下りていき、やがて暗闇の奥底に消えた。



*****


――〈クリア・セントラル〉城内


エッフェンバルトがクオーネのいる病室に帰ってくると、クオーネは雨具を体に被り、今すぐに出立しようとしているところだった。


「おい、まだ万全ではないだろ!雨もまだ止んでいない!」

「すまないのだ。時間が惜しい。すぐにでもセネに無事を伝えたいのだ」


雨具を完全に装着し終える。壁に立てかけてあった長槍を手に取り、エッフェンバルトの方に向いた。


「世話になった。また会えたらと思うのだ」

「本当に・・・この嵐の中を行くと言うのか?」


クオーネは頷くだけ。すぐに背中を向けて歩き出した。


「クオーネ!!」


彼女は立ち止まって、一瞬だけエッフェンバルトをみると少しだけ微笑んで見せた。

本来であれば、無理やりにでも彼女を引き止めるべきだ。

だが、彼にはそうすることが出来なかった。彼女が騎士としての誇りを母親であるクレアから受け継いでいる以上、尊重せざるを得ない。せめてもの報いになるのなら。

きっとまた後悔する。分かっていても、体は動かないままだった。


エッフェンバルトは深く溜息をつく。

今、世界各地では何が起きている?フューリはどこにいった?オリオンは無事か?

自分はこの場所に留まったままでいいのか?クオーネのように行動に移るべきではないのか?様々な考えが浮かんでは飲み込んだ。

歯を食い縛って自分に言い聞かせる。自分が今やるべきことは、ここで待つことなのだと。


もう1度、溜息を吐いた後に彼は子供部屋へと向かう。


そこで全く予想していなかった出来事が起きた。


「セナとマナとドナは・・・」


いるはずの3人がいない。

いつもなら寝ている時間なのに、3人の姿は部屋中どこにも見当たらなかった。

慌てて、寝ているルナとレナに声を掛けようとしてもうひとつの事実に気づく。


「ラナ?」


病に伏しているはずの子までが消えていた。

急いでルナとレナを起こし、事情を聞くが2人は何も知らなく、同じく慌てふためいた。

いなくなったセナたちについては、何となく予想がつく。黙って国外調査に行った可能性があると。

まだそんなに遠くには行っていないはずだと思い、エッフェンバルトはラナ捜索をルナとレナに託し、自身は再び雷雨の中に飛び込んだ。


かつてないほどの天候不良にも怯むことなく走る。彼らが向かうとするならまずはどこだ・・・?

こうしている間にも遠ざかってしまう。嫌な予感を振り切るように、走る速度を上げた。

名前を叫んだ。何度かき消されようとも叫んだ。


なぜこんなことになってしまったのか。もっと注意深く見ておかなかったのか。

頼むから戻って来い!俺の傍を勝手に離れるんじゃない!


いつの日か、同じことをしていた。

あの時も、彼は大切な者を見つけることは出来なかった。


そうして得た”家族”。愛する者が残してくれた子供達。


失うことはもう嫌だ。ただいつまでも一緒に生きていきたいだけなのだ。


雷雨の中、リンフィルを駆け抜けたが手がかりすら見つからなかった。

国外に出ていたとしたら、もう追えない。


ラナのことも気になる。ルナたちが見つけていればいいが。彼は雨の中途方に暮れる。願って叶ったことなど、今まであっただろうか。


それでも願うことをやめない自分がいささか滑稽だった。

帰ってきたら、叱ってやろう。そして思い切り抱きしめてやろう。


だから、帰ってきてくれ・・・・・。


空を仰いだ。


真上から滝のように雨が彼の顔めがけて落ちてくる。











             そして、その時は来た。











――――ビキィ・・・―――ッ



暗黒の雲が渦巻く空に、


巨大な亀裂が入ったのを、


彼はその眼で確かに見た。



「あれは・・・なんだ・・・?」



亀裂はさらに大きく広がっていく。



エッフェンバルトには、その音が

〈朽体病〉で死にゆく者たちの音に似て聞こえた。




*****





「おかえり。ユーマ」



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